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エルマリア様と、恋バナですわ〜。【中編】


「辺境伯様に、ご挨拶申し上げます〜」


 リオノーラは、庭で出迎えた客人に礼儀(カーテシー)を取った。


 お茶会から一ヶ月ほど。

 辺境伯様はレイデンを向こうに連れて行って、社交界シーズンも終わり、父母は自領に一足先に戻っている。

 

 王都のタウンハウスには今、リオノーラと少数の使用人だけで、辺境伯をお出迎えした後はリオノーラもノホーリ領に赴く予定だった。

 ノホーリ領は、王都と辺境伯領を直線で結んだ街道の真ん中あたりを、少し東に外れたところにあるので。


「リオノーラ嬢! 顔を合わせるのは『領土取り』以来だな! 相変わらずのんびりしているが、美しく目が癒されるぞ!」

「ありがとうございますわ〜。お菓子とお茶をご用意致しましたので、どうぞお座りになって〜」


 今日は他でもない、エルマリア様を辺境伯様がどう思っていらっしゃるかという、探りを入れる日だ。

 少しお茶を嗜んで会話に花を咲かせた後、リオノーラは辺境伯様に向かって、のんびりゆっくり、首を傾げた。


「辺境伯様は〜、エルマリア様とお知り合いなのですね〜?」

「ネテ閣下の娘さんだな! もちろん存じ上げている! 気がお強く、言葉のやり取りが中々に面白いご令嬢だ! 何せこの私が『突撃ザム爺』扱いだからな!」


 ガハハ、と表情を緩めて目尻のシワが深くなった辺境伯様に、どうやらエルマリア様は嫌われてはいなさそうですわね〜、と、のんびりゆっくり考えたリオノーラは。



「ーーーでは、エルマリア様の思慕には気づいておられまして〜?」



 ビシ、と笑みが固まった辺境伯様に、リオノーラはニコニコのまま問いかける。


「気づいていて〜、弄んでおられるのでしたら〜、わたくしとしては少し、気にかかるのですけれど〜?」

「何だか、いつもと同じなのに笑顔に迫力があるな、リオノーラ嬢!」


 誤魔化そうとしているけれど、辺境伯様の額にジワリと汗が浮かんでいる。

 お髭の口元もピクピクしているところから、これはガッツリ気づいていることを、のんびりゆっくり、確信して。


 リオノーラは、ニコニコと、こめかみに指先を伸ばす。


「リ、リオノーラ嬢、それは!」

「その件で少し〜、じっくりとお話ししたいと思いますの〜」


 焦り出した辺境伯様だけれど、リオノーラは動きを止めず、目を閉じてからトン、トン、トン、と三回、自分のこめかみを指先で叩いた。


※※※


 ゆっくりと目を開けた『淑女のリオノーラ』は、青い瞳を泳がせる辺境伯様に、完璧な微笑みを浮かべて問いかける。


「ここを発つ前に、わたくしは唯一、友人と呼べる方の憂いを払いたいと思っておりますの。人の恋路に口を出すのは、少々野暮とは思いますけれど……わたくしにもエルマリア様にも、時間は残されておりません」

 

 花の命は短いものですから、とリオノーラは静かにお茶を口に含む。


「熟し切り甘酸っぱい実そのものである辺境伯様に置かれましても、それは同じ。そして仕事が迅速であり、ご自身が人の機微においても知略においても聡明であらせられることは、わたくししっかりと理解しておりましてよ」


 ご自身も生い先短いだろう、誤魔化しは許さないぞ。……そう婉曲に告げると、辺境伯様は眉根を寄せる。


「そうは仰るが、レディ。この枯れ木はもう火遊び一つで燃え落ちる身でありますぞ!?」

「では、芳醇な蜜と清浄な水を交わされませ。花を手折らず、枯らさず愛でる術を、まさかご存じないとは仰らないでしょう?」


 一時の恋情に身を焦がすには老いている、と辺境伯様は言い。

 妻として娶り、大切にすることは出来ないのかとリオノーラは問う。


 すると、ますます渋面になった辺境伯様は、憂いを含む目でこちらを見る。


「……子よりも下の、年若く清らかな令嬢を。血生臭く娯楽もない辺境の爺いの後妻として(かどわ)かせと? それがどれ程に罪深いか、理解出来ぬ嬢でもあるまいに……」


 いつもの勢いがなくなり、深く耳に響く声音で辺境伯様が呻く。

 その声の思慮深さと説得力のある静けさが、本来の彼の気質なのだろう。


「辺境伯様が、お逃げにならなければよろしいことですわ。たとえ悲しい結末に終わろうとも、時が解決しなかったのであれば終わらせて差し上げることが慈悲です。それに」


 リオノーラは、笑みを深めてまっすぐに辺境伯様の瞳を覗き込む。



「ーーー想い合い、未練があるのでしたら、話し合うことで分かることもございますわ」



 リオノーラは、屋敷の方へと目を向ける。


「恋形見一つ。レイデンは約束の証に持って旅立ちましたわ。想い合うことで別れることもあれば、側に寄り添うのも道でございましょう? 歳だけが理由ならば、早き永遠の別れを厭うかどうかはエルマリア様の定めるところです。亡くなられた奥様に操を立てるのなら、それは辺境伯様の定めるところですわ」


 レイデンとリオノーラは、それぞれに道を定めた。

 それは、対話を持って行われたこと。


「通じませ。英傑ザムジード・アバランテ様ともあろうお方が、味方を解せず、敵に背を向けるなどとよもや申しませんわね?」


 そう言って、リオノーラはたおやかに彼の背後を示す。

 気配で気づいているだろうに、渋面のまま振り向かない辺境伯様の後ろには。


 ーーー意を決した表情で淑やかに歩み寄って来る、エルマリア様の姿が見えた。

 


どうやら憎からず想っているらしき、女性の扱いに手慣れているのにヘタレな辺境伯様です。


まぁ子どもの歳だとなぁ、初恋とか一時の感情とかで暴走してないかとか、辺境伯様のご年齢だと考えちゃうよねぇ。


って訳で、婚約か交際か、それとも決別か。続きが気になるなーって方は、ブックマークやいいね、↓の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎評価等、どうぞよろしくお願いいたします!


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― 新着の感想 ―
[一言] こういうところ本当にお上手!もうね、泣き笑いですよ。
[一言] ちゃっかり居るエルマリア(笑) 辺境伯子供より年下の令嬢二人に追い込まれる!!
感想一覧
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