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腹黒次期宰相フェリクス・シュミットはほんわか令嬢の策に嵌まる  作者: 阿井りいあ
二人は婚約者編

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24 メアリの身近な協力者


 次の日からメアリの日常は、少々窮屈なものへと変化していた。

 というのも、男たちに襲われかけたメアリを心配したフェリクスがこれまで以上に屋敷とメアリの守りを固めたからだ。


「ずっと、というわけではありません。しばらくはペンドラン侯爵家の周りも慌ただしくなるでしょうし、僕もこの件で色々と動くことになります。不便を感じるかもしれませんが……メアリの安全が第一ですので、ご理解いただけませんか?」


 改めて謝罪をしたかったメアリとしてもフェリクスの提案に否やはなく、二つ返事で受け入れた。

 そこまで自分を思ってくれることが嬉しく、ときめいてしまったのは恋の力だろう。


 ただあれ以来、フェリクスが朝も早く帰りも遅くまで仕事をしているのが気がかりで、今日も王城へ向かうフェリクスを見送ってから、メアリは一人申し訳なさを感じながら自室で待機することとなる。


 ここ最近はクラウディアとともに出かけることが多かったため、久しぶりに暇を持て余すことになりそうだ。


「屋敷中に騎士が待機していますし、どこへ行くにも騎士が一人ついてきます。少しやりすぎだとは私どもも思うのですがね……止めきれずに申し訳ありません」

「謝ることはありません、カリーナ。たくさん心配させてしまったのは私ですし」

「それほどフェリクス様がメアリ様を大切に思っていらっしゃるということですよね。もしご不便があればいつでも……メアリ様?」


 カリーナの言葉を聞いているうちに、顔を真っ赤にしてしまったメアリは両頬に手を当てた。


「や、やっぱり、フェリクス様は私のことを好いていらっしゃいます、よね?」

「えっ、メアリ様かわいい……じゃなくて! ええと、今さらですか?」


 メアリのかわいらしい反応に頬を赤らめたカリーナだったが、同時に首を傾げて聞き返す。

 カリーナにとっては、最初から二人は相思相愛にしか見えなかったからだろう。


 メアリは実はね、と前置きをすると、意を決して真実を打ち明けた。


「ええっ!? 演技だった!?」

「声が大きいです、カリーナ」

「し、失礼しました……! で、ですがまったく、本当にまったくそのようには見えなくて……! だってお二人はいつだってお互いのことを愛おしげに見ていらっしゃいますから!」

「えっと、少なくとも私は本当に恋をしていたので演技ではありませんでした。でも、最近までフェリクス様は演技しているだけだと思っていて……」

「演技であそこまでできませんよ! あんなに柔らかな眼差しも、雰囲気も、長く仕えてきて初めてですから!」


 フェリクスから向けられている想いは間違いないとメアリも思っていたが、第三者から断言してもらうと説得力が違う。

 拳を作って力説するカリーナを前に再びポッと頬を染めたメアリは、こほんと小さく咳をすると胸の前で両手を握った。


「私、先にフェリクス様から想いをちゃんと言葉にしてもらいたいのです。協力してもらえますか?」

「はぁっ、なんておかわいらしいご指示……! もちろんです! くぅ、燃えますね! このカリーナにあの晩の挽回をさせてくださいっ!」


 かくして、フェリクスに告白してもらうというメアリの新たな作戦は協力者を得て始動した。


 これまでメアリが考えた作戦は基本的に一人で動くことが多かった。

 しかし恋愛方面に疎い自覚のあるメアリは、殿下たちやクラウディアだけでなく、身近な協力者を得ようと思ったのだ。


 あの事件のせいでフェリクスの仕事も増やしてしまったため、そもそも彼と会う時間が減ってしまったということもある。

 ようやくフェリクスの気持ちがわかったというのに、自業自得とはいえ近くで確認できないというのはなんとも歯痒い。


 だからこそ協力者がほしかった。まずは秘密を打ち明けたカリーナに引き続き相談だ。


「クラウディア様がおっしゃっていました。王女殿下方に頼まれて私をたくさん遊びに誘ったのだと」

「王女殿下方も考えましたね。フェリクス様がクラウディア様に嫉妬するように仕向けるとは。実際、効果はあったと思いますよ」

「えっ、そう?」

「メアリ様と会う時間が少なくなればなるほど、わかりやすく不機嫌になっていましたから。もともとフェリクス様はクラウディア様に対して良い感情を抱いておられませんでしたので、まんまと嫉妬していたかと」

「そ、そうなのですね。なんだかクラウディア様には申し訳ない気がします……」


 クラウディアもわかっていてその役を買って出てくれたのだとは思うが、わざわざ嫌われるようなことまでしてメアリを応援してくれたのだと思うと居た堪れない。

 そもそも彼女はフェリクスのことを慕っていたのではなかったか。

 そう考えるとメアリの胸の奥がズキッと痛んだ。


「クラウディア様は変わられたのですね。元々、お優しい方だったのでしょう」

「私もそう思います」


 カリーナもクラウディアへの認識を改めたようでメアリは嬉しかった。


 この気持ちは本当なのだが、同時にモヤモヤした気持ちも感じる。


(たぶん、これが嫉妬なんだわ。クラウディア様がフェリクス様を想っていたというだけでこんなにもモヤモヤするのだもの。クラウディア様はきっと……もっと嫌だったはずよね)


 状況や環境によって人は変わるものだ。

 もしメアリもクラウディアの立場であったなら、彼女と同じようにフェリクスに執着して、婚約者相手に嫉妬していただろう。


 想いを自覚した今は余計に、譲れない、譲りたくないという気持ちが強いのだから。


(それなのに、今は私の力になろうとしてくださっている。あの夜だって、心から私を心配してくださったもの。本当に……優しくて強い人だわ)


 取り巻きを率いて他のご令嬢をけん制していたらしいことや、メアリに嫌味をぶつけたことくらい、なんてことはないとつくづく思う。


 メアリは心から、クラウディアと親しい友人になりたいと思うようになっていた。


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