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始まり始まり

4日程空いてしまいましたが楽しんでください。

 連れの男の名前はラージというらしい。歳は25との事だ。

 住んでいる場所は港に程近い漁師小屋を格安で借り受けているらしい。



  親戚が漁師でたまに漁に出て金を稼ぐも、それだけでは当然足らず、女を引っかけては、金を奪う。今回の事も初めてでは無く、遊ぶ金が無くなれば繰り返していたと。こういう手合いは無駄に顔が良い事が多いが、この件も同様で連れ込むのも簡単だったとの事だ。


 それでは簡単にばれるだろう。そう問うアンバーブラウン。当然だ。


 毎回夜に連れ込んで場所がバレないようにしていたとの事。時には酒で酔わせた事もあるようだった。


 なんともな手の込み具合に呆れさえ感じたジンクだったが、ふと気になった事があった。


 毎回夜に連れ込んで場所がわからないようにしていたなら、何で今回バレたのか。


 その疑問に関しては、アンバーブラウンが解説してくれた。


「借金だ。見てみなよ、左手の薬指だ。指輪をしていた跡がある。しかも痣になっているから昨日今日じゃない、ずっと着けていたんだろうね。

 そこから考えられる事は、大事な人からの贈り物だ。場所から考えるに家族じゃないだろう。着ていた服の状態から妻でもない。それならば恋人。

 そんなものを手放さなければならない状況は金の回りの悪さからくる借金の返済だ。こんな随分と溜め込んでいるみたいじゃないか」



 男が着ていたであろう服から何かの紙束を取り上げ、こちらに投げて寄越した。



 身の回りの物を売っていたなら借用書とは考えにくいから質屋の買い取り証明か。



 目を通せば、表通りの有名な質屋から裏通りの危ない店まで店名が書かれた買い取り証明書がざっと20枚程がひもで括られていた。



 面白くない。そう言わんばかりに煙を吐き出すアンバーブラウンはパイプを置くといそいそと服を着だした。




 それがユーミャの拷問まがいの肉体的尋問とアンバーブラウが行う内面を見透かしていく質の悪い応答の結果判明した事だった。


「アイツには幼馴染みの婚約者がいて、今月にも結婚するんだ! だからアイツは勘弁してやってくれ! 俺がすべて悪いんだ! だから!」


 アイツだけは見逃してやってくれ。なんと都合の良いことか。

 ただ、美しい友情であるとは言えるのだろう。自分達のやった事を盛大に棚上げしなければ、の話だが。




「それは私に言わず、衛兵に言いたまえな。その前に被害にあったクライアントの親かな? 何にせよ私に言わないでくれ。知らないよそんなこと

 」


 服を着終わったアンバーブラウンは、再びパイプを再びパイプを手に取りながら言う。


 本当に興味がないのだろう。男の顔さえ見ず、言い放った。

 男は、怒りの表情を浮かべ、体を起こそうとしていた。

 この場合一番危険にさらされるのは男に近いユーミャである。


 だから、ジンクは動こうとしている時点で男の頭元に立ち、そっと喉に足を置く。


「動くな。脅しだと取ってもらって良いが、動こうとした時点で喉を骨ごと潰す。あと喋るな」


 グッと体重をかけると男は動かなくなった。動きの機転である頭部を抑えている以上、動きたくても無理だろうが。


 そこで、ふとジンクはユーミャの表情に脅えが浮かんでいる事に気が付いた。


「流石傭兵!いい仕事をするねジンク。だが、ユーミャが怖がっているからちょっと離れてくれないかな? 

 いや、ユーミャが退いたほうが安全そうだ」


 アンバーブラウンは、目線をジンクが足をかけている男に向けるとそう言う。


「彼女、昔、傭兵の男と色々あってね。ほら、君が外から声をかけた時、一瞬ユーミャの声が止まったろ。あれ、脅えてたんだよ。

 だけど悲しいかなそこはサキュバスの本能。興奮すると恐怖が飛んじゃうらしい」



 なるほど。あの時声が止まったから何かと思ったがそれで納得ができた。


 おどおどしながら動くユーミャを見てジンクは流石に声が出た。


「いや、さっきと雰囲気違いすぎるだろう、これ。どっかにスイッチついてないか」


「何を言ってるんだい。付いてるじゃないか。そこのご立派なお胸様に2つ

 。まあ、彼女、傭兵以外なら結構気が強い御姉さま感が出るんだけどね。

 過去のトラウマさ。気にしないで上げてほしい」




 そんなやり取りを経て、アンバーブラウンが呼んだ衛兵に連れられ、全裸で連れていかれた。


 ユーミャも男が持っていた手持ち、財布に入っていた金を全て持って帰っていった。


「さて、私はこれから出かけるけど、ジンク。君も行くかい?」


「来てから全然落ち着いてないんだが……、良いよ行こうか。どうせ乗りかかった船だ」


「ふん? そうかい、じゃあ行こうか」


「漁港近くの漁師小屋だ」


「結構候補がありそうだけど、大まかな目星はついてるからね」


「それじゃあ行こうか」



 ジンクがそう言うとアンバーブラウンは目深に帽子を被り、僅かにほほ笑んだ。








 出るときにアマーリエさんに声をかけ、また死ぬほど心配された後、

 馬車を拾う為に僅かに歩き、その道中で見かけたパン屋でふんだんに砂糖を使った菓子パンを2つ買って、そのまま馬車に乗り込んだ。


 アンバーブラウンが乗り込む際、御者声をかけ銀貨を3枚握らせた。


「フーデン港まで頼むよ」

 そう言って深く座席に腰をおろす。




「それにしてもジンク。君が持ってきている物は何かな? 建前で言えば戦争でもしに行くのかな? と聞きたくなるよ」


「本音で言えば?」


「趣味が悪いしセンスを疑うよ」


 アンバーブラウンは、座席に立て掛けていた物を指差し言った。


「これは刀と言って断ち切る事に特化した得物だ。まあ、見た事無いのは分かるがちょっと言い過ぎじゃないか?」


「そっちじゃないよ。それに私だって見た事はある。隣にあるじゃないか。

 そのゴテゴテした剣なのか銃なのか分からない感性を逆撫でしてくる金属の塊が!

 」



 言われてジンクはそっちかと納得した。納得はしたが、ある疑問が生まれた。


「どこで刀なんて見た?」


 ジンクの持つ刀は特注で作らせた物だ。いろんな鍛冶屋ブラックスミスを回ってどうしても見つからず刀工に無理を言ってようやく手にいれた物で、簡単に見つかるような物ではないハズだ。


 打った刀工も出来れば二度と関わりたくないと言っていたので複製やノウハウを使っての商売などしないだろう。


 そもそも作り上げるまでに2年かかっている。 刀工も鉄工に優れたドワーフ。

 それで2年である。打ち上げた時など、俺天才。超天才。絶天才。お前二度と来るな。と、有頂天になっていた程だ。


 そんな物が在るはずがない。しかし、アンバーブラウンはパチリと瞬きし、お前は何を言ってる? と言わんばかりに、


「異世界から来たとされる若者が持ってるよ? むしろ何でそれを知らないんだい。てっきり、私は件の異世界人を真似してるのかと思ったよ」


「ああ、そうだ、真似した。よく分かったな。それよりそれはガンブレードと言う。遠距離、近距離戦を圧倒的な火力で焼き払う俺の相棒だ。悪く言うなよ」


 我ながら無理な話題転換だったと反省するジンク。「ほれ」そう言って先程買った菓子パンを投げて寄越す。アンバーブラウンもジンクが無理な話題転換をしているのに気付いた様子で肩をすくめた。


「パンがあるなら飲み物があってしかるべきだと私は思うんだがどうかな?」


「忘れてた」


 気を使ってくれたであろうアンバーブラウンの言葉に普通に謝ったジンク。

 そこから特に会話もなく目的地に到着した。


「なんでここだと思った?」


 馬車に揺られたどり着いた所は、活気も人気もある港だった。

 造船が主だった産業なのだろうと一目でわかるほど賑わっている。

 にもかかわらず、建物の陰や道の端にいる死人のように動かない人間がジンクの目に入った。



「産業が漁業から造船に移り変わった結果、ここで漁をしていた漁師の食い扶持ぶちが失くなってしまったのさ。

 ここの港の周辺で海魔が発生して、魚が取れなくなった。すると漁ができず、稼ぎは減る。そうすれば冒険者に依頼もできず状況は悪化の一途というわけだよ。漁の権利を売る者まで出てくる始末さ。


 そこに目を付けた造船会社各所が街の活性化を掲げて、造船所を作り乱立という訳さ。


 最初は造船会社の陰謀なんて言われてたけどね、海魔云々は流石にどうしようもないからね。ここの漁協組合(漁協ギルド)は解散。

 他の街のギルドに入るしかない。だけど余所者を受け入れる事は出来ても数に限りがあるからね。他者を入れるくらいなら自分の街の若者に稼ぎを与えたいと思うのが本音だろうね。


 理由はどうあれ、受け入れてもらえないなら、やった事も無い造船でもするしかない。漁をしようにも権利は手放し船も売った。


 だから二束三文の安い賃金であんな目に合ってるのさ。見たところ、食事は支給制だね。良い給料もらってる社員は外に食べに行き、他は黒パン1個と、何の薬剤かな? 魔法薬か、それとも別か、まあ、あまり良い飲み薬とは言えないね。


 主な船は、軍艦、客船、大型の漁船。それは死にそうになっても当たり前というものだ。


 幸運にも権利を手放さなかった漁師諸君は、細々と死なないギリギリの生活というところだろう。そんなしみったれた場所ここぐらいしか無いからね」


 アンバーブラウンは説明しながら歩き進め、ある漁師小屋の前で止まった。


「ここか? どうして場所が分かった?」


 立ち止まった場所は、港のメイン通りから外れ、わき道に入った先にあった小さな漁師小屋だった。


「買い取り証明の紙束の中に一軒だけ住所の違うものがあった。それがここさ。多分、共同で売るときに紛れ込んだものだろう。君も何かを売ると時は気を付けたほうが良い」


「参考になるよ」


 そう投げやりに答えたジンクが扉に手をかけた時だった。


「あ? 何だてめぇら」


 港方面から歩いてくる三人組の男に声をかけられた。実際に声をかけてきたのは真ん中にいる男でイカツイ顔をしているがいかにもチンピラです。

 そういわんばかりの態度が三下感を助長させていた。


「君たちも借金の取り立てかな?」


「ああ。なんだてめぇらも金貸してんのか? 俺たちはシガリの人間だ」


「ほう! あのシガリファミリーか。私たちは金貨30枚を貸してるが、君達の方は?」


 言葉巧みにアンダーブラウンが情報を引き出していく。


 シガリファミリー。裏の世界では悪名が轟く集団である。


 ボスであるシガリは人情に厚く、困った人は放っておかない、熱い男らしい。

 が、一度約束したことは必ず守らせ、違える事があれば容赦しないと噂だ。

  そのシガリから金を借りた。返す当てもないのに。ラージという男はかなり頭が弱いらしい。借りた額は金貨で50枚。借金の返済のために。


「今日が期限なんだよ。無くてもラージの奴を引っ張っていくだけだ。

 悪いがてめぇらには渡せねぇ」


「それは困ったね。私も取ってこいと言われてるのさ」


 にやりと笑った取り巻きの大男が口を挟んだ。


「ねぇちゃんよ。その体一晩好きにさせてくれたら俺達が助けてやらないこともないぜ? 好きなんだよ俺。そういうボインがさ!」


 こういう考えだからヤクザ者の下っ端は嫌いなのだ。今にも襲い掛かろうとする大男の鼻息は荒い。

 ジンクはガンブレードに手をかけていつでも抜けるように腰を僅かに落とすも、アンバーブラウンが速かった。


 水の魔法で水球を作り大男の頭に当て、昏倒させた。その事にヤクザ者のリーダー格は眉を動かすだけだった。


「今のはこいつが悪い。ボスなら殺してた。悪かったな嬢ちゃん。

 だが、このバカをぶっ倒した事はラージの野郎を俺たちが連れていく事でチャラにしてやる」


「そうかい」


 アンバーブラウンが答えるとリーダー格は、ハッと笑った。



「気の強ぇ嬢ちゃんだ。良い腕してるぜ。多分隣のアンチャンも相当に腕が立つだろ。こんな場所でドンパチは御免だ。おい」



 リーダー各は手下に声をかけた。言われた手下は大男を叩いて起こし、アンバーブラウンに突っかかろうとするのを殴られて止められていた。


 手下に扉を開けさせてなかに入った三人組は少し間を置いた後、なにやら騒ぎだした。


「入ってみようか」


 そう言うアンバーブラウンと共に踏み込めば、散乱した雑貨や生活用品。

 食料、衣服と酒瓶が所せましと散乱していて足の踏み場がない。

 これを生活感と呼ぶのなら大抵の人間は生活感などないだろう。


 ゴミの散らばるテーブルには何やら土が落ちている。


「こっちには乳鉢が置いてあるよ。それもだいぶ使い込んである」


「健康に気を使って薬草でも煎じてたか?」


「そんな人間ならこんな有り様にはならないと思うけどね」


「同感だ」


「ここには寝床が無いようだけど奥に布でしきられた気になる場所が在るね」


「実は俺もそこが気になってた」


何せそこから、先程の三人組の焦った声が聞こえている。


大丈夫か、や、息してねぇと言う不穏な言葉が漏れている。

ジンクは素早くガンブレードを引き抜くと、流れるように布をまくり、壁に向けて一発撃った。


「動くな」


一言だけそう言ったジンクは室内を見渡す。


倒れこんで動かない裸の男を囲むようにして驚いている三人組と隅に裸の亜人を確認した。

口々に三人組は喚くが、もう一発撃ち静かにさせる。


見たところナメクジのような姿と質感を持ってきている女は泣きじゃくっていた。


すぐさまアンバーブラウンに声をかけたジンク。


「医者と衛兵に連絡!」


「分かった」



そう言い残しアンバーブラウンは部屋を出た。



しかし、ジンクにはどう見ても裸の男が生きているようには見えない。


アンバーブラウンと共に衛兵が入ってくるのにそう時間はかからなかった。

事件です。事件ですよ。皆さん! 犯人当てはいつでしょう?


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