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ということで、夜会ですわ〜。


「だ、男性……なの、です、か?」

「ええ。ようやく許可(・・)が下りたので」


 セフィラ様は、呆然としているアルミニカ様に、ニコニコと告げる。



「先日アバッカム公爵が捕らえられた件の、後片付けが済みましたから」



 彼の発言に、場が戸惑いに包まれる。


 ーーーなるほどですわ〜。そういう方法で進めますのね〜。


 リオノーラは、セフィラ様の口にした言葉に、深く納得した。


 アバッカム公爵は、先年に王族暗殺を企んだとして捕らえられ幽閉された人物である。

 ライオネル王国が立つ前に存在した、前アバッカム王国の王家の血を継いでおり、永世公爵の地位を賜っていた家系なのだが。


 今代のアバッカム公爵は、覇権の奪還を狙って色々と裏で動いていたのだそうだ。


 娘を王太子殿下の婚約者にしようとして汚いことにも手を染めていた彼を捕らえたのは、なんと魔導省で貴族犯罪を取り締まっていた彼の息子、マレフィデント・アバッカム公爵令息だった。


 父の犯罪を暴いた功績を持って、アバッカム公爵家の存続自体は許されたが、その後処理には少々時間が掛かっていたのである。


「わたくしの役割は、女性としての立場から、アバッカム公爵に協力する者を暴き出すことでしたの。ソルディオン伯爵家には悪いことを致しましたわ」


 幼少の頃は、王太子殿下の婚約者候補……アバッカム公爵令嬢のライバルに扮した囮として。

 そしてその役割を終えた後は、他の悪事を男性とは別の方向から捜査する為に。


 ーーー王家の〝影〟としては、妥当な理由ですわね〜。


 暗に王家の命令という点を匂わせれば、ソルディオン伯爵家としても文句を言いづらい。

 性別を偽っていたことに関しても、王家の命令という形にすれば元に戻すのも容易い。


 という形で(・・・・・)この後の(・・・・)手続きを進める(・・・・・・・)のだろう。


 ーーー多分、全部大嘘ですわね〜。


 アバッカム公爵なら、口実として丁度いい。

 何せ企んだのが、王家の暗殺であり、現在生涯幽閉を宣告されている。


 セフィラ様がそうしたスパイ行為を行う理由として、またこのタイミングでその事実を明かす理由として、何もおかしくないからだ。


 同時に、これはセフィラ様の個人的な仕返しなのだろう。

 父であるオルブラン侯爵が王家と懇意であるという点を利用することによって、手間を掛けさせることが。


 もしセフィラ様の今の話を今後『虚偽である』と公表して覆した場合、王家の名を勝手に騙ったとして当然ながら極刑。


 となれば、オルブラン侯爵家当主もその責任から逃れることは出来ず、王家との関係に亀裂が入る。

 あるいは、セフィラ様だけを処罰して当主への管理責任を王家が問わなかった場合、その特別扱いによって貴族の間に不満が残ることになる。


 が、このままセフィラ様の言を『真』とした場合には、何も問題は起こらない。

 王家の名の下に貴族籍を書き換え、セフィラ様は男性として過ごすことになる。


 ーーー『貴族籍を書き換える』がセフィラ様が当主に与えられた課題なら、100点満点ですわね〜。


 きっとオルブラン侯爵は面白がって合格を出し、国王陛下に掛け合うだろう。

 王家としても、オルブランを失うのは本意ではない筈なので、その要望が通る可能性は高い。


 ーーー何より、アルミニカ様を利用したり、ペソティカ男爵家に迷惑を掛けることになりませんわ〜。


 あの腕輪に探査の魔術が込められていたことがバレても、『アバッカム公爵が重要機密を狙い、アルミニカ様を誘拐する可能性があった』という言い訳が立つ。

 

 リオノーラがこのまま真相を黙っていれば、完璧な計画である。

 黙っていれば、だ。


 サラリアお義姉様に教えられたオルブラン侯爵家の男性の気質は、もう一つある。

 どうやら『一人の女性に一目惚れし、その人にベッタリになるらしい』という話だ。


 オルブラン侯爵も、セフィラ様の兄上であるズミアーノ様も同じらしく、となればセフィラ様もその気質があるのだろう。


 アルミニカ様と直接言葉を交わしたのは、たった二度だけだというのだから。

 そんなセフィラ様は、視線を彷徨わせているアルミニカ様に優しく問いかける。

 

「如何かしら、アルミニカ様。わたくしが婚約者というのは、ご不満?」

「いえ、けけ、決してそのようなことはないのですが! その! 理解が追いつかず、混乱しております!!」


 本当に混乱しているのだろう。

 アルミニカ様は、ご令嬢らしからぬビシッと背筋を伸ばして、両手を後ろに組んだ姿勢……いわゆる騎士の『気をつけ』の姿勢で声を張り上げた。


 そんな彼女に、セフィラ様はニコニコと頷いた。


「なら、場所を改めましょう。ご来場の皆様、お騒がせして申し訳ありません。どうぞ、ごゆっくり」


 言いながら、セフィラ様はアルミニカ様をひょい、と抱き上げた。

 いわゆる、お姫様だっこというやつ。


「は? へ?」

「では、失礼致しますわね」


 そのまま出口に向かって歩き出したセフィラ様は、通り過ぎざまにリオノーラに向かって片目を閉じる。


 ーーーセフィラ様とはお友達ですけれど〜、流石に探査魔術のことは〜、アルミニカ様にお伝えしないとフェアではありませんわ〜。


 それを知った上で、それでもセフィラ様が良い、というのなら問題ない。


「エルマリア様〜、ザムジードお義父様〜。わたくしもちょっと出ますわね〜」

「え? え?」

「どこに行くのかな!?」


 全く状況についていけていないエルマリア様がキョロキョロして、こういう妙なことが大好きなお義父様はニヤニヤしている。


「どこに行くかは〜、内緒、ですわ〜。レイデン〜、行きましょう〜」

「ああ。セフィラ様は、アールをどこに連れて行ったんだ?」


 一人だとノロノロしてしまうので、レイデンの腕に手を掛けて歩き出すと、彼が首を傾げる。


「多分〜、馬車でご自宅にお送りするだけだと思いますの〜。ただ、馬車の中でお話はなさるのではないでしょうか〜」

「なるほど。では、リオノーラが追う理由は?」


 ざわめく会場を出て、レイデンが少し声を潜めるのに、リオノーラはニコニコと答えた。


「アルミニカ様に隠し事をせずに〜、ちゃんとお話をしたかを〜、確かめるだけですわ〜」

 


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