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死逢わせ  作者: 夏目 莉々子
死の宣告
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死の宣告⑥

『どうして死ななきゃいけないの?』


 死んだことに納得のいかない彼女は魂の状態で目の前にいるヘルに問いかけた。


「それが君の人生、運命だから」


 魂となった錨地雫はその姿でひどく揺らめいた。今を受け入れたくなかった。大丈夫だよって助かるからって誰かに言って欲しかった。


『こんなの理不尽じゃない。私はまだやりたいことがたくさんあったのに』

「起きてしまったことから逃れることはできない。君は生前に罪がない。故に天に行き」

『絶対に行かないわ!』


 言葉を遮るように彼女は拒絶した。その瞬間、魂に黒い濁り浮かび上がった。


 奪われた人生。もしも生き続けていたら、もっと有名になって充実した毎日を送っていたであろう。最期には『素晴らしい人生だった』と満足して何の憂いもなく天に行けたかもしれない。

 だが、何をどう足掻いても結末は変えられない。


『私の人生を返してもらうまでは絶対に行かない』


 その願いはどうやっても叶わないのだ。

 こうして稀に自分の死に納得がいかず、天に行くことを拒否する者がいる。拒み続けると段々と魂は濁っていき、完全に黒くなれば天に上がれなくなる。

 その場合、死神は魂を持ち帰り今後の処遇を決める審議にかける必要があった。

 錨地雫の魂も彼女の拒否の言葉に呼応するように少しずつ黒く染まっていった。


『私の人生返して、返してよ!』

「それは出来ない」


 ヒステリックな叫びが響き渡る。

 とはいえこの声は死神であるヘルにしか聞こえていない。

 人間は相変わらず肉体の状況確認、犯人の輸送、目撃者から事情聴取を行うために忙しなく動いていた。


『どうして? あなた神様でしょう?』

「神様と言っても死を司る神。生かすことは出来ない」

『いやだ。私、まだここに』

「いられません」

『そんな……受け入れないから。絶対に』


 その魂が完全に黒に染まったところでヘルは言葉を切り返した。


「天を拒否するということですね」

『そうよ!』

「では貴方の魂を審議にかけます。長い時をお過ごしください」


 これ以上ここで問答していても何も変わらない。こうなってしまってはヘル自らが魂を持ち帰らなくてはいけない。引き抜いた魂を掌に乗せると重みがあり氷のように冷たくそして、寂しかった。



「どう、して」



 掠れた声はヘルの耳に届く。任務に一区切りがつき、死神界へ戻ろうという時に、未だ状況を受け入れられない結衣が彼の目の前に立った。


「まだ、間に合う、から」


 そんな期待のこもった視線がじっと見つめてくる。


「もう間に合わない」


 真顔で淡々とヘルは告げた。そして畳み掛けるように言葉を続ける。


「彼女は死んだ。今ここで殺された。死ぬ運命だった」

「……っ、なんで」


 彼女は声が震わした。あまりにも淡々と冷たい言葉を放つ彼が非道な人に見えてならない。


「なんでそんなこと、言うの? まだ生きて」

「魂は完全に切り離した。もう時期体も冷えていく」


 その言葉通り、錨地雫の体は段々と温かさを失いつつあった。周りの人たちももう手の施しようがないことは分かっていた。


「目の前に助けられる命があった。なのにどうして」

「これが死神の仕事だから」



 ピシャリとヘルがそう言い放つと、目を見開いた結衣はもう何も言わなかった。

 そんな結衣の隣を通り過ぎていく。


 後ろで膝をついて泣いている声が聞こえても、段々と呼吸が浅くなってひゅうとか細い音しか出ない彼女がいてもヘルは何もしない。振り返りもしない。


 住む世界が違う。


 これが死神の仕事で本来、人間に干渉してはいけないのだから。

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