プロローグ
「ジンク、君は異世界人だろう」
夕暮れ独特の赤い陽光が、窓から差し、暗くなってきている室内を斑に色を付ける。
そんな中、椅子に座り足を組む女は赤い光に照らされ、言いようもない雰囲気を醸し出す中、そう言った。
女の名前はリーシャ・アンバーブラウン。
「何を言い出すんだ?」
「君の言動やそれに伴う挙動を私が見逃すと思っていたのかい? もしそうなら甘く見られた、と考えるべきかな?」
そこまで言い切ったリーシャは、側仕えのメイドからティーカップを受け取ると一口付けた。
「いい味だ、香りも違う。流石はルナ。私のメイドだ」
「恐悦至極にございます」
メイドはそう答えると、ジンクをちらりと横目に見て、下がっていった。
「さて、ジンク。私の目が節穴だ、と侮る君ではないだろうから、簡単に根拠を示していくが、まず、私が異世界人の話をした時の君の言動がまずおかしかった。知らないなら知らないで答えようがあるだろうし、知っていたのなら隠しようもあったハズだ。しかし、君は雑に話をそらして誤魔化した。私もあの時は本筋に関係なかったから誤魔化されたように見せたがね」
「なんでその時に指摘しなかった?」
「言ったろう? 関係なかったからさ。そもそも君、刀、なんて私は知らないんだから、適当な事を言っておけばいい物を下手に解説するからボロが出るんだよ。私はサーベルか何かだとしか思って無かったしね。
異世界から来たとされる若者が持っていた、刀と呼ばれるサーベル。
それを持つ別の人間。真似した、だけじゃなんともおかしいじゃないか。
」
「それだけか? それだけで決めつけるのは乱暴だとおもうが」
「ふん? 君も中々強情だね。私程の頭脳の持ち主がただの違和感だけで答えに辿りつくのはそれほど不可解かい?」
それとも、とリーシャは続け。
「手荒に聞かれる方がお好みかな?」
不敵に笑みを浮かべ、掌をジンクに向けた。僅かに冷気を感じ、すぐにジンクの足元から氷が張り付きだしあっという間に太腿ま氷漬けにされた。
「分かった! そうだ、その通りだ。降参しよう。リーシャ君の言う通り確かに俺は異世界人だ。これでいいかな」
「では、私の前に現れた理由は? 流石に私を殺しに来たという訳では無いだろう? それならさっさと殺しているハズさ」
いきなり物騒なことを言い出したリーシャに、ジンクは慌てた。
「まてまて。なんでそういう話になる? どういう話の流れだ!」
「気付いてなかったのかな? 私は魔族さ」
言うと、すぐさまリーシャの瞳に変化が現れた。
茜差す、薄暗がりの部屋に浮かびあがった紫の輝。それは紛れもなくリーシャの瞳から発せられていた。
「多種族共存なんてお題目を掲げられた所で、魔族の肩身は狭いからね。用心に越したことはないからこうやって瞳の色を隠しているのさ」
「なん」で、そう言おうとしたジンクがったが喉元に突き付けられた磨き上げられた刃がそれを阻んだ。
「リーシャ様、何故そのように御自身の素性を明かされるんでしょうか」
いつの間にかジンクの後ろで潜むようにして立っていたメイドがナイフを当てていた。
「なに、ノリさ。それに幾らジンクの腕が立ってもこの状況ではそうしようもないだろう?」
「その通りだとも」
この状態では勝ち目がないと手を挙げたジンクは肩を落とした。
「で? こんな事するくらいだ。何かよっぽどの事情があるんだろう?」
「リーシャ様、この男本当に事情を知らないのかもしれません」
「だろうね。私もそんな気がしてきたよ。こんな事なら普通に接しておけばよかったと後悔してもしきれないけど、こうなった以上は彼にも知る権利があると思わないかな?」
「しかし、御身を危険に晒すような」
リーシャとメイドが話し込む中、ジンクが割って入る。
「ちょっとよろしいかな? いい加減足の感覚がなくなってきたんで早めに終らしてもらえると助かるんだけど」
「ああ、そうだね。実は私は魔族の姫なんだ」
そう自分で言うのはすごく恥ずかしいけどね、と首を傾げ笑う。
今までで一番の笑みだ。顔の一つ一つのパーツが強いが奇跡のバランスで構成されてる顔面から繰り出される美人のほほ笑み。
ジンクは抵抗する気が完全に失せていた。