第1話「赤ず筋」
昔々、あるところに可愛らしい女の子がいました。
女の子はいつも赤い頭巾をかぶっていたことと、凄まじい持久力を持ち全身の筋肉に占める赤筋の割合がえげつなかったので「赤ず筋」と呼ばれていました
昔々、あるところに可愛らしい女の子がいました。女の子はいつも赤い頭巾をかぶっていたことと、凄まじい持久力を持ち全身の筋肉に占める赤筋の割合がえげつなかったので「赤ず筋」と呼ばれていました。
ある日赤ず筋は森のジムに住む(入り浸っている)おばあさんの所にプロテインと馬刺しを持っていくことになりました。
赤ずきんが20キロの荷物を担いで30キロ先のジムまで走っている途中、赤ず筋の前に筋骨隆々な狼が現れて言いました。
「赤ずきんちゃん、どこへいくの?」赤ず筋は答えました。
「おばあさんの所へ、プロテインと馬刺しを届けに」すると狼は言いました
「タンパク質が豊富なメニューだね。でもいたずらに炭水化物を拒んではいけないよ。炭水化物から生まれる糖分も筋肉の大事なエネルギー源なのだよ。それに食物繊維も必要だ。」
なるほどと思った赤ず筋は玄米が家にあったことを思い出し、家へ戻ることにしました。
狼は赤ず筋が戻って行ったのを見届けるとおばあさんのいるジムに先回りしました。そしておばあさんに襲いかかり、ベンチプレスを利用中で反撃できないおばあさんをたちまち飲み込んでしまいました。そして狼はおばあさんの格好をして、高速腕立て伏せで顔が見えないようにしていました。
しばらくすると何も知らない赤ず筋がやってきました。赤ず筋はおばあさんに話しかけましたが、返事はありませんでした。赤ず筋はおばあさんの鍛え上げられた肉体にうっとりしながら尋ねました。
「どうしておばあさんの上腕二頭筋はそんなに大きいの?」
「それはね、こうして腕立てで鍛えているからだよ」
「どうしておばあさんの大腿筋はそんなに太いの?」
「それはね、100メートル走で自己ベストを出したいからだよ」
「どうしておばあさんの腹筋はそんなに割れているの?」
「それはね、限界まで己を追い詰めているからだよ」
「どうしておばあさんの前鋸筋はそんなに大きいの?」
「それはね、お前の反撃が来るより先にノックアウトして食べるためだよ!」
言うが早いか狼の右ストレートが赤ず筋の顎に決まり、赤ず筋は4メートルほど飛ばされて気絶しました。持久力を鍛えていた赤ず筋とは異なり、狼は瞬発力を鍛えていたのです。狼は赤ず筋も食べてしまいました。
高タンパクな食事を摂った狼は体を休ませるためにいびきをかいて眠ってしまいました。
その500メートルほど離れたところを森で借りをしていた猟師が通りかかり、狼を見つけました。冬戦争への従軍経験もある猟師は300メートル先から確実にヘッドショットを決めることが出来ましたが、裸眼で狼の腹が膨れていることを不審に思った猟師は近づいてみることにしました。(猟師はスコープを使いませんでした。反射した光が敵に居場所を伝えることを猟師は熟知していたのです。)
猟師は狼の腹に人が入っていることを確信し、はさみで腹を切って助けだそうとしました。しかし鋼板のごとき狼の腹筋の前にはさみは折れてしまいました。悩んだ猟師は最終的に狼に至近距離でヘッドショットを食らわした後チェーンソーを用いて狼の腹を切っていきました。
猟師がしばらく腹を切っていると突然中から手が出てきて狼の体を引き裂きました。
赤ず筋でした。赤ず筋はおばあさんを抱えながら素手で狼の胃を突き破って外に出てきたのです。こうして赤ず筋とおばあさんは助かりました。
それから赤ず筋は持久力の源である赤筋だけ鍛えてもバランスが悪いことを意識し、瞬発力の白筋と赤筋の中間であるピンク筋を鍛えることを意識するようになりました。そして赤ずきんはトライアスロンの大会で昨年の雪辱を晴らし、見事一位に輝きました。めでたしめでたし