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死逢わせ  作者: 夏目 莉々子
いちごミルク
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いちごミルク⑥

 上司から許可をもらい、仕事の合間を縫って、度々殺人処理部へと訪れた。

 何度も何度も頭を下げてお願いをするがアイは一向に首を縦に振らなかった。


「また君ですか」

「ダメです」

「諦めてください」


 どんな言葉で否定されても諦めず毎日ように顔を出した。いくら人間の世界と死神の世界の時の流れが違うと言っても、いつ『その時』がくるかわからない。だから時を重ね、日を重ね、年を重ね、その数が四万日を超えてもヘルは足繁くアイの元へ通った。


 そして今日もまた、殺人処理部へ顔を出した。

 最初のように別室に行くことはなく、堂々とアイの執務室に立ち入り、お辞儀をする。


「病処理部、ヘルです。今日もお話があって参りました」


 いつものように話をして願いを乞うが今日もアイは書類仕事に勤しんでいる。その証拠にヘルの方を見向きもしない。


「ダメです。いい加減諦めてください」

「いやです。絶対に諦めません」


 説得力のある話術があれば、こんなに回数を重ねることなくアイを頷かせることができたかもしれない。たくさん勉強をして死神達と交流を持っても肝心な時に使えなければ意味がない。


 しばらく待ってみるが、カリカリと一定のリズムで書類にサインを書き進める音しか聞こえてこない。どうしたら説得できるかヘルはいつも試行錯誤していた。中々折れない彼は結構な強敵だった。


「どんなことでもします。だからお願いします」


 勢いよくお辞儀をして必死に願う。だが頭上からアイのため息が聞こえた。


(今日も部屋の外に追い出されるようであれば、また明日も足を運んで)


 そう思っていた時だった。

 気づけば音がしなくなっていた。先ほどまでカリカリとサインをする音が聞こえていたと言うのに。

 ヘルがバッと顔をあげるとアイと視線が交わる。ここにくるようになってしばらくして、全く合うことのなかった視線が合ったのだ。何を考えているのか全くわからない。無表情でじっとこちらを見つめている。数秒か、数分か、短くもなく長くもない時が過ぎていった。

 ふと、アイは椅子から立ち上がった。ゆっくりとし足取りでヘルの前までくるとこう言った。



「…………本当に? どんなことでも?」



『この世界でその言葉を発する意味を理解しているのか?』

『本当にどんなことでもやってのけるのか?』

『君にその覚悟があるのか?』


 口は閉ざされていてもアイの漆黒の双眼がそう物語っていた。


(そんなの確認されなくても決まっている)


 ヘルに迷いはなかった。


「この願いが叶うならどんなことでもします」

「そう……」


 アイは視線を逸らし腕を組みなが何かを考えている様子を見せた。そしてすぐさま視線を戻し、また問うた。


「例えば僕が『人を殺せ』と言ったらやるのですね?」

「……っ」


 人を殺すことは重罪だ。

 死神になったからといって勝手な命令で人間の命を奪ってはいけない。我々はあくまで死を見守る傍観者なのだ。どんな理由があろうと人間の死に介入してはいけない。

 だけどそれがもし仕事であれば、話はまた変わってくる。どんな重罪でも背負う覚悟で向き合うしかないのだ。願いを叶えるためには。

 シミは一度染まるともう洗い落とすことはできない。ヘルは再度自分に問いただした。


『染まる覚悟はできたのか?』と。


「……それが仕事であれば、やります」



 足が震えた。だけど、やっと願いを叶えるために動けるのだと歓喜した。

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