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腹黒次期宰相フェリクス・シュミットはほんわか令嬢の策に嵌まる  作者: 阿井りいあ
婚約者選び編

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25 メアリとの会話


「こんなに笑ったのは久しぶりです」

「楽しんでもらえてよかったです」


 これを機にもう少し互いを知ろうということで、二人は遠回りして帰ることにした。

 その際、思ってもいない角度から返事をしてくるメアリに、フェリクスはいちいち愉快な気持ちにさせられている。


 話題は、今回のことの始まりについて移り変わっていく。

 フェリクスが知らされたのはノリス家へと向かう日の二日前だったと聞いて、メアリはとても驚いていた。


「それはなんと言いますか……なかなかですね」

「ええ、なかなか酷いでしょう? けれど、仕事においても重要なことをギリギリになって言われるというのはよくあることなのですよ。困ったものです」


 心底うんざりしたように大きなため息を吐いたフェリクスに、メアリが同情の目をむけている。

 困るだけでしっかり仕事はこなすし、それ以上の仕返しも必ずするようにしているのだが、それは言わなくてもいいだろう。


 せっかく同情してくれているのだから、ありがたくそのお気持ちをいただくつもりである。


「初めて婚約の話を切り出された時は、不愉快でしかなかったのですけどね。けれどこうして良い出会いもあったと思えば、少しは気が晴れるというものです」

「あ、それは私もです。我が家としては、来るべき時が来たか、という感じではあるのですけれど。フェリクス様が話の分かる方で本当に良かったと思います。これも良縁と言えなくもないのでは?」

「良縁と言えますね。メアリにもそう思っていただけたなら、光栄です」


 話の分かる方で良かったと思ったのは、フェリクスの方だとつくづく感じる。

 変に愛を求めてくることもなければ、喧嘩を売ってくることもない。


 あくまでビジネスとして婚約に応じてくれる女性などそうはいまい。


(今後、ずっと結婚相手を無駄に勧められることを思えば、今回ノリス家に来たのは正解だったかもな。感謝だけは絶対にしてやらないが)


 それはそれ、これはこれである。

 王命にまで頼って強制的に話を進めたことは、一生根に持つ予定だ。


「それにしても、プロポーズってもっと緊張するものだと思っていました」


 メアリに言われ、さすがに不満があっただろうかと気付く。

 彼女も年頃の娘なのだ。人生における特別な瞬間というものに憧れを抱いていてもおかしくはない。


 その点において、先ほどのプロポーズはロマンチックの欠片もないものであった。

 今更だが申し訳ない気持ちが込み上げてくる。


「友人から借りた小説では、プロポーズがとてもドラマチックに描かれていたのですよね。実は、あんな風にするのが一般的なのだと思っていました」


 一体、どんな小説でどのように描かれていたのかが気になるところである。

 いずれにせよ、物語とは誇張して表現されるものだ。

 現実で同じようにすればいいというわけでは決してない。


 意外とメアリにも乙女な部分があるのかと思いかけたが、どこまでも不思議そうに告げる彼女からは、プロポーズに対する憧れがあるようには見えない。


「期待にお応えできなくて申し訳ありません、と謝るべきでしょうか」


 心情を図りかねたフェリクスは、一応謝ってみることにした。

 しかし、メアリは慌てて両手を横に振る。


「いえ! むしろ助かりました。大げさに愛を叫んだり、歌を歌いだしたり、急に抱き締め合ったりすることがなくて! あんな風にされたら、恥ずかしすぎて逃げ出していたかもしれません」

「それを聞いて僕も安心しました。メアリが僕と同じような感覚の持ち主で」


 フェリクスも、叫んだり歌ったりしなくて済んで心の底から安堵している。


 もちろん、実際に叫ぶ人や歌う人もいるだろう。

 愛し合っているのであれば抱き締める人は多そうだ。

 それらを否定する気も笑う気もないが、自分にはできそうにない。


「一般的かどうかはわかりません。他人のプロポーズなんて見る機会はそうそうありませんからね」


 それもそうだとメアリは納得したように目を瞬かせている。

 どうやら、ただの好奇心だったようだ。無邪気なことである。


「では、小説のようにドラマチックなプロポーズをする方たちもいるかもしれないってことですね」

「いるかもしれませんね。よほどロマンチックな方なのでしょう」

「私には無理ですが、ちょっと見てみたい気もします」

「僕はやりませんからね?」


 期待の込められた視線を感じたのですかさず拒否を示すと、メアリは冗談ですと言いながらクスクス笑う。

 いや、あの目はあわよくば見られるかもしれないと思っていたに違いない。油断も隙もない婚約者様である。


「先ほどのも、ある意味ドラマチックではありましたけれどね。パズルのピースがはまっていくような高揚感はありました」


 フェリクスがメアリの計画を一つ一つ言い当てていた時のことを言っているのだろうか。

 確かに、あれは面白かったとフェリクスも思う。


「ふむ。どちらかというと、恋愛小説というよりはミステリー小説のような展開だったかもしれませんね」

「そうです! まるで犯人を追い詰める探偵みたいで! 私、小説も恋愛よりミステリーの方が好きなのですよ」

「おや、気が合いますね」


 それにしても話が合う。

 フェリクスが純粋に会話を楽しんだのはいつぶりだろうか。


(あらゆる意味で、メアリは奇跡のような存在だ。選んで良かった)


 彼女となら、長い人生を共に過ごすのも楽しめそうだ。

 窮屈でしかないと思っていた結婚だが、今はそれも悪くないと思える。


 この気持ちの変化が一体何なのか。

 それにフェリクスが気付くのも、あと少しかもしれない。


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