二話
久しぶりの更新です。
お待たせしました。
私が蒸気船に乗って旅立ってから半月が過ぎた。
後少しで東和国にたどり着く予定だ。ターニャ達と喋ったり読書をしたり。たまに甲板に出て景色を眺めたりと船旅をまずまずは楽しんでいる。けれどやはり家族と離れ離れなのは寂しい。父や母、妹や弟は元気だろうか。ふと気になる。そんなこんなで時間は過ぎていった。
さらに半月が過ぎていた。やっと東和国に辿り着いた。私は長かったとため息をつく。
「……お嬢様。やっと東和国に着きましたね」
「本当ね。鴇羽様ってどんな方かしら」
「それはお会いしてみないとわかりませんけど」
ターニャが眉を下げながら言う。私は東和国にいるという結婚相手の鴇羽様がどんな方なのかわからない。それでもかつて母がいた国だ。よしっと気合いを入れたのだった。
その後陸路で向かうために駕籠に乗る。馬車は東和国には浸透していない。要はあまり使われていなくて台数が少ないのだ。
ちなみに私はフレンヌ国のドレスから東和国の着物に既に着替えていた。けど動きにくい。他のメイドや従者達も着物に着替えて付き従っている。駕籠に乗り込むと襖状の引き戸が閉められた。
(……憂鬱だわ)
胸中でぽつりと呟く。ほうとため息をついた。
駕籠に揺られながら覗き窓から景色を眺める。今は初夏だから木々の緑が目に眩しい。爽やかな風が吹き抜けて心地が良かった。
「……お嬢様。鴇羽様のお屋敷までは後五日は掛かると聞きました」
「そう。じゃあ、お会いできるのはまだ先ね」
「そうですね」
ターニャが返事をすると。他のメイド達もこちらを見た。苦笑していたり心配そうにしていたりと各々表情が違う。私は笑い返して頷いたのだった。
五日が過ぎて鴇羽様のお屋敷に着いた。私は駕籠の中で緊張していたが。ちなみに私の髪色は名前のキャメリア――椿のように鮮やかな赤髪だ。瞳は淡い翡翠色で肌は白い。まあ、見られる顔はしている。けど気に入られるかどうかはわからない。手に汗を握りながら駕籠が降ろされるのを待つ。
「……ホーリーホック公女様。到着なさいました!」
従者がフレンヌ語ではなく東和国語で知らせた。一応、五年前くらいから東和国語は習ってはいたが。何とも言えない心地になる。そう思っていたら駕籠の襖が開けられた。
「……お嬢様。お手を」
「ありがとう」
フレンヌ語でターニャが言って手を差し伸べた。私は自身のそれを重ねる。見かけによらない強い力で引っ張られた。そのまま、駕籠から出て立ち上がる。私は外の明るさに一瞬だが立ちくらみを起こした。
「大丈夫ですか?」
「……大丈夫よ。ちょっとびっくりしただけ」
「お嬢様。仕方ありません。私が肩をお貸しします」
ターニャがそう言って私の左腕を肩に回す。有難く彼女の言葉に甘えた。肩を貸してもらいながら近くにある門まで歩いていく。門をくぐり屋敷の敷地内に入った。すると朱色の真っ直ぐな髪を背中につくまで伸ばし淡い水色の瞳で着物を身に纏った背の高い男性が佇んでいた。近くにまで来ると怖いくらいに美しい顔立ちをしている。傍らには二人程家臣を従えているが。
「……そなたがフレンヌ国の公女か。思ったより若いな」
「……」
「何だ。東和国語はわからぬか」
私は棘のある言い方にカチンときた。
「……お言葉ですが。あなた様はどなたですか?」
「ほう。わかるんじゃないか。だが。俺の名も知らぬとはな」
「当たり前です。初対面ならまずは己の名を言うべきだと思いますが」
睨みつけながら言うと男性はクッと笑う。面白い玩具を見つけたと言わんばかりの表情だ。
「……確かにそうだな。俺は紫晏陛下のいとこで朱野鴇羽だ。年は三十を少し越しているが」
「……私はフレンヌ国から罷り越しました。ホーリーホック公爵が娘でキャメリアと申します」
「ほう。キャメリアか。フレンヌ国語では椿をさすのだったな」
男性――鴇羽様はそのものズバリを告げた。不意に見せた博識さに驚いてしまう。
「私の名の意味をご存知だったのですね」
「知ってはいる。何せ、長い時を共に過ごす伴侶となればな」
「はあ。鴇羽様は私と最初から離縁なさる気はないようですが」
つい、本音を言うと。鴇羽様はにやりと笑った。
「当たり前だ。王命だしな」
「それはそうと。体調が優れないのですが」
「なんだ。船酔いでもしたか。仕方ない。梛葉!」
鴇羽様は大きな声で家臣らしい人物の名を呼んだ。ところが傍らに控えていた家臣の一人が素早くやってくる。
「……大丈夫ですか。公女様」
「……駕籠から降りる時に立ちくらみがして」
「そうですか。殿。公女様の顔色が悪いですね。すぐにお部屋へ運んだ方が良いでしょう」
家臣――梛葉さんは鴇羽様に目配せをした。すると鴇羽様はため息をつく。
「気づかなくてすまんな。ちょっと失礼する」
「……鴇羽様?」
鴇羽様は私の側まで来ると。背中と膝裏に両手を差し入れた。ぐんと視界が上がり浮遊感に驚いた。
「俺の首に腕を回せ。その方が安定するぞ」
「……わかりました」
頷くと鴇羽様はゆっくりと歩き出す。客室にまで運ばれたのだった。




