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死逢わせ  作者: 夏目 莉々子
いちごミルク
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いちごミルク⑭

『あんなこと』


 生きたいという気持ちがより強くなったことで、ヘルは春日縁の死んだ原因を責めた。

 事故死、いちごミルク、マスコットキャラ。

 一つ一つ思い返していき、最終的に辿り着いたのは佐倉結衣。

 縁が死んだのは結衣のせい、全てはあいつのせい。そうなんだろう? そうに決まっている。いずれにせよ彼女に会えば全てわかるはずだと、生きていた時の記憶を頼りに会いにいった。殺すために。


 仕事は放棄。と言うよりは仕事をするという頭がなかった。

 人間界へ移動中、人生を奪った存在をどう消そうか必死に考えた。

 跡形もなく消し去ってやろうか、それとももう二度と転生できないように修復不可能な形にして永遠に苦しみを与えてやろうか。

 残虐で悲惨な光景を想像して笑みさえこぼれていた。

 思考が狂い始めているのにそんな狂気が心地よくてたまらなかった。


「ここに来るのは久方ぶりだ」


 人間の世界では縁が死んでどれくらい経っただろうか。当時と変わらない街並みは郷愁を誘った。ドクンドクンと、胸が高鳴るような高揚した気持ちが軽やかな足取りとなる。

 そうしてまっすぐと佐倉家に向かっていると早く殺したくてうずうずとした。

 ふと、目の前の交差点には三人の人間がいるのが見えた。

 まず先にこの人たちから殺してしまおうかと少しだけ考えた。一番右の男性は心臓を刺し、その隣の女性は魂を握り潰そうか。小さな子供は目の前で突然死んだ二人を恐怖に満ちた顔面蒼白で見るのだろう。それが極限まで達したタイミングで殺すのもまた楽しいだろうな。

 だがそれにより佐倉結衣が警戒し、居場所を特定できなくなるような事態になれば意味がない。

 となると、先にこの手で彼女を血に染め上げてから他の人間を殺してもいいだろう。

 ああ、なんて愉快だろう。早く会いたい。会いたいよ、結衣。



 だが、辿り着いた目的地で、いざ本人を目の前にするとそんな考えは一気に吹き飛ぶ。


「そうそう、駅前の。え〜いいじゃん。けちんぼ!」


 記憶の中の彼女と目の前の彼女が微妙に一致しない。

 あの頃に比べてふっくらとした容姿、髪もこんなに長かっただろうか。一人で外を歩いて、こんなに大きな声も出せただろうか。

 それに、元気に明るく笑っている。

 どこか出かけていた帰りなのだろう。彼女は誰かと通話しながら、そのまま家の中へと入っていった。

 ヘルは瞬き一つせずその様子をじっと見つめていたが、やがてたまらずその場にしゃがみ込み震える両手で顔を覆った。

 何があいつのせいだ。人生を奪った存在? そんなわけないだろう。

 何が、何が『あんなこと』だ。

 自分がいかに馬鹿なことを考えていたのか、実際に結衣に会って愚かな思考を呪った。目頭がじんと熱くなり、迫り上がってくる感情が指の間から勝手に溢れ出た。


「っ、く……」


 よかった。

 生きて、そこにいる。


 ただそれだけだった。

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