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死逢わせ  作者: 夏目 莉々子
いちごミルク
19/54

いちごミルク⑧

 今回は初めてということで魂回収の二時間前に現場入りした。

 数年手付かずのまま放置されている廃ビルの一室。そこにはすでに先輩の死神が任務にあたっていたようで、記録を取る後ろ姿が目に入った。


「お疲れ様です」


 声をかければ、先輩はすぐに振り返りヘルに応えた。


「あ~アイが言ってた子だね。私はメアリー。よろしくね」


 黒の長いストレート髪が印象的なその人は、ヘルの目を見てにこりを微笑みながらもペンの動きが止まらない。確実に現場慣れしていた。それに位の高いアイを呼び捨てにしているところを見ると、割とベテランであることが窺える。


「君、殺人現場は初めてだよね? じゃあ今すぐに覚悟してね」


 そういうメアリーの記録の先でのっそりと何かが動く。よく目を凝らしてみると、落ち着かない様子で部屋中をうろうろとする人間がそこにはいた。フーッフーッと息は乱れており、瞳孔は開き切っている。


 明らかに興奮状態のその人間が吉良鏡也であることは一目瞭然だった。


(生きている人間、なんだよな?)


 漫画や映画の世界で見たことはあっても現実では一切目にしたことはなかった。

 死神になって、今まで担当してきた任務でも心穏やかになるものしかなかったため、目の前にいる人間が人間として認識できない。怪物、ゾンビ、幽霊といわれた方がまだしっくりくる。それくらい異質な存在を放っていた。吉良鏡也という人間は。


 しばらくうろうろとしていた吉良鏡也の動きが突然ピタリと止まった。彼の視線が下に向くと、ヘルも合わせて視線を下にずらす。そこには黒くて大きな物体が複数あり、それが人間であることをヘルはこの時初めて認識する。

 手足をロープでキツく縛られ、口にはガムテープ。衣服や髪は乱れており、無理やりここに連れてこられた、そんな状態で床に転がっている老若男女が七人。

 隣で記録を取り続ける先輩の音がやけに耳に響く。ブツブツと何かを数える声も聞こえてくる。その数は少しずつ減っている。

 きっと……いや、絶対にこの人たちは今から殺されるんだ。

 ずっと下を向いていた吉良鏡也が顔を上げ、虚空に向かってニタリと微笑む。その直後、一番近くに倒れていた女性の頭を鷲掴みにした。

 その衝動で女性は目を覚ます。ぼんやりとした意識の中で吉良鏡也を認識すると、すぐに恐怖に怯えた目の色へと変わった。


「~~っ!」


 悲鳴をあげようにも口にはガチガチのガムテープ。手足も縛られ自由はなく、吉良鏡也に掴まれているせいで逃げることも叶わない。恐怖に震え、無様にも泣き顔を曝け出す。そんな彼女を満足げに見つめる吉良鏡也は狂気そのものだった。


「そんなに震えてどうしたんだい? 自業自得だよ?」


 その言葉に彼女は何かを訴えるかのように唸り声を上げる。しばらくよくわからないとでも言わんばかりにきょとんと彼女を見つめていたが、やっと理解したのか二、三度頷くと。


「ああ、お前は一番最後に殺すからね」


 全ての光景を見せるために起こしたんだよと笑顔で言葉を付け足した後、掴んでいた頭から手を離す。

 今はまだ大丈夫だと安心した彼女の前で、まずは一人と幼い少女の首をなんの躊躇いもなく刃物で突き刺した。吹き出した鮮血を浴びた彼女は、その血の生温かさに再び泣き叫んだ。


 刺された少女は痛みと熱さで目を覚ます。自分の身に何か異常なことが起きていることを認識したようだが、吉良鏡也がその後続けて何回も首を刺したため、すぐに光をなくしていった。

 ヘルは思わず口を押さえた。これが殺人。これを死神である自分は見届けなくてはいけない。何も手を出さずに。一体何を見せられているんだと信じたくない光景に気分が悪くなった。


「……魂の見送り神となる」


 目の前で人が死んでいく中、メアリーは淡々と魂狩りを行なっていた。

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