第2弾:ファーストミッション
「ちょっと!? 飛ばし過ぎでは?!」
「そう言ってられる状況じゃない!」
事件だと聞いてすぐさま車に乗り込み、ミズホと共にアオイは現場へと急行している。
既にサイレンを鳴らしながら弾丸のように道路を走る。
『簡単に言えば銀行強盗だ。しかも、ローグ共はサイドハイウェイに車で逃亡してる。既にハイウェイは封鎖してるが――』
ココノの言葉を思い出すアオイ。
同時に厄日だと思う。
「高天ヶ原、初日から実戦だ」
「マジで言ってますの?!」
「マジで言ってます! という訳で橋の中に行くぞ!」
「橋の中……って、潜るんですか!?」
ミズホの言葉に答える間もなく、アオイは1つの建物へと目掛けて真っ直ぐ車を走らせる。
「ちょ、ちょっと!? まさかこのまま真っ直ぐ行くわけでは――」
しかし、アオイは答えずにアクセルを踏む。
「いやあああああああああああ!?」
もうすぐ衝突するとばかりに目を閉じてミズホが叫んだと同時に浮遊感と共に、道路が下へと開き、下り坂へ。
「あ……あれ? 生きてますわ」
目を開けて見ればトンネルのような場所にミズホは困惑する。
「緊急車両だけが使える移動用の通路だ。現場周辺まで一直線で行ける」
「もうちょっと何か言って下さいません?!」
「なら今、説明した」
「そういうことではなくてですね!?」
「丁寧に教える間もないんだッ」
実際問題、状況は微妙だ。
強盗共は既に銀行強盗を成功させて車での逃走。
サイドハイウェイ――文字通り橋の両端に設置された高速道路――を爆走してるらしい。
ただ単に逃走してるなら捕まるのは時間の問題だが、時間以外の問題はその車が爆弾を搭載してることだ。
ここまでくれば銀行強盗ではなく最早テロ。
だが、悲しいことにこういうのは珍しい事でも何でもない。
一見平和そうに見えるこの橋は欲望と混沌が潜んでいる。
ココノが"生きている橋"というのは、そういう欲望もまた生きているという話だ。
「それで、どうすればいいんですか?」
「どうもしない。最悪、橋から叩き落とすことも考えられるだろう」
「それは、殺人では……」
「民間人に被害が出るよりはマシだ。最終手段かもしれないが」
シビアな選択肢にミズホは少し顔を曇らせる。
「……ちなみに銃は?」
「あります」
「射撃の自信は?」
「それは、そこそこですが」
「リスキーだが、無力化する方法はある。とはいえ、所長がどうでるか……」
警備隊には脅威の排除も含まれるので、"そういうこと"にもなり得る。
そもそも、綺麗事を並べるようなお仕事ではない。
「もうすぐ、二十六区画周辺か。出るぞ!」
そのまま車線変更して天井が開いて登り坂へ。
一応は速度を落として、左右を確認してから再び加速する。
そのまま、言われていたサイドハイウェイへと直進して乗り込む。
「こちら、二十二警備所所属の橋上アオイです。現場周辺に到着」
と、簡潔に車両の無線機に語り掛ける。
ザザとノイズが聞こえたかと思うと、
『お〜、お早い到着だね〜。ちなみに隠が既に張り付いてる』
と、自分と同じ警備所に所属してる人物の名前を言われてアオイは微妙な表情をする。
「所長……爆弾があるのにどうして頭に銃弾が詰まってる人を動かすんです?」
『いや〜、銀行強盗の時にたまたまいてね〜。既に乱射してるから』
「頼んでない嫌なハッピーセットがサービスされてるんですけど?!」
『人的被害はないから、大丈夫』
「人的被害がないだけでしょ……物的被害は出てますよね?」
『命に比べたら安い安い』
「まあ、そうですけど」
『ともかく、まずは"無力化"せよと指令が来てる。手段は問わないから〜』
「軽く言ってくれますね……」
『新人にはいい教育だよ』
ココノはそれだけ告げて、通信が切れる。
と、同時に乗っているのと同じ黒い車が前方に見える。
その先のバンのような白い車がおそらく犯人共であろうことは想像に難くない。
「あれが隠さんという方の車ですか?」
横で通信を聞いていたミズホは尋ねる。
「そうなんだが、あの人は……」
しかし、アオイの返答は何とも説明しづらいと言った様子。
そんな時だった。
『どうも、アオイちゃん。お疲れ〜』
「ドーモ、隠さん……」
入ってきた通信、すぐに前方の黒い車の左に並走したところで助手席側の窓が開く。
運転席にいるのは赤いポニーテールの女性。
勝ち気な顔で、微笑みながら通信が再び入る。
『助手席のは今日来るっていう新人ちゃん?』
「そうですよ。しかも、初日に事件とはツイてるのかツイてないのか」
『そっかー、ところで所長は何か言ってた?』
「無力化せよ、と……"手段"は問わないらしいです」
『へー……好きに撃ちまくっていいの?』
「爆弾ですよ? 死にたいなら良いですよ。お好きに」
『可愛げないな~』
「頭にガンパウダー詰まってる人に言われたくありませんよ」
『大丈夫。最近は聖人も銃を持って聖書を説くらしいから』
「どこのフィクションの暴力教会ですかね」
「そんなこと言ってる場合ですの!?」
車を飛ばしながら妙な軽口を叩きあうアオイたちに、ミズホもツッコまざるを得ない。
『で、何か作戦ないの?』
「ありますよ。自爆テロでもない限り、すぐに爆発とはいかないでしょう。自爆テロなら銀行強盗する意味がない」
ローグ――橋の上での悪党の通称――は、あまり頭が良くないらしい。
自爆テロなら爆弾だけで事足りる。
銀行を襲う必要はない。
資金調達にしろ金銭目的にしろ、爆弾を銀行とかどこかの建物に仕掛けた方が戦力の分散にもなる上に脅しに使えるのに、わざわざ金と爆弾を一緒にして逃げてる。
あんまり計画的な犯行とは言えない。
「強力でなければサイドハイウェイ壊れるだけですし、民家に被害は出ないと思いますので……。まあ、あんまり被害報告は出したくないですが」
『じゃあタイヤ撃ち抜いて、電気弾をエンジンあたりにぶち込んで止めよっか』
「その後は隙を見て麻酔弾を撃てば何とでもなります。高天ヶ原」
「はい!?」
今まで蚊帳の外だったミズホは唐突に名前を呼ばれて、過剰に反応してしまう。
「――人を撃てるか?」