恋愛密室からは逃げられない
付き合うなら、頭の良い女子がいい。
愚鈍で、僕の話が理解できなかったり、僕が向こうの言うことを理解できないのは困る。ましてや、愚鈍なフリで男をだますような女子は、怖いからゴメンだ。
その点、坂島乃智恵は完璧だ。僕と同じミステリ研に所属しているだけでなく、彼女の書くミステリは舌を巻くほど巧みで、面白い。そして必ず主役が恋仲になって終わるので、彼女が寄稿するようになって、うちの部誌は売り上げが倍増した。
問題は、美人でスタイル抜群、朗らかで分け隔てない性格のお陰で、校内屈指の人気者という点だ。難解な暗号物しか書けない、ひねくれ者の僕とはとても釣り合わない。
「文化祭は例年通り、部誌の販売だけでいいじゃないか。脱出ゲームなんて、誘導のノウハウがないと無理だろう」
しかも、「“恋愛密室”からの脱出」なんて。
「仕掛けと誘導は、私が考えます。先輩も、一度やってみれば絶対ハマりますよ!」
美人のはじけるような笑顔は、非論理的な説得力がある。卑怯な。
僕は話を終わらせようと、立ち上がって扉の取手に手をかけた。
「そもそも、僕は小説と現実をゴッチャにするのが嫌なんだ。小説は小説、現実じゃないからこそ――あれ?」
開かない。鍵がかかってる? まだ僕と坂島乃が中にいるのに。ていうか、いつの間に2人きりになってたんだ?
坂島乃がほくそ笑む。
「フフ――先輩も、“一度やってみれば”絶対ハマりますよ?」
やられた!
設定では、2人が恋仲にならないと出られない――それが“恋愛密室”。
「いいのか? こんなことで、僕なんかで……」
「先輩を“くどき落とすため”の恋愛密室です。ご堪能あれ」
そういえば、彼女はダブルミーニングが得意だった、と今更ながらに僕は思い出した。
お読み頂きありがとうございました。
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