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有名人だった

お待たせいたしました。

「君等は一体どこの誰なんだね?」


 ワラワラと動いている衛兵の中で、ひと際偉そうな男が訝しげに話しかけてきた。先ほどからジンクの周りを歩き回り、品定めしてくる。


 ハッキリ言って鬱陶しいが、見た目が偉そうなので無視する訳にいかないジンク。


 そう。この男どう見ても衛兵に見えない。見た目の服装は貴族という風貌だが、妙に威厳が無い。どこか覇気がない。貫禄がな見当たらない。


「大変申し訳ない。貴方はどなたでしょうか?」


「お前! ラミアン伯爵閣下に失礼だろう!」


「気にするなフォーミラ衛兵長。この者は私の事を知らんのだ」


 一見ジンクを気遣ってラミアン伯爵なる人物はそう言っているが、実際は違うだろう。


 何より、バカにしたような表情がジンクの神経を非常に逆なでしてくる。これに関してはジンクが平民である以上仕方ないとはいえ不快に感じてしまうのは仕方ないだろう。身分が違う。相手は貴族。無礼の名の元に切り殺されたって仕方ないのだ。


 しかし、相手を知らない以上ジンクはそういう反応を取らざるを得なかった。本当はそれなりの言葉遣いが必要なのだろうがあの表情でその気が失せた。


 ここにアンバーブラウンがここに居れば間違いなく文句を言うだろうが、

 生憎、ここに居なかった。では、どこに居るか。


 漁師小屋の中であれこれ見て回ると言って、ジンクだけを残し今に至っている。


「そもそも、中で死んでいる男の関係者なのかね。衛兵長!」


「は! どうやら関係ないようです。中に居るレディの関係者のようで」


「ではその女を連れてこい」


 そう指示を出した伯爵と先ほどから使いッ走りの衛兵長。しかもこの衛兵長が結構若いのである。


「さて、貴様が殺したのか? それともあそこのゴロツキ共か? それともあの亜人か? さっさと白状したほうが良いぞ。今なら簡単に死ねるようにギロチンか縛り首で処刑できるように取り計らう」


 それを言って誰が名乗り出るのかと思うジンクだったが、そこは別の人物が指摘してくれた。


「ろくに審議もしないで処刑とは。どうなっているんだろうね?

というかそもそもそれで一体誰が名乗り出るというのかな?」



 漁師小屋から出てきたアンバーブラウン。両脇を固められ、不満げにパイプをくわえ火を付けると深く吸い込み煙を勢いよく吐き出す。

 それは、こいつバカかと言わんばかりの煙。


「貴女か。中々に麗しい見た目をしておられる。初めましてレディ。私はフォルゲン・ジ・ラミアンと言う。」


「ありがとう。ラミアン伯爵殿。私はアンバーブラウン。そこで伯爵の威厳を崇めているのは私の同居人のジンク。今度から見た目だけではなく内面も褒めた方がいいと思うがね」




「伯爵殿! あのリーシャ・アンバーブラウン嬢です! ご存じですか!?」


「ほう! 知っておるとも衛兵長! そうか。アンバーブラウンと言えばあの呪いで殺された子爵の殺人を解き明かした者だろう!

 まさか殺意と犯行を証明しただけではなく、犯行まで立証するとは大したものだと感心していたんだ。

 貴女があのアンバーブラウン嬢か! 貴族社会ではかなりの名が知れ渡っているぞ!」


 どうやら有名人らしい。ただの変人ではなかったのか。ジンクは他人事で成り行きを見守っていた。


 急に興奮し始めた伯爵と衛兵長はアンバーブラウンに駆け寄ると笑顔で握手を求めてだして、アンバーブラウンはと言うと顔を引きつらせ迷惑そうにではあるが、一応手は握っていた。


「アンバーブラウン嬢。貴女が連れているという事は、彼は貴女の助手という事でいいのですかな?」


「だから彼はただの同居人です伯爵。 それはそうと、ジンクちょっと来てみてくれ。面白い物を見つけた。衛兵長と伯爵もいかがですか?」


「ああ。良いぞ」

 ここまで関わっている以上、付いて行かないという選択肢はジンクにはない。ジンクは頷いて言う。


「我々衛兵は、これからあの亜人とゴロツキに話を聞きますゆえ、私は円了しておきます。ミスアンバーブラウンの推理を聞きたいのですが」


 本気で残念そうな衛兵長はそう言い、他の衛兵に合流し、ゴロツキに話を聞いていた。


「ふむ。では参りましょうか」

 そう言い先に小屋に入った伯爵。残った二人で小屋に入りながらジンクが話しかけた。

「リーシャっていう名前だったのか? てっきりアンバーブラウンが名前だと思っていた。」


「ああ。何せ自己紹介するような時間がなかったからね。何この件が片付けばしっかりと挨拶させてもらうよ。まだ紹介したい人だっているしね」


「後、ミスアンバーブラウンは結構有名人でいらっしゃるようだ」


「よしてくれ。もてはやし好きの連中が勝手に持ち上げてるだけだよ」


「そうか? 呪いの立証なんてかなりすごいと思うぞ?」



 益体もない会話をしつつも、アンバーブラウンの視線は常にあちらこちらに移動して、ある一点で止まった。



「あれ、誰だと思う?」


 視線の先には衛兵に慰められながら泣く1人の女がいた。

 時折大きな声をあげてまた泣くという事を繰り返している。



「どう考えてもラージの母親では無さそうだ。若すぎる。

 となると件の恋人か」


「だろうね。まあ、自分の恋人が強姦魔の強盗犯で、なおかつ借金まみれでありながら商売女と遊び回る浮気者だと知ればあの態度も納得さ」


 ジンクとアンバーブラウンは特に気にすることもなく再度小屋に足を踏み入れた。


 小屋に入ってまず、アンバーブラウンが壁に設置してある戸棚を指差す。


「その中を見てくれジンク」


 言われた通りのぞき込んでみれば、食器の類に木製のカップ。非常食が並ぶ中で、奥の方に隠す具合で、紙の包み紙が出てきた。


 ジンクはそれを開けてみると、中身は無色、無臭の粉薬。


「それじゃないよ。それは最近巷で流行りだした気持ちよくなる粉だ。

 ただ違法性満載で中毒性があるだけのね。それさその乾燥した植物」


 アンバーブラウンは枯れた草みたいな物をそっとつまんで持ち上げた。



 その際、仄かに甘い香りとハーブのような清涼感が穴の奥に抜けていく特徴ある臭いを感じたジンクは、アンバーブラウンと顔を見るとこくり意味ありげに頷いた。


「刺々しい葉に、太い茎。 乾燥してもなおブドウのような赤紫を保つ草か。俺は一つしか知らないな」


「私もだよ。今度はこっちだ」



 アンバーブラウンは持っていた植物を適当に放り投げ、最初に見たテーブルの方を指差す。


 すると先ほどは目に入らなかった、薬草をすり潰す時に使う石製の器具と同種の乾燥してない生の植物が、隣に置いてあった。


 器具にはべっとりと植物の色がついていて、これで草を潰しました。

 というのがはっきりと分かる。


「さっき見つけたから出しておいた。さて、ジンク。どう思う」


「殺しだな」


「それも並大抵の殺意じゃないね」


「必ず殺すという意思が手に取るようにわかる」


「何したらこれほどまでに恨まれると思う?」


「さあ? 何にせよ殺害方法は分かったな」


「ああ決まりだ」



 二人で会話していると、奥のラージが死んでいた場所から伯爵が呼ぶのが聞こえた。


「ミスアンバーブラウン。ちょっと来てくれ!」


「伯爵様がお呼びだ」


 肩をすくめたアンバーブラウン。銜えていたパイプをテーブルに打ち付ける。すると鋭い音とともに灰と火種が辺りに落ちて、すぐさま火が消えた。


 新たにシャグを詰めて、火を付けたアンバーブラウンは呼ばれた方に向かうのでそれに付いて行くジンクは、ふと気になった事を呟いた。


「なんで貴族が憲兵の真似事してると思う?」


「世の中変わった性癖の人は一定数いるからね。多分死体に興奮するか、死体の臭いに興奮するんだろう?」


 そんな会話をしながら布の仕切りをまくり上げると、這いつくばってラージの死体を舐めるように観察する伯爵へんたいがいた。


「度し難いな」ジンクがそう呟くと、アンバーブラウンが「全くだ」返した。


 当然向かいながらの会話であり、建物はそう広くないため、伯爵との距離が近い。当然聞こえていたようで、


「失礼だな。ここは私の領地だ。そこで起きた重大事件だぞ? 退屈と暇を埋め合わせえるにはピッタリじゃないか。


 そんな事より此処を見てくれ」



 そう言って伯爵はラージの首筋を指差した。そこには何か虫刺されにも見えるような、赤い傷があった。


「これはどうやら不幸な事故だろうと私は思う」


 突然そんなことを言い出した伯爵にアンバーブラウンは形のいい眉を歪ませた。


「何をバカなことを言っているのですか伯爵。貴方は脳味噌をどこで落として来られたのかな?」


 とうとうアンバーブラウンが言ってしまった。

お気づきだと思いますが、実はタイトルが少し変わりました。


数少ない読者の皆様におかれましては混乱した事と思いますが、これからはこのタイトルでいかせていただきますのでよろしくお願いいたします。

( ´-ω-)


いつもの事ですが誤字などありましたら、教えていただけるとありがたいです。

では。

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