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真実はどこにあるのでしょう〜?

 

「……もし、それが真実であったとして」


 ライサンお義父様は、呻くように言葉を絞り出した。


「私の口から何かを言える、と、思われますかな? レイデンは、私と妻の、誉れ高い息子ですよ。それだけは、変わりない事実です」


 その発言が精一杯の譲歩なのだろう。


「……父上」


 レイデンが掠れた声で呼びかけ、ライサンお義父様を見据える。

 彼はグッと唇を引き結ぶと、すぐに静かな笑みを浮かべた。


「レイデン。私は一介の商人に過ぎない。そして亡きお前の母は、その妻だ。父が運良く準男爵となり、私も商売の成功を得て運良く男爵になれた。それだけだ。……国を揺るがすような何かなど、我が家にはない」


 レイデンが王家の血を継いでいない、と、暗に否定する言葉。

 けれど、ライサンお義父様の言葉には続きがあった。


「だから、お前は好きに生きていいのだ、レイデン。南部辺境騎士団騎士団長として。……それは、お前自身の手で掴み取った、素晴らしい栄誉だ」

「……ありがとうございます」


 彼の言葉の奥に秘められた、レイデンへの愛情に、リオノーラはちょっと泣きそうになった。

 ライサンお義父様は、これ以上何も口にはなさらないだろう。

 

 過去に何があったかを、死ぬまで語る気はないのだ。

 

 けれど、もう十分だった。


「わたくしからも〜、ありがとうございます〜、お義父様〜」

「私は何も言っていませんよ。私と亡き妻が望んだのは、レイデンと貴女が健やかに、平和に、生きてくれることだけです」

「分かりましたわ〜」


 リオノーラは、ゆっくりゆっくり頷いた。


「ですけれど〜、少しだけ〜……ほんの少しだけやることがあるので〜、わたくし、今日はこれで失礼致しますわ〜。レイデンは〜、どうなさいますの〜?」

「俺も帰ろう。……また、ゆっくり会いに来る。慌ただしくてすまない、父上」

「構わない。私も若い頃は忙しくしていたものだ」


 ライサンお義父様に見送られて、馬車に乗り込んだリオノーラは、横に座ったレイデンの顔を見上げる。


「レイデンは〜、どうしたいですの〜?」


 リオノーラが一番気になっている部分は、そこだった。

 きっと彼なら、という答えはあるけれど、これはリオノーラの話ではなく、レイデンの話である。


 物凄く重大な秘密だけれど……その秘密を暴くかどうかは、彼次第なのだ。


 リオノーラの問いかけに、硬い表情でこちらの手を握ったレイデンは、いつも通りに生真面目で、真剣な口調で問いかけてくる。



「ーーーもし俺が、『玉座を欲する』と言ったら、君はどうする?」



 その問いかけは少し予想外で、リオノーラはゆっくりゆっくり目をぱちくりさせた。


「そうですわね〜……」


 その問いかけの意味をのんびりのんびり考えてから、小さく微笑みを浮かべてみせる。


「レイデンが〜、本当に欲しいのなら〜、どうにかすることは出来ますわね〜?」


 全て穏便に、とはいかないだろうけれど。

 出来ないことはない、と判断した。


 レイデンが、先代国王陛下の孫である点は事実であり、それを証明出来れば王位継承権は付与されるだろう。

 きっと、セフィラ様に頼むか、アルミニカ様を通してペソティカ男爵家が管理する資料を見せて貰えれば、証明することも可能だろう。


 後は他の継承者がいなくなるか、簒奪するか、である。


「出来ますけれど〜、ライサンお義父様の『平和に』の願いは踏み躙ることになりますし〜……レイデンは、国の頂点に立つことに興味がありますの〜?」


 レイデンは決して馬鹿ではない。

 真っ直ぐ過ぎて、騎士団長を目指した時みたいに、ちょっとズレた行動をすることはあるけれど。


 彼はリオノーラの質問に、少し黙った後に、少しだけ話を逸らした。


「リオノーラ。君が優しい人で良かったと、俺は心の底から思うよ」

「そうですの〜?」

「ああ。玉座を望む、と言えば、きっと君ならば本当に、俺を王にすることが出来るのだろうから」


 レイデンはそこで、優しく笑みを浮かべた。


「俺は騎士だ。剣を振るうことしか能がない。玉座なんて大それたものは、いらない」


 キッパリと告げられた言葉に、リオノーラは満面の笑みを浮かべる。


「レイデンなら〜、そう言うと思いましたわ〜」


 彼が騎士団長を目指したのだって、昔『最強の騎士になる』とリオノーラに誓ったからであって、地位そのものに興味があった訳ではないのだから。

 

 ーーーそんなレイデンだから、わたくしは愛しているのですもの〜。


 嬉しくなってコテン、とレイデンの肩に頭を乗せると、彼は軽く頭を撫でながら囁いた。


「だから、教えてくれないか? リオノーラ。どうすれば秘密を守ったまま、北部辺境伯の企みを挫けるか」

「挫きますの〜?」

「君の策略で首根っこを押さえただけでは、北部辺境伯は諦めないかもしれない。不穏の種は出来る限り残したくないと、俺は思っている。リオノーラの知恵を貸して欲しい」

「わたくしに出来るのは〜、考えごとだけですけれど〜、レイデンとゆっくりする為に〜、ちょっとだけ考えてみますわね〜?」

「ああ。大公国に向かった時のように、平和の為の策を授けて欲しい」


 平和が良い。

 それが、レイデンやライオネル王国の人々だけでなく、皆の願いなのだ。


 行商人のルジュとして、リオノーラと対峙してから懇意にしている〝風〟の公爵ムゥランも、それを望んでいた。


 リオノーラは以前、レイデンが口にした通り、南部辺境伯であるザムジードお義父様と共に大公国に旅行に行ったことがある。

 『大公選定の儀』と呼ばれる、大公国の次のトップを決める儀式に、〝風〟のムゥランに誘われて出席したのである。


 その時も、リオノーラには狙いがあった。


 魔獣の凶暴化に伴う【災厄】に関連した出来事が、大公国で起こっており、リオノーラは少しでも事が穏便に済むように動いた。

 その時も、レイデンと相談したのだけれど……彼の願いは、いつも同じ。


 剣を振るうしか能がない、とレイデンは言うけれど。

 その機会がなくて済むことを、彼はいつだって望むのだ、


 だって、レイデンが剣を振るうのは、人を守る為だから。


「今回の件を収める為には〜」

「ああ」

「準備を整えた後に〜、ソルディオン伯爵と〜。北部辺境伯に〜、一度お会いする必要があるかもしれませんわね〜?」


 リオノーラは、そう告げてふんわりと微笑む。


「直接、か」

「そうですわ〜。だって、あの方にもきっと事情があって〜、何かを望んでいるのですもの〜。聞いてみなければ〜、分からないでしょう〜?」

「望み……」


 レイデンが不思議なことを言われたように首を傾げたので、リオノーラはゆっくりゆっくり、自分の胸に手を当てる。


「北部辺境伯も〜、今を生きる『人』なのですもの〜。人が何か行動を起こす時には〜、そこに何か想いがありますのよ〜」


 アルミニカ様が、セフィラ様の招待を受けて夜会に赴いたように。

 セフィラ様が、そこで婚約破棄を受け入れてアルミニカ様の下に赴いたように。


 きっとソルディオン伯爵や北部辺境伯にも、何か強い想いがあるように、リオノーラには思えたのである。


「領地の困窮、立場の悪化……そうしたもの以外にも、何かがあるということか?」

「ええ〜」


 北部辺境伯は、アバッカム公爵家の没落に伴う国内勢力図以外にも、領地に関して窮していることがある。


 『大公選定の儀』の開催直前に当時大公位にあった〝水〟の大公が暗殺され、かつて起こした犯罪が明らかになって〝水〟の権威が失墜したからだ。


 故に、北部辺境伯が懇意にしていた〝水〟の公爵家から〝火〟の公爵家に大公位が移ったのである。


 その為、鉱物等の輸入に関しても影響が出始めている頃合いなのだ。

 〝水〟が輸出を絞っている、というよりも、向こうの経済的な事情によって。


 新たな大公は、鉄道作りに意欲的で、その為に国内で大量の鉄等や燃料等を必要としている為、関連して輸出する物量が減ることで徐々に鉱物の物価が上がっているのである。


 そこでリオノーラが国内分を押さえてしまうと、追い詰め過ぎてしまうかもしれない。

 

 自棄になった人間は、どんな行動を起こすか分からないので、鉱山と小領の買収に合わせて、リオノーラは面会を申し込むつもりだった。


「リオノーラは、北部辺境伯の事情を、察しているのか?」

「推測ですけれど〜、薄々は〜」


 何故『反帝国』であることに固執するのか。

 詳しいことは調べてみないと分からないけれど。


 ーーー人の想いは、ままならないものですもの〜。

 

 と、リオノーラはそう思った。

 

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