23 フェリクスの気付き
「ですから、フェリクス様は深く考えずに婚約者を選んで良いと思います。その後のことを考えるのは、ノリス家の者です」
メアリが話を締めくくった時、フェリクスは思考を切り替えた。
実に模範的な答えだ。
先ほど怒りに任せて考えていた自分の考えとも一致する。
それをノリス家の者が言ってくれたということに、肩の荷がフッと軽くなった気もした。
だが、そうではない。
フェリクスが求めている答えはそういうことではないのだ。
「……質問を変えます。メアリ嬢、貴女はどうなってほしいですか?」
メアリ自身の意見が知りたいのだ。
そんなお行儀の良い答えなど、求めているわけではなかった。
まったくもって意味のない質問だということは自分でもわかっている。
合理主義の自分らしくないとも。
だが、なぜか聞かずにはいられなかった。
「貴女の意見を聞いたから僕が考えを変えるとか、そういう話ではないのです。ただ参考までに聞かせてもらいたい。僕は、メアリ嬢の意見に興味があるのですよ」
「……なぜ、私の意見などに興味があるのですか?」
メアリの言葉を受けて、フェリクス自身も疑問に思う。
なぜここまで彼女の意見が気になるのか。
いつもニコニコとしているだけの令嬢に、自分は何を求めているのかと。
(いや。ただニコニコしているだけの令嬢ではないから気になるのだろう)
改めて、フェリクスはこの屋敷に来てから見たメアリを思い出す。
時々、彼女に対して抱いていた違和感。
妙に目に留まる不思議さ。その時々で起きた出来事。
思えば彼女と遭遇した時は、いつだってフェリクスにとってタイミングが良かった。
そう、タイミングが良すぎたのだ。
それらが全て繋がった時、フェリクスはようやく気付く。
今まで、メアリはわざとそうなるように動いていたのだということに。
ふいに、フェリクスはフッと声を出して笑う。
メアリは首を傾げてその様子を窺っていた。
「食事の時、僕だけ野菜が多めになったのも、初日の朝食時にカーテンを閉めるよう伝えたのも、貴女だったのですね? メアリ嬢」
突然変わった話題ではあったが、メアリはすぐに得心がいったというように穏やかに笑んだ。
それはまるで、「やっと気付いてくれたのですね」とでも言うかのように。
「そういえばナディネ嬢と出かけた時、食堂にやたらと体格の良い職人が来たのですよね。確かあの店の看板娘は、貴女の親友だとか」
フェリクスは思い出し笑いをしながら話を続ける。
メアリは、初めて見る楽しそうな彼の様子に驚くと同時に、少しだけバツが悪そうに苦笑していた。
どうやら、心当たりがあるらしい。
「メアリ嬢が作った焼き菓子……大変美味しかったですね。思わず香りに誘われてしまいましたよ。まるで、僕が近くにいたことを知っていたかのようなタイミングでした。自惚れですかね?」
さてどうでしょう、とでも言うように、メアリはフェリクスの目を見てニコリと笑った。
確かに、フランカの執務室からフェリクスがいつ出てくるかなど、知る由もなかっただろうという疑問は浮かぶ。
もしかしたら、あのタイミングだけは本当にたまたまだった可能性もある。
いや、あの時だけではない。
実はフェリクスの知らないところで、メアリは様々なアプローチをかけていたのではないだろうか。
そういえばある日を境に、フェリクスが好む本が本棚にやたらと並べられていたことがあった。
その時は趣味が同じ者がいるのかと深く気にしてはいなかったが、今思えば不自然である。
他にも、フェリクスがよく向かう庭に行った時、使用人が「先ほどまでメアリ様がいらっしゃったんですよ」と教えてくれたことが何度かあった。
その度に、少し時間がズレていたら会えたかもしれないと思ったものだ。
他にも、フェリクスが気付いていないことがあるのかもしれない。
メアリがたくさん仕掛けたいくつかの「仕掛け」に綺麗にハマったものだけが、強い印象として残っているのだ。
それは全て推測だが、彼女の様子を見るに間違いないと感じる。
「貴女の意図までは、残念ながら僕にはわかりません。メアリ嬢、それらの行動はただの偶然ですか?」
「……フェリクス様は、どう思いますか」
質問に質問で返されるのは褒められたことではないが、フェリクスが気を悪くすることはない。
それどころか、どこか嬉しそうに笑っている。
実際、フェリクスは楽しかった。
嵌められたことが、こんなにも楽しいと思える日が来るとは。
今フェリクスの顔に浮かぶ表情は、決して作り笑いなんかではなかった。
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