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腹黒次期宰相フェリクス・シュミットはほんわか令嬢の策に嵌まる  作者: 阿井りいあ
婚約者選び編

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22 フェリクスの動揺


 それは、無意識の行動だった。


「えっ」


 気付いた時には、フェリクスはメアリの手を取り、彼女の澄んだ水色の瞳を真剣な顔で見つめていた。


 驚いたように声を上げたメアリは、目を丸くしてフェリクスを見つめ返している。


「メアリ嬢に聞いてみたいことがあるのです。少し、二人きりになれませんか?」


 普通の乙女であれば勘違い必至の状況である。

 だが相手はメアリだ。彼女はきょとんとした顔のまま、こくりと首を縦に振った。


 美形の顔を間近で見ようが、手を取られようが、メアリの中の乙女を目覚めさせることはまだできないようだ。


「では、私の部屋へどうぞ」


 それどころか、自室へと誘うほど無頓着であった。

 これにはフェリクスの方が戸惑った声を上げてしまう。


「……さすがに、年頃の令嬢の部屋へ行くわけには」

「でも、それ以外に二人きりで話せる場所がありません。他の部屋はいつ誰が来るかわかりませんし、町へ行ったとしても同じことですよ?」


 そうだとしても町に行った方が良い気がしたが、メアリはノリス家の令嬢。

 町の者は誰もが彼女を知っている。

 その上、フェリクスは自分の目立つ容姿を自覚していた。


 そんな二人が町にいれば、絶対に注目を集めてしまうに違いない。

 ナディネと行った時だって、人の視線を感じたのだから。


 人に聞かれたくない話をするには、確かに町も不向きだ。


「ですが、やはりダメです。貴女はもう少し危機感を持つべきですよ」

「そう、ですか?」


 フェリクスとてメアリに手を出すつもりは微塵もないのだが、そういう問題ではない。

 それこそ、メアリの部屋に出入りするところを誰かに見られでもしたら大問題だ。


「あっ、では果樹園の方へ散歩に行くのはいかがです? お話は歩きながらになってしまいますが」

「いいですね。そうしましょう」


 そのため、続けて出された提案には一も二もなく賛成するフェリクスであった。




 屋敷を出て、しばらくは他愛もない話が続いた。

 まだ誰かが聞いていないとも限らないからだ。


 そうして周囲に人気がなくなった頃、フェリクスはようやく話を切り出す。


「そろそろ、本題に入りますね。何か勘付いたことがあればおっしゃってください。言い当てられても不快になったりはしませんから」

「は、はい。わかりました」


 前置きを聞いたことで少しだけ緊張した様子のメアリは、フェリクスが話し始めるとその表情を引き締めた。


 たまに軽く頷き、驚いたように目を丸くしながらも、話を遮ることなく最後まで黙って聞くメアリに、フェリクスは好感を抱く。

 推測を人に話す時は、途中で口を挟まれることの方が多いからだ。


 それが悪いわけではないのだが、話の腰を折られないという点で非常に助かるのである。


「……と、いうのが僕の推測です。考えすぎかもしれませんが。もし、これが本当だったとして、メアリ嬢がどう思われるのかが気になったのです」


 一通り話し終えたフェリクスは話を締めくくると、今度は黙ってメアリの反応を待った。


 メアリはひたすら何かを考えるように、軽く握った拳を口元に当てている。

 今の推測を聞いて自分なりの考えをまとめているのだろう。


(適当な返事をしない辺り、やはり彼女は頭が良い)


 質問をされると、人はすぐに答えなければという心理が働く。

 実際、黙り込むとなんとか言え、と急かされることも多いからかもしれない。

 だがフェリクスは、そのせいで適当な返事をされる方が嫌だった。


 その点、ちゃんと考えているのがわかるメアリを見て高く評価したのだ。


 その姿勢がやはり上から目線で、つい人を評価してしまう彼の癖はなかなか直らない。


「私も、その推測は当たっていると思います」


 しばらくして、メアリはポツリとそう告げた。


 フェリクスがパッと彼女に目を向けると、困ったように微笑むメアリと目が合う。

 それがどうにも落ち着かなくて、フェリクスは少しだけ視線を逸らした。


「もしフェリクス様がフランカ姉様を選ばれた場合ですが。おそらく、お父様はフランカ姉様を領地経営から完全に手を引くようにとおっしゃるかと」

「なぜ、そうお考えに?」

「私がいるからです」


 つまり、領地の経営はメアリが継ぐことになるだろう、と言うのだ。


 考えてみればそれは当たり前のことだった。

 フランカは第一子であるし、有能で本人にもやる気があるが、必ずしも彼女でなくてはならないわけではないのだから。


「私にできるかできないかは、誰も考えません。やらなければならないことは、できるようになればいいだけですもの」


 それもメアリの言う通りだ。

 仕事をするにあたって、しかも領地を背負う立場となるなら泣き言など言っていられない。

 彼女はそれをきちんと理解しているのだ。


「後は気持ちが伴うかどうかですが……それはお互い様でしょう?」


 ふわりと大人びた笑みを浮かべるメアリに、フェリクスはたじろいだ。

 年の離れた娘に対し、なぜこんなにも動揺してしまうのか。


 己のプライドをへし折られているというのに、不思議と不快感はない。

 そのことが余計にフェリクスを混乱させていた。


 ちっとも怒りなどの負の感情を感じることがないのはなぜなのだろうか、と。


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