おまけ:アトランテ王国の恋形見?
そうして、季節が二つ巡った。
その間にも様々なことが起こったけれど、リオノーラはレイデンと共に穏やかな月日を過ごしたように感じている。
『随分、色んな騒動に関わって来た気がするが』
レイデンはそう言っていたけれど、基本的には何度か旅行して様々な遺跡等を巡ったり、ほんのちょっとした助言をしたり……という程度の意識である。
世界に混乱を齎す騒動も、リオノーラにとっては円く収まってくれさえすれば、レイデンとの日々の一つに過ぎない。
あの後すぐに北部辺境伯は亡くなり、リオノーラの予想通り、アダムス様がその地位を継いだ。
南部辺境伯家と、ソルディオン伯爵家、オルブラン侯爵家との関係も良好。
大公国に関しては〝風〟の侯爵であるルジュと密に付き合っていて、かの領地とグリフォン繁殖の共同事業を行っているアトランテ王国の王太子殿下や婚約者とも親しくなった。
そのアトランテ王国へ、王太子殿下と公爵令嬢の結婚式に誘われて、リオノーラは出席していた。
他に、ライオネル王国の王太子殿下夫妻も招待を受けていたそうなのだけれど、王太子妃がご懐妊なさったので王太子殿下だけ出席なさっていた。
結婚式とお披露目のパレードが終わり、諸外国の貴族交流も目的とした夜会なども滞りなく済んだ翌日。
リオノーラは友人として、お二人の元に招かれた。
そこで、レイデンとの馴れ初めから南部辺境領に赴いて結ばれたところまで話すと。
「恋形見ですの? ロマンチックな風習ですわねぇ……」
昨夜の主役であり、晴れて王太子妃となったディ・ディオーラ・アトランテ嬢は、はふぅ、とため息を吐いた。
黒髪に、銀環の紫瞳を持つ美貌の女性である。
リオノーラの4つ年下の彼女は、現在20歳なのだけれど、落ち着いた雰囲気を持つ大人びた人だった。
「形見、ってちょっと縁起が悪くないか?」
ディオーラ妃殿下の横で、ちょっと嫌そうな顔をしているのは、ワーワイルズ・アトランテ王太子殿下。
彼女と同い年であり、金髪碧眼の美男子だけれど感情表現が豊かな方で、今も口をへの字に曲げている。
「元々は〜、生き別れになる恋人同士が最後に贈り合うものですから〜」
リオノーラは、ふんわりと笑いながら、横に立つレイデンの顔をゆっくりゆっくり見上げる。
「でもリオノーラは、私に対しては、その意味すら変えてしまったのですよ。『自分達の間にあるものは、恋から愛に変わるから』と、その時の気持ちを形にして残しておく、と」
最初にレイデンが求めたものは、正しく恋形見だったのだ。
「わたくしは〜、嫌だったので〜。悲しい気持ちよりも〜、嬉しい気持ちを残しておきたいですわ〜」
ディオーラ妃殿下は、何度か頷いた後、あ、と小さく口を開いた。
「わたくしも、殿下の恋形見を何か残しておきましょうか。何か下さいませ」
「嫌だ! そんなものなくても私は大丈夫だ!」
「でも、殿下はすぐに忘れるではないですか」
「ディオーラを好きな気持ちを忘れたことはない!!」
意固地になって顔を背けるワイルズ殿下に、ふふ、と嬉しそうに笑ったディオーラ妃殿下は、ぽん、と手を叩いた。
「まぁ、良いですわ。リオノーラ夫人?」
「はい〜」
「素敵なお話を聞かせていただいたことですし、わたくしもやってみたいですわ。けれど、殿下には断られてしまったので……リオノーラ夫人とわたくしの間で、一つ何か、交換致しましょう?」
「是非〜♪」
「わたくし、丁度季節二巡りになる殿下との思い出の品を、一つ持っていますの。それを友好の証として複製して、リオノーラ夫人に送らせていただいても宜しいでしょうか?」
「何だ? そんなものあったか?」
「ええ。まさかお忘れになっているのですか? やっぱりわたくしへの気持ちは、その程度なのですわね……」
わざとらしく泣き真似をするディオーラ妃陛下に、ワイルズ殿下が焦る。
「そ、そんな訳がないだろう! えーと……」
「妃殿下の瞳に関わるものですよ、ワイルズ殿下」
焦る殿下に、レイデンがこっそりと呟く。
どう考えてもディオーラ妃陛下にも聞こえているけれど、戯れあいの範疇だと彼も気づいているのだ。
堅物と言われたり、心の機微に疎いと言われたりしていたけれど。
レイデンは真っ直ぐなだけで、実際は人の気持ちや人と関わった記憶などは鮮明に覚えている。
「【整魔の指輪】か!」
「そうですわ」
ライオネル王国のイオーラ・ライオネル王太子妃殿下に掛け合って、ワイルズ殿下が作って貰ったという魔導具である。
瞳の病が完治したディオーラ妃殿下にはもう必要ないものだけれど、当時は必要だった品。
改めてプロポーズの言葉と共に贈ったものだと、聞き及んでいた。
「良いですわね〜。イオーラ妃殿下に改めて頼めば〜、次代の友好も示せますものね〜」
「ええ」
リオノーラは、ディオーラ妃殿下と頷き合い、自分の贈り物も考える。
「そうですわね〜……でしたらわたくしは〜、新たに開発されたグリフォンの装具をお贈り致しますわね〜」
「まぁ!」
ディオーラ妃殿下が目を輝かせる。
アトランテ王太子殿下夫妻は、魔獣がお好きなのだ。
その中でもわざわざグリフォンの装具を選んだのにも、勿論理由がある。
大公国とアトランテの、グリフォンの共同繁殖事業の繋ぎ役になったのはリオノーラであり、そのグリフォンの新装具も、ワイルズ殿下の飛竜が纏う鎧を元に作ったものなのである。
風の魔術を操る呪玉と魔導陣を埋め込んで、飛翔速度やグリフォンの負担軽減による航行距離の向上を目的とした装具。
そしてディオーラ妃殿下の乗騎が、グリちゃんと呼ばれるグリフォンであることなどを考慮した上での提案だった。
「実用性が高いな」
「道具は、使っていただくのが一番ですもの〜。わたくしも、大切な時に【整魔の指輪】を身につけさせていただきますわ〜」
そんなやり取りをして、リオノーラは胸の前で両手を合わせる。
「お二方も〜、素晴らしい愛を育まれると〜、信じておりますわ〜」
完結です!
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