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キューピッドになりましょう!

化け猫は影から見守りたい

作者: さんっち

趣味は創作小説投稿、さんっちです。ジャンルには広く浅く触れることが多いです。


pixivでも創作小説投稿をしております。

そのPVを見たとき、私は一瞬で引き込まれた。凶悪なモンスターにも立ち向かう、心優しくもどこか闇のある主人公の青年ハンター。可愛くて守ってあげたい、ストーリーの要となる少年エルフ。王道ファンタジーだけど、何か大きな謎がありそうな世界。


グラフィック、キャラクター、音楽・・・全てがが輝いていた。自分の手でストーリーを追いかけたいと、初めて思った。ゲーマーでもない私が、ゲーム機とソフト両方、初めて自分の貯金で買ったくらいだから。


「月光のエルフ」・・・モンスターと戦うハンターの青年リュンヌを通じて、エルフのルナと共に世界を冒険していくアクションゲーム。アクションなんて普段全くやらないから、最初のステージからコンティニューを繰り返した。でもストーリーが楽しくて、私はずっと続けていた。特にリュンヌとルナ、2人の掛け合いが好きだったんだ。物語の核心に迫るにつれて厳しくなるストーリーでも、前向きに進んでいく2人を見て、私も元気を貰ってたくらい。仕事の合間を縫ってプレイしていたから、進捗は本当に遅め。なるべくネタバレを見ないよう、自分のペースで進めていった。


こんなにゲームに本気になれたのは初めて!このゲームに出会えて本当に良かった。ただ私が最初に辿り着いたのはバッドエンド・・・結論から言うと「2人とも絶命するエンド」。これを見た日の夜、涙を流しながら布団にくるまり、意気消沈でSNSを彷徨っていた。そんな時知ったのは「このゲームにエンド分岐がある」こと。


バッドエンドとノーマルエンド共にクリアして、特定の条件を満たせば見られる「トゥルーエンド」!私はすぐさま布団から飛び起き、ゲームをリロードした。


ノーマルは何も見ずにクリアできた。でもそのエンドも、私にはバッド同然。リュンヌの犠牲によってクリアするなんて、結構ダメージを受けたし・・・。だからこそ、トゥルーエンドを見たい!いや、トゥルーとか良いから幸せになる2人を見たい!!ここ数日はそれを糧に、仕事を頑張ってたと言っても良い。泣く泣くウェブの攻略を見て、特定の条件も満たした!今日、ようやくこの目で見られるんだ!!その日の帰り道は暴走列車のように、死に物狂いで走っていた。


そうして慌てていた私は、真横から来た自動車に、出会い頭で直撃。


色んな所の打ち所が悪かったらしい。私はあっけなく死んだ。



・・・・・・そう、そうだ。私は死んだはず。平均的な生活で育ってきた「人間」として。


でも水面に映る姿は、一切人間の面影などない。どこからどう見ても毛深い猫・・・しかもかなり大きい。ぱっと見、熊といってもおかしくない大きさじゃん。前世の自分と同じように、両方の目元に泣きぼくろ(みたいな点)があるみたい。


でも何故か、この姿に見覚えがある。死ぬ直前までゲームのことを意識してたからか、その理由に辿り着くのも遅くなかった。この猫は・・・月光のエルフに出てくるモンスターだ。ということはつまり・・・私は月光のエルフの世界に転生した、と。何コレ、夢?夢でもいいや、というか夢でも嬉しすぎるんですが!?


あぁ、興奮が止まらない!!生きているだけで儲けものだけど、まさか大好きなゲームの世界に来られるなんて!・・・・・・と喜びに浸っているのも一瞬、ふと気付いたことがある。この猫、確か・・・チュートリアルで出てくるモンスターだ。しかもリュンヌと戦って、彼に負けて・・・・・・ゲームでは豪快に「首を落とされる」。つまり、呆気なく退場するキャラクターだった。


いやいや、そんなの嫌だ。せっかく生まれ変わったなら、もっと生きたい!それにまだクリアしていない物語を最後まで追いかけたい!!2人のいる世界なら、2人のことを見守りたい!!! とまぁ、欲張りな願いを抱えてしまったわけ。そのために、まずは生き延びなければ話にならない。モンスターになってしまった以上、人間として行動するのは変だからね。


まずは状況確認、ここは・・・おそらくゲームの最初、チュートリアルのステージに似ている。ということは・・・ここに、リュンヌとルナはいるのかも?


確か2人の出会いは、私・・・化け猫にルナが追われているところを、リュンヌが出くわして討伐すること。ここで私が襲わなければ、私は首を落とされずに済む。でもそれは、2人が出会うきっかけを失う?いやいやいやいや、そもそもルナを襲いたくないし。今のところ理性はあるから、多分大丈夫でしょ。まさか、暴走するとか運命力みたいなものがあるわけ・・・。



「・・・・・・う、うぅ・・・・・・」



色々思考してると、そんな声が聞こえた。茂みの向こうに、誰かいる・・・?恐る恐る覗いてみる。そこにはボロボロの服装をした、耳の尖った月色の髪の少年が倒れていた。あの姿、間違いない。ルナだ、やっぱりルナがいるんだ!・・・・・・でも様子がおかしい。私が襲ってもないのに、既に傷を負っている・・・?このまま放っておけば、確実に命が危ない!私は慌てて駆け寄る。


体に触れようとしたけど、私の手には強靱な爪がある。引っ掻きでもしたら、さらに傷口を作ってしまう。どうしよう、とにかく傷口を・・・。辺りを見回して丈夫そうな草を見つけたから、それを包帯のように使わせてもらった。それからはもう必死、何せ前世でこんなことしたこと無いし。ただただ彼の血を止めるために、そして彼を傷つけないように、慎重に作業を進めた。


ようやく出血が止まった頃、ルナは静かに目を覚ます。良かった、これで一安心・・・と思ったら。



「おい、何をしている!!」



うわっ、マズい!短い金髪に蒼い瞳の青年・・・あれはリュンヌだ、やっぱり彼もここにいたんだ。このままじゃ、チュートリアルのように・・・!!でも私はその展開のことを知っている、だから・・・避けるように逃げ出せる!色々誤解されてしまっているけど、モンスターは人の言葉を話せない。だから私は、ここから離れるしかなかった。・・・・・・でも2人が出会えたことに、ほんのちょっと安心かも。


「お前・・・大丈夫か!?酷い怪我じゃないか、あの化け猫にやられたのか?」


「・・・・・・う、ううん。あのモンスターは・・・・・・」



今更ながら、本当にとんでもない世界に来ちゃったなぁ。私は1匹で森の中を彷徨いながら、これからのことを考えた。


まず、自分の身を守る必要がある。いくら人間だった頃の記憶があっても、今は猫。しかもモンスターだ。モンスターは人間の言葉なんて喋れるはずがない。原作でもモンスターと人間の溝は深い、人間に近付こうものなら、あっという間にハンターに駆除される。


とにかく、2人とは距離を取らないとね。・・・というのが理性。


でも2人が一緒にいる様子も見守りたいよ~。・・・というのが欲望。


あーもう、どっちを選ぶべき!?ストーリーを軽く変えたとはいえ、そんなに歪曲させてないとは思うけど・・・このままで、良いのかな?


そう色々考え事をしていた時、ふと茂みの向こうに誰かいるのが見える。こっそり覗いてみると・・・リュンヌとルナだ。ルナが既にハンター見習いの服を着ているから、ゲームはそれなりに進んでるっぽい。


「・・・ルナ、本当か?あの時、モンスターが助けてくれたって」


「本当だもん!真っ白で目の下に点々がある猫が、あの時僕を助けてくれて・・・リュンヌが来てからどこかへ行っちゃったんだ!」


「うーん、信じがたいし不思議だ。モンスターが人間に対して友好的になるなんて。・・・・・・もしかしたら、俺たちの知らないモンスターの一面があるかもしれないな」


「だよねだよね!僕・・・あの猫に出会えたら、お礼をしたいな・・・」


・・・心の中でガッツポーズが止まらない。つねってみたけどやっぱり痛い、これは現実だ!!私の行動で、モンスターをただただ恨んでいたリュンヌが、そんなことを言ってくれるなんて・・・!これは嬉しい!!こんなに嬉しいなんて、思ってもなかった。


これで味を占めた私は、裏から2人を見守ることに徹した。序盤はず~っと森の中での任務だから、私はこっそりついていった。2人の行く先を知りたかったし、2人のことを見守り続けたかった。存在感を出さないよう、直接は関われなかったけど。


だけどストーリーが進めば、2人は冒険のためここから離れていく。森に住むのが普通のモンスターが、別のステージに移れるわけもない・・・。でも前世でトゥルー直前まで見届けた私にとって、ここで彼らと離れるなんて嫌だ!欲望が既に勝っていた。それは同時に、見守るだけでは満足できない感覚になっていまして・・・。


そして序盤で最大のイベント・・・盗賊団との戦闘が訪れた。ゲームでは突撃直前にルナが誘拐され、リュンヌ1人でのアクションタームに突入する。でもこのイベントには「特定の条件」が関わってくる。これは絶対初見じゃ無理!幸せになるのがトゥルーエンドのみなら・・・それを達成させるしかないでしょ!!私は初めて、私自身がイベントに介入することになった。



「ボス、エルフですよ!しかも、かなり魔力が高い」


「ほう、珍しい。身売りだと高値で取引できるな」


「み、身売り!?待って、僕は商品じゃ・・・!」


「世の中にはな、お前みたいな奴が商品になれる場所もあるんだよ」


ゲーム通りの台詞、相変わらずあの盗賊団は腹が立つな・・・。でも初見時はここでやられまくった。懐かしい・・・ここでのトゥルー回収のため、攻略動画も見まくったし・・・。


おっと、過去を思い出してる場合じゃ無いや。私はこのように、盗賊団のアジトにいる。熊みたいな大柄猫だけど、アジトは広めの洞窟だから、侵入も容易かった。このステージの目的はルナを救うのもあるけど・・・・・・盗賊団が持っているであろう、「精霊石」を奪回すること。これがトゥルーには欠かせない。でも戦闘が長引くと、このアイテムは破壊されて、使い物にならなくなってしまう・・・。そうなると「ノーマルエンド=リュンヌ犠牲」に一直線!それだけは絶対に避けたい!


でも私が戦うのは初めてだし、そもそもモンスターの戦い方すらよく分からない。突撃の勇気すら出せないでいると・・・。


「ここか!ルナ、ここにいるのか!?」


うおっと、リュンヌが到着した!最初のボスだからそこまで苦戦しないはずだけど・・・大丈夫かな。そんな私の心配を余所に、リュンヌは数多い盗賊達を蹴散らしていく。あ、あれ?思ったより強い?何だかんだでレベルも上がってるみたい。


「ちっ、やるなハンター。だがその調子で、私を倒せると思うなよ!」


そうこうしてる内に、盗賊団のボスが現れた。さすがに今まで戦ってきた奴らとは違う。まずい・・・戦闘が長引いてる。このままじゃ・・・!


「ふん、まだやられないとは良い度胸だ。だが・・・コイツはどうだ」


「・・・アレは、精霊石!エルフのお守りみたいなモノ・・・どうして持ってるの!?」


「どこかの神殿からちょちょいと奪ったに決まっているだろ!この私が!さぁ、この石の力とやらを見せてm」



バキィッッッッ!!



ノーマルエンドまっしぐらの台詞に耐えきれず、私は岩を破壊し、ボスの顔に1発お見舞いしてやった。


・・・ドサッ


ボスは当然、気絶。その間に他のハンターも到着し、盗賊団は一斉にお縄に付いた。ふぅ、何とか間に合った。ついでにルナが精霊石を入手出来たし、トゥルーエンドに1歩近付いた!・・・のは良いのだけれど、2人の前に姿を見せちゃったことに、私は焦りを覚える。だって普通、モンスターが人を助けるなんて、あり得ないし・・・。恐る恐る2人の反応を見ると・・・・・・。


「・・・もしかして、僕を助けてくれた猫さん!?」


ルナが顔を明るくしてそう言ったと思えば、リュンヌも笑みを浮かべて続ける。


「そうか、やっぱりお前だったか」


あ、あれぇ~~??私、もしかして気付かれてました?


「ありがとう!僕、あの時君に助けられたから、ここまで来れたんだよ!目の下に点々があるから、もしかして・・・とは思ってたけど。今しっかり見て分かったよ、君はあの時の猫さんだって!」


「あぁ、本当に助かった。俺からも礼を言う。森へ行く度に存在を感じてたが、襲ってくる気配もないためそっとしておいたんだよ。モンスターでは珍しい、比較的友好的な品種じゃないかと、団長も興味津々さ」


良かったぁ・・・でもまさか、気付いてたなんて・・・・・・。でもまぁ、無事に終わって良かった。この後、私はどういうわけか2人の拠点に連れて行かれた。何だろう、駆除じゃ無いよね?とモヤモヤしていると・・・思ってもいない声が、団長(リュンヌの上司)からかかる。



(キャット)よ、お前の人間的な理性を信用して頼みたいことがある。・・・これからリュンヌとルナ、2人の冒険を共にしてくれないか?」



え・・・・・・はいぃ~~~!!?団長曰く、2人は(ストーリー通り)ここから旅立ち、他のエルフ族がいるであろう都を目指す。でもそこまでの道のりは遠く、道中の危険も多い。そこで、彼らと信頼ある者の協力が欲しいとのこと。


「僕は賛成だよ!猫さんのこと、もっと知りたいもん!」


「そうだな。俺は別に構わない。・・・・・・少しだけ、モンスターのことを分かってきたし」


私は最初こそ躊躇したけど、リュンヌとルナの後押しもあり、引き受けることにした(動作で示した)。それに、私はこの先での出来事を多少知っている。これで2人の役に立てるかも!・・・なーんて、伝わるわけ無いけどね。


2人のトゥルーエンドを見たい、2人の幸せを見たい。だから私は行動する。・・・・・・でもそれは、私の重大な責任になる。ここはゲームの世界であって、ゲームじゃ無い。やり直しが効かないんだ。1つでもトゥルーエンド要素を失えば、確実に2人のどちらかは・・・そう思うと、一気に重圧が来る。


でも、こうやって堂々と関われるようになったんだ。見習いハンターのバッジを付けて、一緒に行動できるんだ。だから私は精一杯、この世界で生きよう。彼らの仲間として。


こうして私は、ルナとリュンヌの仲間になった。ゲームではただのあっけない敵役だったのに、今ではこんなにも頼りがいのある仲間になっている。その誇りと思いを力にしながら、次のステージに進もう。


これは2人を幸せにすることを目指す、モンスターの始まり。


fin.

読んでいただきありがとうございます!

楽しんでいただければ幸いです。

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