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ザムジードお義父様に〜、お話を伺いますわ〜。


「ガッハッハ! 北部辺境伯か! これはまた、ビッグネームじゃの!」

「あなた。笑い事ではありませんわ」

「そうですわ、お父様」


 ザムジードお義父様の大笑いに、妻でありデルトラーデ侯爵家の末娘であるエルマリア様と、前妻の娘であるアイオラ様がそれぞれに呆れ声を上げた。


 エルマリア様は、元々リオノーラの同級生なのだけれど、セフィラ様と同様にリオノーラを馬鹿にしない人だった。

 気に入った相手にちょっと変わったあだ名をつけるのが好きな人で、『頭の足りないリオノーラ』と、彼女の兄の友達であるレイデンの『猪レイデン』も彼女の命名である。

 

 昔からザムジードお父様のことが大好きで、熱烈なアプローチでそれを受け入れさせた情熱の人だ。


 アイオラお義姉様は、前アバランテ辺境伯夫人が儚くなった後、ザムジードお父様の領地経営の右腕として力を発揮してきた女性で、最初リオノーラにあまり良い顔をしなかった。

 けれど公平な人で、〝風〟の領地がらみの件などもあって信用してくれたので、今ではとっても仲良しだ。


 そんなアイオラお義姉様は、ザムジードお義父様に半眼で告げる。


「北部辺境伯に仕掛けられているのですよ? リオノーラの言う通り、ソルディオンが向こうにつけば交易面で支障が出ます。やり返しましょう」

「まぁ、落ち着け。そもそも闘争となったところで、我が領が負けることなどあるはずもない」


 その自信は、決して過大ではない。

 王家の手前大人しくしているだけで、南部は二つの魔獣生息域に挟まれており、かつ少し前までは大公国の〝風〟の公爵領を相手にしていた、常に兵士が戦いに身を置いている領なのである。


 また近年起こった【災厄】と呼ばれる魔獣大侵攻も防ぎ切った。

 出現した魔王獣を〝光の騎士〟と共に討伐したレイデンやアーバインがいる南部辺境伯軍は、現在最強の戦力を保有している、と言っても過言ではないのだ。


 笑い声を収めたザムジードお義父様は、口元にはニヤリと笑みを浮かべたまま、こちらに目を向ける。


「が、リオノーラが話を持ってきたのだ。北部の不穏な動きに関して、何か策があるのだろう?」

「ええ〜」


 のんびりと応じたリオノーラは、差し出されたティーカップに口をつける。


「オルブラン侯爵家もこの状況を把握しておりまして〜。ソルディオン領が向こうに取られるという事態には、わたくし達が上手く動けばなりませんわ〜」


 その為に、セフィラ様はこちらに情報を落としたのである。


「だが、子飼いのミスティにソルディオンが味方するという状況であれば、交易の要所を奪われる流れは止められまい?」


 ザムジードお義父様は笑みを浮かべているが、目は笑っていない。

 それも当然で、南部辺境伯家は王家と血こそ繋がっていないが、ライオネル建国の際にライオネル領であった南部辺境を任された、王家の忠臣なのだ。


 当然、内乱は歓迎しないのである。

 それを踏まえた上で、リオノーラは策を講じた。


「わたくし、お金がたくさんありますのよ〜」

「……私的な財産の話かの?」

「はい〜。二人のお義父様から支払われた慰謝料を〜、結局全然使っておりませんので〜、この際大きく使ってしまおうかと思いますの〜」


 リオノーラはゆっくりと、頬の手を当てる。


「何に使うつもりかの?」


 話の先が見えないのか、ザムジードお義父様がソファの背にもたれて腹の上で指を組んだ。

 

「鉱山を一つと、小領を一つですわ〜。ただ買えはしないので〜、その為に王家への口利きを〜、お義父様にお願いしたいのですわ〜」

「……どこの鉱山と小領かにもよるが?」


 小領、というのは、いわゆる貴族が預かっておらず、王家から官吏が派遣されている領地、あるいは1代限りの準男爵が預かる小さな領である。

 また、南部辺境伯領のような大きな領になると、その土地を預かる貴族が管理者を任命して一部を任せることもある。


 立場としては地主に近い人々の預かる土地だった。


 が、国とは王のものであるという建前上、領地を丸々買い上げるのは、たとえ小領とはいえ、小領主の合意と王家の許可が必要なのである。

 鉱山も管理者としての権限を金銭によって委譲するという形なので、同様に王家の許可が必要だった。

 

 そして、何故買うかという理由について……その点を含めて、ザムジードお義父様の口利きが必要なのである。


「北部は〜、反帝国主義なので〜、鉱物の買い上げと武装の生産を自領と〜、親大公国系に頼っておりますわね〜?」


 リオノーラの告げた言葉に、エルマリア様とアイオラ様はキョトンとしたけれど、ザムジードお義父様は目を見開いた。


「……リオノーラ」

「鉱物の産出に関しても〜、北部領には山岳がございませんから〜、当然他領に頼っておりますわ〜」

「一体どういうお話ですの?」


 エルマリア様が首を傾げるのに、リオノーラはゆっくりゆっくり、説明する。


「北部領の利点は、二つですわ〜」


 経済面では、北部内海が面しており、大公国や帝国から王都に続く河川が領の近くを通っていて、交易が容易いこと。

 武力面では、対帝国、対大公国の要である為に、万一の戦に備えて強大な武力の保持を許されていること。

 

「金と戦力……たとえソルディオンを押さえられても、北部領から(・・・・・)お金が流れてくる場所(・・・・・・・・・・)を押さえてしまえば〜、どれ程関税を引き上げられたところで、こちらも引き上げてしまえば宜しいというお話になりますわ〜」


 精強な兵を有していたとしても、北部は武装の大元となる鉱物を自領で賄うことは出来ないのである。

 そして大公国と懇意であるとしても、大公国とて自国を脅かす程の武装を他国領である北部領に卸すことはないし、全てを割高な他国交易で賄うには多大な金銭が必要となる。


 武具製造の資材提供地、その半分を賄う自国拠点を南部で押さえてしまえば、相手の二つの利点に刃を突きつけるのと同義だ。


 武によって権威を保っている北部辺境伯領に、軍備を控えて武力を落とす選択肢はない。

 そうなれば他領に舐められる上に、そもそも領地を預かる意味すらも失ってしまうことになるのだから。


「北部が大人しくしていれば〜、こちらが権利を行使しなければ良いだけになりますわ〜。簡単なお話でしょう〜?」


 国内最大の鉱山は王家が権利を握っており、そうでない鉱山は南部領を含めて幾つかあるけれど、北部に近いのはただ一つだけ。

 争うのがダメだというのなら、争えなくしてしまえば良いだけの話なのである。


「如何でしょう〜?」

 

 他の三人が絶句してしまったリオノーラの提案に、横で話を聞いていたレイデンが静かに頷いた。


「相変わらず恐ろしい発想だな、リオノーラ。君に欲がなくて、本当に良かったと思うよ。騎士にとって、戦えなくなる以上の恐怖はないからね」

 

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