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旅人に微笑みを、  作者: も
13/23

大変な職人たち

「服を作るのって大変なんですね」

「……そうだな」



 ラディウスの反応から、やはり普通では無かったのだと、ニケは口を閉じた。




 宿屋の店主に聞いておいた街で一番の服飾工房に、ニケとラディウスは足を踏み入れた。


 初めは、ついにこの工房にも貴族様が!と盛り上がっていたが、旅人ギルドのカードを見せると今度は混乱によって騒がしくなった。何度か貴族でないのか確認されつつも、ニケの為のローブを一着、そしてラディウスの為に剣士の服を頼んだ。

 ラディウスはローブでなくて良いのかと聞いたが、動き難い、と一言。本人が良いならいいかと納得した。


 そして材料を取り出してまたひと騒ぎ。

 例のリザードの皮から始まり、シュニーヴァイタイガー、ペニーシュヴァルタイガー、コカトリスの羽……。何かに使えるかもしれないと、家にあった毛皮類を全て持ってきた。

 自分たちの技術でちゃんと加工できるかと不安に駆られるほどの高級素材。触るだけでも感動してわあわあとまた騒ぎ出す。


 デザインについては何でも良いと考えていたニケは、店内の既製品を指差したが……、工房長とその嫁、ラディウスからも首を振られ、上から下までオーダーメイドになった。ラディウスの分も同じくオーダーメイドになったのは、「防具は付けない!?魔法使いなのに剣士だと!?」と男衆が燃えた為である。



「お仕事に熱心な方達でした。一週間後が楽しみです」

「またあの空間に入んのか……」

「ラビさんは、わたしの服なのに楽しそうに口出してたじゃないですか」

「まぁ」



 ラディウスは女性のデザイナーの中に割り込んで、アレがいらないこれが欲しいと意見していた。

 旅してんだからフリルの飾りは要らない、レースくらいならいい、一応成長も考えて丈は長めに、ベルトは丈夫にこの素材で、服汚して帰ることはねぇけど突拍子もねぇことするから袖も捲れるように、留め具の色はシルバーかアンバー、赤だの桃色だのは性格が子供らしくねぇから似合わねぇよ、ただでさえ色味がうるせぇから服はシンプルな色の方がいい……。

 後半は言葉選びが雑になったが、女性陣は服に情熱のあるラディウスに目を輝かせて「必ず素敵な物にしてみせます!!」と燃えていた。



「ラビさんが留め具の装飾品作ってくれるんですよね? 宿に戻ったら鉱石いっぱいあげます」

「いらね」



 ラディウスは無駄に色々貰っている。

 これ以上貰っても使い切れないし、使い所の分からない加護が付いている物も多い。売れば良いからとニケがバングルに投げ入れるので、知らないうちに増えていたりもする。

 バングルに空間魔法が付与されているだけでもとんでもない価値があるというのに、今や空間魔法の中身は宝の山である。



「ん」

「あ、このあたりですね」



 服飾工房で、世間話程度に聞いた武器屋についての話である。


 街に着いてから何件かの武器屋は見ていたが、質が確かなところはどこかと聞いてみた。いくつか候補として挙がった店の名前に頷いていると、一人の男が冗談半分で漏らした名前に、全員が微妙な顔をして首を振る。旅人御用達の店は教えて貰ったが、それは「店」ではなく「職人」だった。

 最終的に『悪い人間ではないが、別に良い人間ではない』というのが、街全体の総合評価らしい。

 ニケは話を聞いているうちに気になってしまった。


 武器屋ではなく職人であり、武器マニア。

 作る物はかなり質が高いが売るのは気分次第で、大抵は自分で折る。この街の悪ガキの頂点で、舎弟が多くいる。

 「聞けば聞くほど興味が出ました」と言うニケに、ラディウスは途中で聞かせるのを止めるべきだったと後悔した。

 武器には興味のあるラディウスだが、どうにも会いたいと思える人物ではない。それでもニケが行くというのだから、ラディウスも行くしかない。


 聞いた場所は街の大通りから外れた更に奥、ひと気のない路地を進み、工場と倉庫が並ぶ一画だった。華やかな街中とは違って、錆びた赤茶色と灰色だけで構成された場所。そこかしこに積まれたガラクタを、まるで景色を見るように眺めながら、目当ての廃工場へと歩く。



 そして、ラディウスはニケの頭を掴んで止めた。



 教えてもらった廃工場まであと三歩のところで、ラディウスは眉間に皴を寄せる。

 ニケも目を瞬かせながら、聞こえてくる声と音に耳を澄ませた。



「あぁ……昨日に引き続き今日も何かがおかしい。傑作ができる予感がするのに、全てが予感で終わる。これは誰かの何かが邪魔しているに違いないと思うのだが……おい、サビノ、またお前の名前が俺の傑作を邪魔しているんじゃないのか? 名前が鯖付いているからだろ。ちょっと改名してこい」

「や、ラナーテさん、またっスか? 昨日名前のせいじゃなかったって話になったじゃないっすか」

「じゃあなんだ? 俺のせいか? 俺の技術が一晩寝ただけで落ちたってのか? あっ、確かに……昨日ちょっと深酒してつい昼まで寝てしまった。いつもの俺より確実に寝過ぎている……それが良くなかったのか! それが原因なのか? 答えろサビノ!!」

「多分そうっす」

「ふんっ!!」

「ゴフッ……!」



 ラナーテという名前の男が暴れているらしく、ガシャンガシャンと何かをぶつけている音がする。サビノという男に八つ当たりしたのか、何やら嗚咽も聞こえてくる。

 行きたくない気持ちに天秤が傾き、ラディウスは引き返そうと振り返ったが……掴んでいたはずのニケの頭はいつの間にか無くなっていた。



「お邪魔します、ラナーテさんはいますか?」



 工場のシャッター部分は、壊れて開け放たれている。その脇からニケはひょっこりと顔を覗かせた。


 おそらく舎弟と思われる若者数十人が、ガラクタの山頂に立つ深海のような色のツナギを着た男を囲んで見上げている。髪色から目の色までほとんど真っ黒の男は、片手にはハンマーを、もう片手には男の身長ほどもある長い剣を持っている。ガラクタの麓では、咳き込みながら蹲る男もいる。

 ラディウスは溜息を吐きながら、ニケの隣に立った。



「ここにはとても良い武器を作る職人がいると、街の人に聞いて来ました」



 ガラクタの山の上から、ラナーテは首を伸ばすようにしてニケを見つめる。同じように舎弟たちも、ニケの姿をまじまじと見つめた。全ての景色が薄っすら灰色染みているこの場所に、輝く様な金色が居る。場違い、という言葉はこの瞬間の為にあったのかと思うほど、馴染めていなかった。

 ニケは複数向けられる視線に、ただ微笑みながら返事を待つ。


 そして唐突に時間が動いた。

 カラン、ゴトン、と剣もハンマーも手から離して落とし、落としたハンマーはガラクタの下で蹲ったままの男に当たる。小さな呻き声が聞こえたが、そちらを見る者は誰もいない。



「……俺はまだ寝ているのか? 天使が見える」

「起きてると思います。天使ではありません、旅人です」



 ハァッ、と一気に息を吸ったラナーテは、ガラクタの山から跳び降りると、一目散にニケの下へと駆け寄った。ある程度近くに来たところでラディウスが睨む。その威圧を受けたラナーテは察して足を止めたが、止めたそこから前のめりにニケを観察する。



「……天使でなくとも、普通の人間ではないだろう。そこの黒い奴よりもっと、次元の違う、人の形をした他の生き物のように思うが……。あぁしまった……俺は今、そこそこ頭のおかしいことを言っているかもしれない。反省したいところだが、俺の本能があながち間違いではないと訴えかけてくる。どうしよう、医者に行くべきか? お前はどう思う、金色?」



 聞いていたニケは少しだけ目を見開いて、ラディウスは片眉を上げた。



「わたしがまじゅちしという点で何かを感じ取っているなら、その感覚は正解なので医者は必要ないかと思います。あと金色ではなく、ニケと言います」

「なるほど、魔術師だったのか。初めて見た。魔術師が言えないのか? いっぱい練習した方がいい。上手に言えるとかっこいいからな。あぁ医者は要らないな、分かってる。俺はいつでも正常だ」



 しばらくはラディウスとしか話をしていなかったからか、ニケは目の前の男がとんでもない量を喋ることに驚く。それでも話ができるなら問題ない、とニケはにっこり笑って頷いた。


 魔術師?!なんでここに!!などと驚く声が若者の中から叫ばれ、レアだの幸運だのと話す舎弟の連中がいる中、ラナーテは魔術師に特別何も思っていない。しかしニケ自体には興味があるようで、深く濁った深海が明るい水面を見上げるような、どこかキラキラした眼差しをニケに向けている。

 ラディウスが空の青だとしたら、ラナーテは陸からは見えない海底の色だと、ニケはその目を見返して考えていた。


 手袋をしたままの挨拶の手を差し出したラナーテに、ニケは同じように手を伸ばすが、すぐに相手の手が引っ込んでしまった。何か不快にさせたのかとニケが首を傾げると、ラナーテはいそいそと手袋を外し始めた。

 金色の手が汚れるところだった、と言いながらグイグイと手袋を引っ張っている。



「ちょっ、ラナーテさん……この人らお貴族様じゃないっすか? そんな軽く接して牢獄入りません?」

「なんだもう復活したのか。旅人だって言ってただろ。そうは見えないが確実に言ってた。まぁ確かに俺には礼儀がない。しかし人間的に失礼な言動は今の所してな……あっ! 貴様ッ! 俺に礼儀がないと言いたいのか?」

「え、それ自分で言っ、ごェッ……!!」



 華麗な回し蹴りに、サビノは何人かの仲間を巻き込みながらガラクタの山まで飛んでいった。


 悪い人ではない、良い人かと言われるとそういう訳ではない。ニケは一連の流れを見て、ラナーテについての人間像の話に納得した。

 やっと手袋を外したラナーテは、再びニケと握手を交わそうと手を出したが、隣から伸びて来たラディウスによって遮られる。



「用があんのは俺だ」

「……なんだ黒いの。遮るのは良くないぞ。本当に良くないことだ。アレだ、遮るというのは、遮るということであり……彼女と俺との繋がりを邪魔をするということだ」



 ピリ、とひりついた空気に、舎弟たちは静かに下がった。



「良くないということは、完全に悪いわけではないが、大体悪いということだ。そして大体悪いというのは俺の世界に反している……つまり、だ」



 ギチ、と音を立ててラディウスの手首が握られ、その体躯からは想像もできない力で引っ張られる。



「お前は死ねってことだ!!」



 まるで人形でも投げるかのように、成人男性一人を腕一本で投げた。


 ガラクタの山へ投げ飛ばされたラディウスは、空中で受け身を取りながら不安定な瓦礫に着地した。かなりの衝撃で着地した為、ガラスや木片が衝撃で飛び散る。視界の邪魔になるほど舞い上がった破片を、風で散らして消した。

 何事も無かったようにガラクタを踏んで立っているラディウスに、ラナーテは目を見開いて何度か深く呼吸をする。興奮しかけている自身を冷静に保つために、熱くなり過ぎた息を吐き出すように。

 脱いだ手袋を自然と再び嵌めて、慣らすように握っては開いてを繰り返す。その間も何度か荒い呼吸を繰り返した。


 そのラディウスを、同じく蹴り飛ばされていたサビノは間近で見て「この人もヤベェ人だ」と苦笑いを浮かべる。近くに居たら否応なく巻き込まれると瞬時に判断して、頭を低くしながら安全そうな場所を目指して移動を始めた。



「はっ、ひはははっ!! あはははははっ、黒いの!! お前イイな!! 大体良い!!」

「なんだお前」



 深海に光が届いたようなぎらついた目をして、ラナーテはガラクタにいるラディウスへ突っ込んで行く。その山の下でいきなり方向を変えたかと思えば、落ちていたハンマーを手に取った。

 持ち手の長さは一メートルほど、ヘッド部分は人間の頭部三つ分程の大きさがある。


「(普通のハンマーじゃねぇ)」


 全て鉄で出来た重いはずのそれを片手で掴み、ラディウスに向けて容赦なく横へ振り回す。

 ラディウスは後ろへ飛んで避けると、飛んだ先の足元から一本の剣を掴んだ。振り下ろされるハンマーの柄を、その剣で受け流す。と同時に下から上へとみぞおちを蹴り上げた。

 飛ばされたラナーテは、上に張り巡らされた鉄骨にハンマーを叩きつけ、体勢を整えて着地する。無茶苦茶なやり方を眺めながら、ラディウスは持っていた剣を何度か振って重さを確かめた。



「オイ、これ駄作なのか」

「あ゛!? 駄作じゃない。傑作ではないだけで、駄作ではない。良くないということは、完全に悪い訳じゃないって言ってん、だ、らァッ!!」

「っ、大体悪いって話だろ」

「俺が作ったモノに関してはその理屈は通らない! 大体悪くとも駄作にはなり得ない! 俺様が作ってんだから駄作にはッ、ならないッ!!」



 めちゃくちゃな理論を展開しながら、とんでもない速さの攻防が繰り広げられる。

 大振りのハンマーが振り下ろされ、横に薙いで、時には地面に突き刺して足元の地盤を歪ませ体勢を崩させる。ラディウスは崩れた体勢から剣を地面に突き刺し、それを支点に相手の頭目掛けて回し蹴りを喰らわせた。


 一方、こちらは。



「あんな戦い方があるんですねぇ」



 目を輝かせて二人の激戦を見るニケは、周囲に軽く防護の魔法を巡らせている。



「や、あの、アレが誰でも出来ると思われちゃ困るんスけど」



 その足下にしゃがんで様子を伺っているのは、サビノを始め舎弟の面々である。

 ニケを盾にして集まっている面々は、いの一番にニケの元へ滑り込んだサビノを見て、そこが一番安全な場所だと気付いて次々に飛び込んできた。ニケは人数が増える度に、ちょっとずつ防護魔法の範囲を広くする。

 すげーやべーだの感謝されながら、低い木箱にハンカチを敷いて観戦席を用意された。


 初めはいきなり始まった戦いを心配していたものの、舎弟たちの落ち着き振りと、観戦席まで用意された今は全く心配していない。よくあることなのだろうとニケは二人の戦いを夢中になって見る。



「ラナーテさんは、いつもこんな感じなんですか?」

「そっすよ。すぐ殴るし、浮き沈み激しいし……ちなみに今は浮いてる状態。はははっ、カシラ楽しそー」

「ラビさんは鬱陶しそうです」



 周りを囲むラナーテの舎弟たちは、笑いながら二人の戦いに野次を飛ばす。現状としてはラナーテの方が一方的にラディウスに挑んでは、軽くいなされて二度三度と投げ飛ばされている。

 格が違う。その場にいる全員が見て分かるほどに、洗練された技術と圧倒的な威力。それが分かっていても、ラナーテは楽しそうにハンマーを振り下ろした。


 しかし、熱が上がっていく勝負は突然に終わりを告げる。


 ラディウスが、飛んできたレンガを切り捨てた瞬間、ガキッ、と刃先が折れた。


 あ、と複数人から声が漏れる。


 ピタリと止まった二人に、巻き上がっていた砂埃が晴れていく。ラディウスは手元の剣を見て、二度三度と振って、まだ十分戦える強度だ、などと感心している。

 ラナーテがワナワナと震え出し、持っていたハンマーをその場に落とし、鈍く重い音が工場内に響き渡った。



「あぁぁ……っ、せっかく俺が楽しくなってきていたのに……俺が打った一振りがこうも容易く……!!」

「いや、頭、この人ら来る前に何回かハンマーでガン叩きしてたじゃないっすか」

「これは俺の楽しみを邪魔をしたのも俺ということになるんじゃないか!」

「聞いてないな……」



 ガラクタの山の上に倒れるように寝転がり、ラナーテは三秒ほど叫んだ。そして何かを思い付いたようにすぐ立ち上がり、ラディウスの側に駆け寄った。



「オイ黒いの、お前この剣どう思った?」

「……良いな。切れ味も耐久力も、ただもう少し重い方が俺は振りやすい」

「長さは」

「刃先が折れた今がちょうど良いだろ。」

「フン、なるほどな……」



 折れた剣をぶん取ったラナーテは、折れた剣の長さと、ラディウスの身長とを比べて頷く。



「お前さては強いな?」

「……どうだろうな」



 その返答に目を丸めてラディウスを見た後、くつくつ笑い出したラナーテはガラクタの山に戻っていく。徐々に大きくなる笑い声と共に、機嫌の悪さが霧散していく。

 定位置であるガラクタの山頂に戻ったラナーテは楽しそうに口元を上げる。



「オイ黒いの、名前は?」

「ラディウス」

「頭に同じ『ラ』が付いてるな。だから強いのか……?」

「何言ってんだお前」



 ラナーテがガラクタの上に座り込み、鼻歌交じりに作業し始める。

 それに背を向けて、ラディウスが後頭部を掻きながらニケのもとへと戻ってくる。



「帰るぞ。あの変人は諦めろ」

「でも楽しかったです」

「……そりゃよかったな」



 ニケがふわふわと手を動かすと、辺りに張られていた防護の魔法がゆら、と揺れて消えた。

 舎弟たちはよく分からないが何かが消えた、程度の感覚で面白そうに空中に手を揺らしている。見ただけでは分からないが、消えた瞬間はどこか景色が揺れるように見えたようで、すげーやべーとそこここで声が上がる。

 ニケが椅子にしていた木箱から立ち上がったところで、隣で地面に座っていたサビノがスッと手を上げた。



「えと……たぶん作る気でいますよ、あの人」



 サビノの言葉に、ニケとラディウスは顔を見合わせてからもう一度サビノを見る。苦笑したサビノはガラクタの山の主を指さした。



「あの人、強い武器は強い人に使わせる主義なんで。今までも作ってくれって奴が来ては、喧嘩吹っ掛けてボコボコにしてたんスよ」

「相手の強さを見る為の喧嘩なんですね」

「手段を選ばねぇのはどうにかしろよ……」



 呆れた表情のラディウスに、ニケが小さく笑う。楽しみですね、と声を掛ければそこは同意してくれるらしく、小さく頷いた。



「サビノさん、これラナーテさんに。剣を作る足しにしてください」

「え、いいんスか?」

「扱えないわたしの手元にあるのはもったいないでしょう?」

「お、おぉ……ありがとうございます」



 様々な種類の鉄と金属、よくわからない種類の鋼を取り出して並べる。

 サビノの顔色が青くなったところで、宝石類まで取り出そうとしていたニケの手をラディウスが止めた。



「ら、ラナーテさん!! ニケさんが材料くれるそうッスよ!!」

「何!?」



 天使じゃなくて神だったか!とガチャガチャ音を立てながらガラクタの山を降りてくる。

 興奮からサビノの背中をバンバン叩き、並べられたものを見ておもちゃでも貰ったかのように楽しそうに笑い、そして目に付いた一つを手に取って驚愕した。忙しない。



「オイ、金色……これはなんだ? 色は赤いが……他の物より冷たい。割れた表面もおかしいな、揺らめいて見える。もしくは俺が揺らめいている」

「その石が揺らめいている、で間違いないです。森で拾ったのですが、硬くてわたしの手では曲げることも出来なかったので、あげます」

「あぁそうだろうな。金色、お前の手は身長同様に小さ過ぎるんだ。だが俺は手も身長も大きいから加工できる。ありがたく貰おう。というか研究したい! なんだこの面白い石は!! お前ら、この金色は神に違いない! 崇め讃えろ!! 奉れ!!」



 うぇーい、とやる気のない返事と、やったことも無さそうな祈りのポーズがニケへと捧げられた。ニケは微笑んでその光景を眺めた。

 一応はラナーテの下、統率のとれた集まりである。

 いくつかの素材を見ていたラディウスは、鉄と鋼を一つずつ持って確認すると、その場に転がした。



「俺のは鋼でいい。知らねぇ素材使って折れやすい剣が出来ても使えねぇだろ」

「なるほど一理ある」

「一理しか無いっす」



 グェはっ、と苦しそうな声と共にサビノが蹴り飛ばされた。


 

「お前ら旅人だな? 大体二週間だ。完成したらギルドに持ってってやる。俺は今、神からの贈り物を得たからな。最高の傑作が生まれる予感がするんだ」



 笑いながら両手を広げて、廃工場の中をくるくると踊り始めた。その手には赤い鉱石が掲げられている。


 ラディウスは鼻からため息を吐き出して、ニケの頭を一度撫でてから歩き出した。それを合図に、ニケはその背を追って歩き出す。ラナーテの楽しげな声が響く廃工場の中を振り返ると、舎弟の何人もがニケへと手を振っていた。サビノも倒れたままだが手を振っている。

 ニケはそれに小さく振り返してから、ラディウスの隣に並んだ。



「剣を作るのって大変なんですね」

「…………そうだな」



 ラディウスのその反応に、やはり普通では無かったのだとニケは理解して口を閉じた。


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