気がついたら、馬車に乗っていましたわ〜。
「お買い物に行くわよリオノーラ! 行くのよ行くのよ行くったら行くのよ!」
「あら〜、お義姉様、何か欲しいものがありますの〜?」
サラリアお義姉様が帰ってきた翌日。
兄のミリアルドは、朝からお父様とどこかへ出かけており、お母様はお茶会に出向いていた。
つまり今、家には使用人以外にはサラリアお義姉様とリオノーラしかいない。
のんびりゆっくり、いつも通りに尋ねると、バッと両手を広げて全身でワクワク感を表現した。
豊かな胸が、たゆん、と揺れるのを、柔らかそうですわね〜、とニコニコ眺める。
「決まってるでしょリオノーラ! まずは社交用の新しいドレス! それから貴女と一緒に街を散策して、美味しいものとか美味しいものとか美味しいものとか食べるのよ!!」
「美味しいものは、食べたいですわね〜」
「何言ってるのドレスも大事よ私の可愛いリオノーラを着飾る年に2回のチャンスのうちの一回よ!」
ーーーわたくしは〜、着飾らなくてもいいんですけれど〜。
そう思いながら、リオノーラはのんびりゆっくり、首を傾げる。
綺麗なドレスを着るのは、好きか嫌いかと言われれば別にどちらでもない。
レイデンに綺麗だとか、可愛いだとか、そういう風に褒められるのは好きなので、彼と会う予定があれば、好きだけれど。
「でもお義姉様〜? わたくし、あまりお金がありませんわ〜」
「あら何でよ外に出かけないのだからお金使うことはないでしょ? まさかレイデンに貢いで!? その上に捨てられたのね許せないわ! あの男は実直そうに見えて詐欺師だったのねけちょんけちょんにしてやるわ!」
「本を〜、買い過ぎてしまいますのよ〜」
どんどん想像でヒートアップしていくサラリアお義姉様に、リオノーラはのほほん、と答える。
基本的に、リオノーラのお小遣いは月毎にしっかりしたお母様に計上されていて、その範囲内であれば使ってもいいと言われている。
使えば減るし、使わなければ貯まるが、それを帳簿につけるのはリオノーラ自身の仕事だった。
その費用をリオノーラは、基本的に本を買うのに使っていた。
ドレスほどではなくとも高価なものであり、読むために集めているので初版本のようなコレクターちっくなものには手は出さないけれど。
だけれど月に十冊も二十冊も、それこそ専門的な学術書などを買えば、ドレスが一着、買えてしまったりもする代物。
それが本だから。
「あらそうなのね確かに書庫の本がここに来るたびに増えているのは知っていたけどあれリオノーラのだったのね!? この間欲しいと思いながら手が出なかった錬金術の本があったからここにいる間に読ませて欲しいわ!」
リオノーラは、その言葉にニコニコとうなずきながら、一つ前の話題に返事をする。
「それに〜、レイデンはわたくしからお金を取ったりはしませんわ〜」
レイデンは、とっても真面目な人だから、『女性にお金を払わせるのは良くないらしい』と聞いて以降、どんなに細かいお金であっても決してリオノーラに払わせたりはしない。
そういえば、と、リオノーラの思考がぼんやりと別のところに流れていく。
レイデンは一度、二人でどこに出かけたらいいのか分からない、と悩んだ結果、周りの人間に片っ端から聞いて。
観劇に行く頃には『この日にレイデンとリオノーラがデートする』というのがバレていて。
レイデンの友人が揃って冷やかしにきた、ことがあった。
ーーーそういえば、レイデンってお友達が多いのかしら〜?
リオノーラが貴族学校に入る二年前に、レイデンは騎士団に入っていた。
だから、貴族学校に通っていない。
騎士団は貴族だけでなく平民も一緒くたに入るところで、上手く行けば騎士爵を得られるので、人気があるようだ。
ーーーあのお友達って、もしかして平民のお友達だったのかしらね〜?
あまり深く考えずにニコニコしていただけのリオノーラは、そんな風に気になって……ふと気づいた。
「あら、まぁ〜? サラリアお義姉様〜?」
「どうしたのリオノーラ?」
「なんでわたくし、馬車に〜?」
先ほどまで、居間にいたと思っていたのだけれど。
今は、つばひろの白い帽子を被って、外行き用の白いワンピースにいつの間にか着替え終わっていて、馬車にカタカタと揺られていた。
「ああ気がついたのねリオノーラ? 貴女がいつものぼんやりモードに入ったから、侍女に着替えさせて、手だけ引っ張って馬車に乗っけておいたのよ! 可愛いノロノロノーラに付き合ってたら買い物行く前に日が暮れちゃうからね!」
「ノロノロノーラって、ちょっと可愛いですわね〜」
「そうでしょそうでしょ!」
どうやら、自分がぼんやりしている間に、支度が終わってしまったようだ。
ーーーいつものことですわね〜。
サラリアお義姉様は自分のペースで動く人で、ペースを合わせてしまう人はすごく大変なのだと、思うのだけれど。
リオノーラはあんまりにものんびり過ぎて、ぼんやりしていると気がつけば色々終わってしまっている。
逸話の『ウサギとカメ』みたいだった。
リオノーラの近くにいるウサギは、カメが好き過ぎて抱き上げてどこにでも連れて行ってしまうウサギみたいだったけれど。
「さ、着いたわよ!」
馬車からぴょん、と飛び降りたサラリアお義姉様が、ニコッとまるでエスコートするように、手を差し出してくるのに。
リオノーラは、のんびりゆっくり、手を差し伸べた。
常人よりも、ぼーっとし過ぎなリオノーラ(๑╹ω╹๑ )お洋服は、レイデン色にする……には事情が複雑そうですね。
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