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死逢わせ  作者: 夏目 莉々子
いちごミルク
20/54

いちごミルク⑨

「次は誰にしようかなあ?」


 その後も吉良鏡也は縛られている人を殺して、殺して、殺した。返り血を浴びて悦に浸る光景もしばし見受けられた。正直気持ち悪い。吐き気もしてきた。胃から迫り上がる空気がより一層気分を悪くさせた。

 死神は体調を崩さない。でもこれは見えているだけで気分を悪くさせ、体調を崩しそうだった。


 今までの任務がどれほど恵まれていたか。そんなの比べるまでもなく酷い惨劇だった。


 ここにきたときは誰も死んでいなかったのに、今はもう吉良鏡也と一番初めに起きた女性の二人だけしか生きた人間はいなかった。残りの六人は死体となって床に転がっている。

 死体の全て首元を鋭利な刃物で滅多刺し。死ぬ間際に抵抗した者は体には複数の打撲痕にありとあらゆる体液がそこかしこに飛び散っていた。

 むせ返るような血の匂いが部屋中に充満しており、床本来の色がわからないほどに赤黒く染まっていた。


「あと一人」


 返り血で真っ赤に染まった彼は女性を視線で捉えると、他の人とは違ってガムテープを剥がした。乱暴な剥がし方だったため女性の唇から血が溢れ出る。

 でもだけど、そんなことよりも。目の前の殺人鬼が恐ろしくて口から血が出るよりも早くここに逃げたい一心で女性は助けを求めた。


「誰か助けてぇえ!」


 やっと声が出せるようになった彼女はとにかく必死に吉良鏡也から逃れようと叫び続けた。


 そしてこのタイミングで吉良鏡也が死ぬまであと一時間となった。

 ヘルは震える手でペンを取り、魂回収までの記録をし始めるが、正直何を書いているのか自分でも分からなかった。

 だがやらなくてはいけない仕事だからととにかく集中してペンを走らせた。

 声が枯れても、息がぜえぜえと乱れていても女性は叫ぶことをやめなかった。

 しばらくその光景をじっと見ていた吉良鏡也だったが、段々と興味をなくしていき、はあと深いため息をついた刹那、女性の喉元に刃物を突き立てていた。


 その瞬間、女性の叫び声は止んだ。


「……はぁっ、ぅ」


 声にならない声が漏れた。

 ヘルは自分の首元を抑え、息を詰まらせた。

 自分が刺されたわけじゃないのに激痛が走り、苦しかった。浅い呼吸を数回繰り返し、口の中はカラカラに枯れ、吉良鏡也へ焦点が合わなくなった。


「酷なことをするね」


 メアリーがヘルの落としたノートとペンを拾い上げた。そしてそれらをヘルに無理やり渡す。


「君、任務はちゃんとやらなきゃダメだよ?」

「あ……っ」

「ほら、ちゃんと持って。書く手を止めないで」


 無理やりペンを握らせ、文字を書かせる。字が歪んで何を書いているのか読めない。それでも書かされ続けた。


「吉良鏡也の状況をしっかりと書くの。それが任務。君には彼の死を見届ける義務があるの」

「……っ」

「彼は今何をした? 女性の喉に刃物を突き立ててぐりぐりと抉っているよね? 細かく記載して。ほら、引き抜いた。もう一度刺した」


 メアリーの言葉を聞きながらノートに記し、また状況を確認する。正直言われるがままに書いていた。もしメアリーがいなかったら手は完全に止まって、最悪、この場から逃げ出していただろう。


 こんな酷い任務にヘルは唇を噛み締めた。

 今までたくさんの魂を見送ってきたが、こんな人いなかった。みんな穏やかに天に昇って行き、ヘル自身の心も穏やかだった。


 これが殺人。これが人の命を奪うということ。女性が死ぬまで震えながら吉良鏡也の動向を観察し、記録を取り続けた。

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