八話
僕は今日もオメガさんに色々教わりながら訓練していた。一応メリーにはあの日以降しばらくいなくなると伝えてから行くようにしている。まあ帰ってたら絶対朝まで離してくれないだろうけど。
「よしっ、ガイノス、また腕をあげたね。正直想像以上だ。」
「あ、ありがとうございます。」
「模擬戦まであと少しだ。ちょっとレベルを上げるぞ。」
そう言うとオメガさんは魔法を僕に見せてくれた。
「君には魔法を覚えてもらう。」
「え」
「大丈夫、君は使えるよ。それに気づければ格段に勝率は上がる。」
そう言うが僕には魔力がないと言われている。別に魔力無しは珍しくはないし、魔力がある人が珍しいこの世の中で魔力無しが魔法を使うなんて聞いたことがない。
「まあ、今すぐに使えってわけじゃないからゆっくりな。」
そう言うとオメガさんは消えてしまった。確かに今回の模擬戦で勝ち進めるには魔法も必要になってくる。だがしかしどうすればいいのだろうか。
部屋に戻るとすぐさまメリーに抱きつかれる。予測していたことだがあまり密着されるとこちらも困る。
「おかえり、ガイ♪」
「ただいまメリー。」
するとメリーは僕の服の匂いを嗅ぎ始めた。少しくすぐったくてメリーを引き剥がそうとするが離れてくれない。
「ねえガイ?女の匂いはしないけど本当に会ってないよね?」
「会ってないよ。」
するとメリーはやっと離してくれた。月の光が窓から射し込み、メリーの髪がより美しくなっていて僕はしばらく魅せられていた。
「ガイ♪私ね、ずっとそばにいるから。」
そんな言葉を言われたら僕も我慢が出来ない。僕は再び雰囲気に流されメリーの肩を掴む。
「なあメリー?なら僕から“一生離れない”って約束してくれるか?」
「もちろん。」
そして僕たちは二回目の口づけをしようとしたとき、部屋のドアが開く音がした。するとメリーはこれまでにない怒りが伝えるかのように不機嫌そうな顔をした。あのメリーがここまで感情を出すとは。
ドアの方向へゆっくりと僕らは近づいていく。果たして侵入者は誰なのか。姿を見ようとしたそのとき、僕は驚いてしまった。それに侵入者も気づいたのだろう、すぐさま僕の方へ歩みより、抱きついてきた。
「えへへ♥️ガイ君だ!やっぱりいたんだね♥️」
「っ!ヴェル!?」
そこにいたのはヴェルディだった。レックスと同じく二年ぶりだろうか。だが少し様子がおかしい気がする。
「ねえガイ、その女何?ていうか私のガイから離れて。」
「あら、あなたは何?ガイ君は私のものよ?あなたが離れて。」
「ちょっと二人とも・・・離れて・・・」
二人があまりに強く抱きしめるのでものすごく苦しい。
「ガイ君は・・・私の兄さんなの・・・私だけの兄さんなの。あなたは邪魔しないで。」
ヴェルの目に光はなかった。しかしその瞳は僕だけを見ていてまるで絶対に離さないと訴えているようだった。
「何言ってるの?私のガイよ。あなたのじゃない。」
僕を挟んで喧嘩をしないでほしい。すごく怖くて正直逃げたいが強い力で抱き締められていて逃げられない。その時ヴェルが僕にある言葉を言った。
「私、ガイ君の子供ほしいな♪」
「っ!?」
その時メリーの抱きしめる力がより強くなる。
「って痛い痛い痛いっ!メリー少し落ち着いて!」
「ガイの子供を生んでいいのは私だけなの・・・あなたじゃない。」
「メリー?ちょっと痛いから離して?・・・・・腕がとれそう・・・」
メリーもヴェルと同じように目に光がなかった。ここままいくと死人が出そうな勢いだ。しかし、そんな緊張状態はある一言によって崩れた。
「ガイ君?そんな女はほっといてキスしよ?“キスして子供作ろう?”」
「いやだから子供って・・・・・え?今何て言った?」
「え?だからキスして子供作ろうって言ったの。キスしないと子供はできないでしょ?」
まじか。ヴェルの性知識はどうやらキスで止まっているらしい。まあなんというかこの場においては救いかもしれない。
「・・・・・あのなヴェル、その・・・非常に言いにくいのだか、」
「ガイ?っふふ・・・教えなくていい。」
メリーが珍しく笑いながら止めにはいる。というかメリーがここまで笑っているのは初めてかもしれない。
「何よ!ねえガイ君?なんなのさっき言おうとしてたこと!」
「なら私が答える。キスでは子供はできない。諦めて。」
その言葉にヴェルは数秒間フリーズしていた。そして顔を真っ赤にして手をおさえていた。
「・・・その、ガイ君?ごめんね?こんな時間に押し掛けて。ちゃんと勉強してからまた来るから。」
「そ、そうか?でも子供は無理かな。」
ヴェルは僕よりも頭の回転が良く、臨機応変に動けるため正直これからが怖い。
「メリー、ヴェルを部屋まで送ってやってくれ。」
「え!?何でなのガイ君!」
「わかったわガイ。ほらいくわよ、あなたがガイの妹だから特別にやってあげる。」
二人はもめながら部屋を出ていった。なんだかんだいって仲良くなりそうだなぁと思った。
もうあんなことはごめんだが。