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ブリッジ・オン・ブルー  作者: 青二葵
4/5

第3弾:人が生きる橋


 人を撃てるかどうかの問いにミズホはさらに顔を曇らせる。

「いや、いい……初日からハード過ぎるな」

 その表情を見てアオイは唐突過ぎたと反省する。

 新人に問うべき内容ではなかったと。

 しかし、どのみち通る道でもあるからこその問い掛けでもあった。

「タイヤを撃ち抜くくらいはできるか?」

「それは、出来ます」

 今度は即答。

 青い瞳で、強い意思と共に彼女はフンスという感じに息巻いている。

 先程の問いに答えられなかったことを気にしているのか分からないが、アオイとしてはその表情を見て、多少安心する。

(意気消沈してないとは、たくましいことで……)

 すぐさま、オープンにしていた通信から(なばり)の言葉が聞こえる。

『決まりだね。私は左からやるから、そっちは右からお願いね~。止めるのは私がやるわ』

「嫌な予感しかしないですが、分かりました」

 右にいた(なばり)の車が加速して、アオイ達の車を追い越してバンの左へと移る。

 アオイもハンドルを右に切り、バンの右側へ。

 挟み打ちになる形になった。

『Lock and load』

 別の言語で隠がそう言った瞬間――銃声。

 それも軽い銃声ではなく幾重もの重なるような銃声。

 車の陰で見えないが、絶対にアオイ達の反対側はヤバい状態になりつつある想像しか出来ない。

 爆弾を搭載してるのを考えてないんじゃなかろうかと思ってしまう。

「タイヤだけなのに、どれだけぶち込む気ですか!」

『テロまがいの連中に掛ける情けはないんだー! アハハハハハー!』

 狂ったような奇声というか、喜声(きせい)とでも表現するべき笑い声が聞こえる。

 極度のトリガーハッピー。

 それが彼女――(なばり)クレハである。

「高天ヶ原、こっちも撃て! じゃないと無力化どころの話じゃなくなる!」

 嫌な予感の的中にアオイも、対応を叫ぶ。

「本当にマジなことばっかりですわね!」

 状況の目まぐるしさにミズホもヤケクソ気味に叫ぶ。

 そして、警備隊で支給されている拳銃――HWG11――を構える。

 それから、たった2発で右側のタイヤを2つ共撃ち抜いた。

 ある程度は速度は合わせていたとはいえ、その射撃精度にアオイは目を見張る。

「お見事。隠さんこっちは終わりです!」

『アハハハ! え? もう終わり?』

 隠はもう終わったことに呆気にとられた声を上げた。

 何とも困った同僚に、アオイは呆れ気味に叫ぶ。

「ハッピーになってないで、さっさと止めますよ!」

『はいはい。分かった分かった』

 言いながら車が加速して、隠の車がバンの前に躍り出る。

 そのまま急ブレーキ。

 舞い上がるアスファルトとの摩擦の白煙。

『さっさと止まりなさい! じゃないと穴だらけにするぞ♪』

 と、忠告しながらも既にクレハは運転席から身を乗り出してボンネット部分に撃ち込みまくってる。

 さっき電気弾を撃ち込んでエンジンを動作不良にして止める方針はどこへやらである。

「すぐに止まれ! 冗談じゃなく命の保証は出来ないぞ」

 アオイも車の拡声器で呼び掛ける。

 実際、車の原型が無くなりそうな勢いで撃ちまくっている。

 流石に命の危機を感じたのかほどなくして車が止まったところで、

「ちくしょう。メチャクチャな奴等だ!」

 と、言いながら2人組の男が出てくる。

 そのまま、サブマシンガンのような銃器を持っているのが見えた。

 それを見た隠は「やっば……」とすぐに運転席を飛び降りてボンネットを滑って、前へ。

「おいおい、マジですか」

 見ていたアオイもすぐに、自身の止めていた車を動かしてバンの前方の道を塞ぐように横付けする。

「高天ヶ原、こっちだ!」

「ひゃああ!?」

 助手席にいるミズホの手を引いて運転席側から引きずり出すように車を飛び出したところで――――すぐに銃声。

 車に風穴を空ける銃音が響く。

 防弾製なのでサイドウィンドウが弾けることはないが、ヒビ割れの模様が浮かび上がる。

「大丈夫か〜?」

 と言いながら、隠もアオイ達の車に避難してきた。

 しかし、そこにはミズホが倒れてるアオイの上に身体(からだ)を重ねる光景。

「わお……お熱いことで」

 外国人のようなリアクションをする隠に、アオイ達は自分達の姿を改めて見る。

(役得なんだが、それどころじゃないんだよな)

 照れもなく、アオイはそんなことを思っていた。

 美女に体重を預けるように乗っかられる。

 何とも心躍る光景ではあるが、そんな状況ではない。

「高天ヶ原、さっさとどいてくれ」

「うわああ!?」

「そういうリアクションはいい。あ、頭は上げるなよ?」

 慌てるミズホに忠告をしながらもアオイはゆっくり体を起き上がらせる。

 それから、高天ヶ原も頭を上げないようにアオイの上から横へスライドする。

「しかし、随分と派手にやるよね。本当にただの銀行強盗?」

「さあ? だから、無力化して捕まえるんじゃないんですか?」

 撃たれながらも、クレハとアオイは暢気にそんな会話を繰り広げる。

 ミズホはそんな先輩2人にツッコミを入れざるを得ない。

「なんでそんな冷静なんですの!?」

 そんなミズホの疑問に、クレハとアオイは顔を見合わせて――

「なんでって言われても、日常茶飯事だし」

「意外と硝煙臭いですよ。この業界は」

 と、あっけらかんに答えた。

 それからすぐに仕事の顔になって真剣な眼差しへと変わる。

 その様子に、ミズホもさっきまでの暢気な雰囲気が消え失せたことを感じる。

 クレハが笑みを浮かべてアオイに問い掛ける。

「で、どうする?」

「派手にやって横から奇襲です」

「りょーかい。アハ♪」

 短いやり取りでクレハは恍惚とした表情で応える。

 アオイは今のやり取りをミズホに細かに伝える。

 今のやり取りだけでは具体的とは言えないので、先輩らしく教えることも兼ねてアオイは説明する。

「隠さんが派手に引き付けてくれる。高天ヶ原は隠さんの近くにいてくれ。で、相手が顔を出した瞬間にこれを撃て」

 アオイがそのまま、弾倉を1つ渡す。

 弾には小さな針が先端に付いており、一見しても普通の弾とは違うのが分かる。

 しかし、初めて見る弾にミズホは小首を傾げる。

「――これは?」

麻酔弾(T・B)だ。炸薬量を減らした弱装弾で、当たれば中の麻酔が着弾した衝撃で注入される。即効性だから、針に触れるなよ。別に殺せって訳じゃない。さっきタイヤを撃ち抜いた射撃精度を見た感じだと、やれる。肩でも足でも致命傷にならないところを撃てばいいんです。やれますか?」

 さっきアオイが言った、人を撃てるか、に対して引き続くような問い。

 最初はキツめだったアオイの口調も後半はなるべく優しげな問い掛けに変わる。

 気負わせないためのアオイなりの優しさ。

 そして、おそるおそるミズホはそれを手に取る。

「まあ、気負うなって。あたしらが何とかするから、新人ちゃんはゆったり構えてな」

 クレハも快活で頼りになりそうな笑顔でミズホを励ます。

 アオイはそのクレハに頼もしさを感じる。

(これで頭にガンパウダー詰まってなかったらな~)

 と、内心では失礼なことを考えてもいたが。

 ともかく、方針は決まった。

 あとは実行あるのみだと、アオイは銃にミズホに渡した物と同じ弾が込められた弾倉を入れてスライドを引く。

「では、お願いします。私は右からやりますので」

「オッケー」

 クレハは元気よく答えると、ミズホと同じ拳銃を二丁、構える。

 ただ違うのは連射(フルオート)出来るように、カスタムされたクレハ仕様だということ。

 オマケに装弾数が大幅に増やされた50発は撃てる拡張弾倉(マガジン)を装備している点。

 この2つだけで、彼女がどれだけ撃ちたい症候群の中毒者かがうかがい知れるというもの。

 しかし、制圧力という意味では頼もしいことでもある。

「よっし、死ねええええ!」

「殺しちゃダメですからね……」

 一気呵成に撃ちまくるクレハにアオイは静かにツッコむ。

「隠れろ! ヤベエ女がいる!」

 すぐさまローグ達も叫んで車のドアを盾にして隠れた。

 ヤベエ女の部分には同意しつつも、アオイは飛び出す構えをとる。

 そして、勢いよく飛び出したところでクレハの弾が切れる。

「ちくしょう! 死ねええ!」

 いかにもな三下のセリフを吐きながら、ドアの影から飛び出すバカ2人。

 既にアオイは眼中にない。

 好機とばかりに撃ち、バンの左側――アオイから見て右のローグを無力化する。

 即効性の麻酔弾で眠ったところで、ミズホが同じく車の影から狙っているのが見えたが――

「っ……!」

 その銃身は躊躇(ためら)い、ブレてるのが見えた。

(早すぎたか)

 そう判断したアオイは、そのままバンの助手席側から、

「おい! こっちだマヌケ!」

 声を上げる。

 その声に気付いたもう一人のローグだが、アオイに銃口を向ける前に彼は撃たれていた。

 バン! ピス! と、普通の銃声よりも小さい音と針が刺さる音。

 そして、静寂がすぐに訪れる。

「終わりましたよ。隠さん」

「手際がいいね。もっと撃ちたかったけど、まあいっか。無線借りるよ」

「どうぞ」

 それから、クレハが報告してる最中に一服とばかりにアオイはタバコに火を点ける。

「大丈夫か、高天ヶ原」

「はい。何とか……」

「教育で知識を理解することは出来ても、実戦はこんなもんだ。そう気を落とすな。ふぅー」

 銃を静かに降ろす高天ヶ原に、アオイは紫煙を(くゆ)らせながらフォローの言葉を掛ける。

 しかし、そう理解出来ることでもないのは理解していた。

「ここは人が生きる橋。それは人の善意も悪意も生きてる。ま、それはこれから学んでいけばいい。とりあえずお疲れさん」

 今は休めとばかりに、アオイはそう声を掛ける。

 しかし、ミズホはどこか意思の硬い目をする。

「いえ、大丈夫ですわ。撃てなければ、先輩が撃たれる。今度は迷いません」

 その言葉に少しだけ、アオイは後輩に頼りがいを感じる。

 ハードな初日ではあったが、それに気付けたことには喜ばしさもある。

 ただ、肩肘張ってるように見えたアオイは再び声を掛ける。

「意気込み過ぎると疲れるぞ。ま、ホドホドにな」

 騒がしい初日は、夕方から夜へと変わりつつある。

 そして静かに日常へと戻る。


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