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ブリッジ・オン・ブルー  作者: 青二葵
2/5

第1弾:吊り橋のような生活の始まり

 

 ココノからいきなりの共同生活の命令に素っ頓狂な表情と思いしか出ないアオイとミズホ。

 男子と女子が一緒に衣食住を共にする。

 客観的に見てただの同棲では?

 しかし、アオイは何か誤解してるのかと思い尋ねる。

「あ、あれですか? 同じアパートに住むっていう話で、同じ部屋じゃないですよね?」

「いやアタシ、部屋って言ったよ?」

「なんでやねん」

 ココノの言葉に思わず彼は使わない方言でツッコむ。

「そもそも、高天ヶ原は家というか住んでる場所から出勤してきたんじゃないんですか?」

 そのアオイの言葉を否定するようにミズホは首を振る。

 それを見たココノは、

「ん〜、ないらしいよ?」

 ミズホのことを何も知らない感じで答えた。

 ココノの発言にアオイは眉を寄せて片手で頭を押さえる。

「あのですね……新人が来るとは聞いてましたけど、高天ヶ原のこと何も知らないんですか?」

「思い出したけど〜、なんというか彼女に関してはムスペルズウォールみたいに長くて複雑な話でね~」

「そう聞くと訳ありとしか聞こえないんですけど? しかも話せない事情の(たぐい)

「察しが良くて助かる〜。一本上げる〜」

 と、ココノはタバコを一本差し出す。

「飴ちゃんじゃないんですから……貰いますけど」

 そのやりとりを見ていたミズホはおずおずと発言する。

「えっと……すみません。世俗に疎いものでして」

「まあ、高天ヶ原が気にすることではないですけど」

 フォローする言葉を掛けて一息吐いて、アオイは別の案を考える。

 流石に倫理的にマズイだろう。

 アオイ自身に高天ヶ原をどうこうしようという気はまったくない。

 そもそも治安維持する職員がわいせつ行為なんて、どう考えても処分対象だ。

 同性ならともかくなぜに恋仲関係でもない異性とルームシェアをしないといけないのか……

 面倒を見るといっても範囲も変わってくる。

「ここの2階は?」

「既に満員だね〜」

「所長の家は?」

「ここが家みたいなもんだし~」

「所長がルームシェアすればいいでしょうに」

「住むスペースが……」

「ズボラ所長……」

 アオイのどの案も遠回しに却下されてしまう。

 住んでるアパートに空き部屋がないかをアオイは思い出してみるが……確かなかったことを思いだす。

 ルームシェアは可能であったが、そもそも橋の上での居住はスペースが限られるのでルームシェア可能な物件は多い。

「まあまあ、アオイ君なら変なことしないでしょ? 君は変に貴真面目だしね~」

「余計なお世話です」

 自分でも分かっているが、ココノの適当さを見てるとどうも釈然としない。

 なので、子供のように意地っぽく返した。

 ともあれ、こうなって来るといよいよ選択肢が無くなってくる。

「他の借り家はどうなんです?」

「人口問題でどこのアパートもパンパンなの知ってるでしょ~? そもそも、住む土地がないから橋の上で暮らしてる訳だし~。その橋の上も過密になってるけどね~。土地の埋め立ても年単位の計画で、しかも潮が基本的に速いせいで埋める前にすぐ流されちゃったりと、ニュースでもやってた訳だし」

 と、ココノはやだやだ、とやさぐれる。

 ともかく選択肢は消えた。

 相手は女の子の新人、しかもどこか儚さがある黒髪の美人。

 仕事は仕事なので女性と言うよりは後輩として見るが、それでも異性は異性だ。

 男の部分が反応しない訳がない。

 そして、アオイは考える。

 ルームシェアということは……マズイことがいっぱいある。

 風呂とか風呂とか風呂とか、洗濯だ。

 色々と気を遣う場面が増える。

「というか、本人の意思はどうなんです? 男と同居なんて」

「うーん……どう? 高天ヶ原さん。住む場所ないんでしょ?」

 ココノがミズホに問い掛けたところで、彼女は少しだけ顔を赤くして――

「え、えっと……不束者(ふつつかもの)ですがよろしくお願いします」

 何故か嫁入りするみたいな挨拶をし始めた。

 その仕草と可憐さにアオイも流石に胸が高鳴る。

 誤魔化すように顔を手で覆って、

「よく考えてます?」

 と思わず呆れて問い掛ける。

「その、他に居住が無いというのも理解しましたし。橋上さんが私を気遣っているのが分かりましたので、別に悪い方でないのなら――」

「おお、いいじゃん。信頼されてるね~」

「ちょっと黙ってくれます?」

 ココノの茶々に思わず上司と言えどもアオイは強めにツッコむ。

「本人の了承も得たとこだし、荷物をまとめて面倒見なよ、初めての後輩でしょう?」

 仕事が進まないので、取りあえずは居住の話は終わりである。

 渋々、渋々ではあるがアオイも話しを進めるしかない。

「まあ、分かりましたよ……それで荷物は?」

「彼女の荷物は届いてるよ。アタシの横のコレね」

 と、ココノが示した彼女の机の横にあるのは、キャリーバックとちょっとしたスポーツバッグくらいの荷物がそれぞれ1つしかない。

 荷物が少ない上に不審な点ばかりではあるが、詮索はしない方がいいんだろうとアオイは諦め半ばに続ける。

「荷物を運ぶのに車を借りますよ」

「うん、いいよ~。今日は生活の態勢を整えたら終わりでいいから。明日はみんな集まると思うし、彼女の紹介はそれからね~。車は明日出て返してね~」

 荷物を持ったところでココノにそう言われる。

 仕事的にはそれで今日は上がりなのだから、ラッキーではあるが……何とも素直に喜べない始まりである。



 車に乗ってアパートへと戻る。

 微妙な空気の流れる何とも言えない車内。

 女性を助手席に乗せてのドライブ。

 男としては仕事が絡まなければ自慢できる話ではある。

 しかし、奇妙なルームシェアに茶化す気にもなれない。

「ともあれ……なんです? まあ、奇妙な初日になりましたが1つ上のイェソブリディアンの橋上 アオイです」

「あ、はい。よろしくお願いしますね」

「……堅苦しいか?」

 アオイは唐突に言葉を崩す。

 意表を突かれる感じでミズホは少し、呆気にとられた。

「え?」

「いや、仕事の時はなるべく丁寧にしてるんだ。階級あるからな」

 なるべく笑顔を交えて、アオイは緊張をほぐすように答える。

「そうなんですか?」

「まあな。ところで、荷物は少ないが……大丈夫か?」

「ええ、まあ……何とかなりますわ」

「お嬢様口調だな」

「変でしょうか?」

「いや、なんと言うか……珍しい感じだ」

 と、雑談を交わしている内に到着する。 

 荷物を運ぶのに2階じゃなく1階の住まいであることにアオイは感謝しつつ、指示を出す。

「鍵開けてくるから、荷物を持ってきてくれ」

「は、はい……」

 一緒に暮らすという認識が実感できてきたのかミズホは緊張してる面持ちである。

 ともあれ、アパートの自分の部屋の電子ロックの鍵を開ける。

「そのまま上がってくれ」

 と言いつつ先にアオイは部屋に上がる。

 おずおずとした感じで続いて荷物を持って部屋に上がるミズホ。

「……お邪魔いたしま~す」

「どうも……。男の部屋なんであんまり期待はしないでくれ。空き部屋は入ってすぐそこの右だ。多少荷物はあるが……一応は客間ではあるからそんなにない、はず」

 と短く案内する。

 そのままミズホのキャリーバッグを持って、部屋を空ける。

「まあ、しばらくは敷布団生活だが……ベッドは今後だな」

「いえ、充分ですわ。押しかける形で申し訳ありません」

「じゃあ、そんなに多くないが荷物を整理したら言ってくれ。買い物して……今日は終わりだな」

 今後の予定を軽く言ってアオイは部屋を離れる。

 それから自分の部屋で窓を開けて、ココノから貰った煙草に火を点ける。

「あー……同居生活か。まあ、でも他の先輩たちだと……どうなんだろうな〜」

 と、独り言を呟く。

 二十二警備所がどういう風に世間で呼ばれてるかを考えると不安が出る。

 決していい呼び名ではない通称があそこにはある。

 そのことをあまり思い出すのはやめて、アオイは再び紫煙を吐く。

 自分が面倒を見るのが最適だとは思う。

 適当に言ってるようなココノもそう判断してるんだろう。

 それに、どうもタダの新人ではないことを匂わせる言葉。

 詮索はしないし、本人が言う気がなければ特に追求するつもりもない。

 ――やることは、やるか。

 と、気持ちを新たにする。

 そんな時に部屋をノックする音。

『えっと……橋上先輩。終わりましたわ』

 扉越しにミズホの声が聞こえる。

「ああ、分かった」

 短く答えてタバコの火を消して、アオイは部屋を出る。

「それじゃあ、買い物ついでに地域を紹介しておくか……って、先輩?」

「……何か変でしたか?」

「ああ、いや……そうだな。先輩だよな」

 青い瞳で見上げて小首を傾げるミズホにアオイは照れ臭く笑う。

 初めて後輩で黒髪の美人。

 何とも言えない照れ臭さがある。

 どうやら思ったよりも緊張してるらしい。

「それじゃあ、行くか」

「はい!」

 元気よく返事をするミズホと共に部屋を出て再び車に乗り込む。

 再びドライブを始めて、また雑談ついでに確認をする。

「橋の上での生活は、初めてか?」

「そうですね。陸地育ちなもので」

「そりゃまた、裕福だな」

 陸地で過ごすというのは、裕福なことではある。

 なにせココノが警備所で言ったとおりに陸地が少なく、人口増大の観点で住める土地が少ない。

 あまり山など無闇に土地開発をする訳にもいかないのが世の情勢だ。

 必然的に土地代も高くなる。

 ともなれば……住める場所を作るしかない訳だ。

「一応は大きい街も近くにあるが、それでも高い建造物は陸地ほどない」

「そうなんですか?」

「そりゃあな。ただでさえ建造物の上に建造物建てて過ごしてるんだ。あんまり高い建物があると倒壊したときが大変だ。増築と改築が今もこの橋はされてる。生きてる橋だって所長は言ってるが、あながち間違いでもない」

「生きてる橋……何だが詩的ですわ」

「だからこそ、問題も多いんだけどな……」

 どこか哀愁がある言葉をアオイは続ける。

「さて、着いた。ここが第二十二中心街だ」

 車を手頃なパーキングで止めて到着を告げる。

 先程の住宅街と打って変わり、市街地とも言うべき場所。

 大型店がいくつも並び、飲食店も見える。

 その風景にミズホは目をきらめかせる。

「すごいです。まるでテーマパークみたいですわね」

「まあ、そうだな……駅といくつもの店が一体化してるようなもんだし……」

 実際、中心街は1つのショッピングモールとでも形容できる構造をしている。

 上から見れば巨大な長方形をしている事だろう。

 メインとなる中心には生活用品や食品を扱う店があり、そして中心を囲うようにいくつもの大型店が列をなしている。

 両側には駅があり、改札を降りればそのまま店内へと続く構造になっており、さらに連絡橋で各建物へと続いており、それぞれの買いたい店へとすぐに行けるようになっている。

「そう言えば金はあるのか?」

「一応は、それなりにあります。クレジットも使えるのでしたら……」

「なら問題ないな。必要な家具とかあるなら住所に届けるようにしてもらえ」

「どうやるんですの?」

 そのミズホの言葉にアオイは思わず呆れる。

「店員さんに頼めば良いだろうに、買い物したことないとか言わないよな?」

「えっと……」

 言葉に詰まりミズホが視線を泳がせる。

 その反応に、

(マジか~……予想よりお嬢様な感じなんだが。なんでブリディアンになったのかよく分からなくなってくるレベルだぞ)

 アオイも一層疑念が深まる。

 ここまでくると怪しさ満点だが、アオイは詮索しない主義だ。

「仕方ない。適当に案内するから欲しい所があったら言ってくれ。女性関連のショップは案内はするが入らないからな」

 念のため釘を刺しておく。

 それからから(はた)見ればデートにしか見えない買い物が始まった。

 何もかもが珍しいのか、ミズホはまるで子供の用に通る店を一つ一つ目を輝かせて見ている。

 その光景を見ているアオイは不安半分微笑ましさ半分で、何とも言えない表情をする。

 ようやく目的の店へ辿り着き、ベッドなどの必需品の家具をいくつか購入して買い物は終了した。



 車へと戻ったところで、一息つく。

「こんなところか」

「ありがとうございます。お陰でまた、色々と知れましたわ」

「俺としては買い物の仕方が分からないことに驚きなんだが?」

「それは、やんごとなき事情と申しますか……何と言いますか……」

「さいで……。お家事情なら深くは聞かないが……今のところ怪しさ満点だぞ」

 その言葉にはぅ、と短くミズホは鳴く。

 そんな時だった――

 アオイの電話が唐突に鳴る。

 相手はココノだ。

 状況でも気になって掛けて来たのかと思い、出る。

「はい、アオイです」

『あ~、橋上? デート中すまんが』

「誰がデートですか。茶化すなら切りますよ」

『ああ、ちょっと待て! 事件、事件だよ!』

 その言葉に、慌ただしい新人の初日が続くことをアオイは予感するのだった。

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