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四話

 わたくしは翌朝も早めに起きてシイナとセレンに手伝われながら身支度をした。


 歯を磨いて顔を洗い、髪をブラシで梳いた。セレンが髪を三つ編みにしてからぐるぐると巻いてシニヨンにする。アシアナネットで纏めた。服も深い藍色のタートルネックのワンピースだ。長袖だし足首まで丈がある。


「……スーリジア様。まだ、後十数日はかかりますね」


「そうね。まあ、もうしばらくの辛抱ではあるわ」


「ですね。新しい縁談のお相手はどんな方でしょうか」


 わたくしはそれを聞いてどきりとした。シイナの言葉にだが。まだ、現国王から手紙は届いていないし。誰が相手になるかはわからない。それでも優しい人に嫁ぎたいと思う。


「……それはまだわからないわ。身分が釣り合う方だったらいいのだけど」


「ですね。スーリジア様を大事にしてくださる方だったら私は文句は言いません」


「そうだったらいいけどね」


 苦笑しながら言うとシイナも笑った。その後、荷物を整理したりしてから宿屋を出たのだった。


 あれから半月近くの間は宿屋や馬車の中で寝泊まりをしながらゆっくりと進んでいった。ヴェリタス副長や他の騎士達が割と気遣ってくれている。わたくしはヴェリタス副長と二人で話せる機会が来ないかを伺っていた。そして休憩時にそれはやってきた。


「……あの。ヴェリタス副長。ちょっとよろしいかしら?」


「……これはスーリジア様。いかがなさいましたか?」


 ちょうど彼は倒木の上に座り休憩をしている。わたくしは立ったままでずっと気になっていた事を口に出してみた。


「実は。わたくしの縁談について副長に訊いてみたくて。お相手は公爵家の子息だとは伺っているのですけど」


「ああ。それで私に訊いてこられたんですね。お相手ですか」


「副長はどなたかご存知なのですか?」


 そう重ねて問いかける。すると副長は苦笑した。


「……知っていますよ。たぶん、ホーリーホック公爵家の子息でしょうね。実は私のいとこに当たります。名をエティエンヌ・ホーリーホックと言いまして。年は今で二十一歳だったかな」


「まあ。副長のいとこの方がお相手なのですね。優しい方だったらいいのだけど」


「エティエンヌ。エティは確かに穏やかな奴ではありますよ。ただ、あいつは女嫌いでしてね。スーリジア様との結婚を承諾するかどうか」


 わたくしは女嫌いと聞いて驚いてしまう。ああ、そんな方が相手なのか。だったら優しくされずに形だけの妻として冷たい結婚生活は確定だ。ずんと気持ちが重苦しくなってしまった。ヴェリタス副長がまだ何かを言っていたが。ろくに耳に入ってこなかった。


 こうして鬱々とした中、フレンヌ国王都であるルツィエルに帰ってきた。

 わたくしは早速、王宮に戻ると出迎えてくれた宰相やメイド長、兄のサレジオ王の三人にお説教をされる。


「……スーリジア。君ね、何であんな東和国の王と早めに別れなかったんだ。こうなるのは分かっていたのに」


 兄が言えば、宰相やメイド長も「そうですとも」と言わんばかりに頷く。わたくしはこれには困り果てた。どうやって切り抜けたものやら。


「……陛下のおっしゃる通りです。あの東和国王は無類の遊び好きと聞き及んでおりました。だというのにスーリジア殿下を側妃にと望んできた時は。はらわたが煮えくり返るかと思いました」


 宰相が拳を握りながら力説した。メイド長も何度も頷いた。


「私も宰相様と同じ思いです。あの東和国の王だけは許せません。我が国の王女殿下を側妃、愛人と同じ扱いをするだなんて。言語道断だと当時は思いました」


「……メ、メイド長」


「本当にむざむざと殿下を側妃にしてしまい、申し訳無い限りです」


 わたくしは返答がしづらい。すると兄が肩に手を置いた。にっこりと笑う。


「……スーリジア。改めてお帰り。今日はもう疲れたろう。ゆっくりと休んだら良い」


「……はあ。わかりました」


 兄はわたくしの肩から手を離した。宰相と一緒に先に王宮の中へと戻っていく。メイド長と後で自室のある後宮に向かったのだった。


 メイド長の話によると第一王女や第二王女である姉たちは既に隣国や本国の貴族に嫁いでいったらしい。次兄である第二王子やすぐ下の弟の第三王子も元気にはしていると聞いた。


「……それにしても。スーリジア殿下がお元気そうで良うございました」


「心配をかけていたようね」


「はい。それはもう。東和国に嫁がれて以降、殿下からのお手紙が一枚も届きませんし。仕方なく影を放っても遠方なものですから。確かな情報が入ってこないとサレジオ陛下はやきもきなさっていました」


 わたくしは意外な話に驚いた。兄であるサレジオがやきもきしていたとは。メイド長は立ち止まったわたくしに気づいて不思議そうに見てくる。


「……殿下?」


「何でもないわ。行きましょうか」


「わかりました」


 わたくしはまた歩き出す。メイド長もそれ以上は訊かずに歩くのを再開した。


 案内されてたどり着いたのは後宮でも西側に位置する場所だ。確か、秋の宮とか呼ばれていたか。ドアを開けて中に入ると数十人ものメイド達に女官がずらりと並んで待ち構えていた。一斉に礼をされる。


「……スーリジア殿下。お帰りなさいませ」


「……わざわざのお出迎えをありがとう。けどわたくしは出戻りの身よ。大々的にしなくてもいいわ」


「そのような訳にはまいりません。殿下は東和国に囚われていたようなものです。これくらいはさせてくださいませ」


 やはり、皆の認識は東和国とは違うようだ。これでは東和国王である紫晏様が蛮族の王のようではないか。これは一言注意くらいはしておくべきかもしれない。


「……あの。皆さんは誤解をしているようね。東和国王は皆さんが思っているような方ではないわ。むしろ、後宮を解体したいとおっしゃっていたの。後宮の側妃様方は毎日、不自由な生活を強いられていたわ。そんな生活から開放したいと思っていらしたようなのよ。だからわたくしもこうやって無事にフレンヌ国に帰ってこられたの」


 そう言うとメイドや女官達はしんと静まり返る。皆、わたくしの言葉に思う所はあるらしい。


「……ああ。ここで話していたら皆の仕事の障りになるわね。わたくしはもう行くわ」


「……はい。ではスーリジア殿下。こちらです」


 メイド長が気づいて自室に連れて行ってくれた。メイドや女官達が神妙な顔をしていたのには気づかなかった。


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