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死逢わせ  作者: 夏目 莉々子
いちごミルク
24/54

いちごミルク⑬

「……たい、死に、たい」


 やっとの思いで死神界へと戻ってきたが、ヘルの表情はいつにも増して暗く、覇気がない。

 それは誰が見ても一目瞭然で、普段他人に関心のない死神たちがヘルの姿を見てギョッとするほどだった。だからといって誰も助けるわけではない。触れてはいけないと距離を置くため、結果的にいつもと同じ風景だった。

 最近は同調を受け入れ、穏便に魂を運んでいたというのに早乙女リラの魂は徐々に逃げ場を無くしていくかのように死神のヘルを責め立てた。

 こたえられない言葉を並べ、自分を大切にしてくれる一番を探し、そしてその人と永遠に一緒にいるために死にたい。

 彼女の生い立ちがここまで歪ませた。周りが、環境が、寄り添うことをしなかった。


 死にたい、死なせて、死ななきゃいけない、お願い、もう生きていたくない。

 いっそのこと、誰か殺して。


 そんな言葉で頭の中を埋め尽くされながら、こびりつこうとする魂を適切と呼べるか不明な問答で剥がした。。正直何をこたえたかなんて覚えていない。よくここまで運べたなと思った。

 届け先の死神統括部までくると、同じように魂を届けにきた死神複数名とすれ違う。いつもであれば他の死神を見る余裕があるが、今回は他に意識を向ける余裕がなかった。

 この魂にヘルの全て注がないと、またすぐに意識を持っていかれる。

 いや、ほとんどもう持っていかれているようなものだった。


 ようやっと受け渡しの順番が回ってくきた。魂を手放すその瞬間まで指先に神経を注ぐ。

 氷のように冷たく、時折刺す痛みを伴う、ドロドロに溶けたアイスのようなそれはヘルの手からスルッと離れた。

 まるで新たな居場所を見つけたかのようにアッサリと。

 それでいてヘルにしっかりと爪痕を残していく。先ほどまで感じていた『死にたい』と言う気持ちはすぐに薄れていったが、緊張しているわけでも寒いわけでもないのにカタカタと全身が震え、動けなくなった。他の死神に迷惑になるから早くこの場から離れようと思っていても、しばらく足が全く動かず、その場に座り込んでしまった。


「終わ、っ。大丈、夫、だから」


 時間が経つと少しずつだが息苦しかった体が楽になる。死者の魂が離れたと実感してくると、震えも止まり、立ち上がることもできた。

『死にたい』という気持ちも完全に消え、いつも通り、あの感情は理解の出来ないと思考が回るようになる。


 だが『生きたい』という気持ちだけは根強く残っていた。


 生きたい、生きなくちゃいけない、死にたくない。

 だからお願い、もう一度だけチャンスを。


 この狩りがなければ気づくことのなかった小さな気持ち。死んだこと自体は初めから受け入れていた。事故死は仕方ないと思っていたし、どうすることもできないとわかっていた。

 むしろ色んな魂を見てきたおかげで春日縁はマシな死に方だったとさえ思っていた。

 だからヘルの中で燻っていた生に対する小さな気持ちが、早乙女リラによって形を成し、より大きくなっていた。


 生きたかった。どんなことをしても人間として生きたかった。

 あの日あの場所へ行かなければよかった。

 ポイントを貯めるために苦手ないちごミルクを無理して飲むことなんてなかった。

 そしたら事故に遭うことはなかった。死なずに今も生きていたはずだった。


『あんなこと』のために死んだのか。

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