第四章 短いお別れ
「んー・・・・。」
ヤツの部屋はヒメユリちゃんの言う通り、一番奥の部屋だった。しかも、最上階の部屋だったのでバルコニーに忍び込むまでは余裕だった。が、ここからが問題なのだ。ミコはこちらをたしかに向いている。が、気づかない。窓を叩いてみても気づく様子はない。もしかしたら、また目も耳も使えなくなってるのかもしれない。
「おーい・・・・。」
電気電気・・・ないか・・・。こんな真っ暗な部屋に月明かりだけって・・・・むかしのあたしみたいな生活だな・・・。
電力が使われている気配がしないので、私の能力も使えない。どうするか・・・・。
「・・・・・・・・・・。」
仕方ないか。
パッシャーン
キラキラとステンドグラスが砕け散る。なるべく音が出ないように気をつけたが、かなり大きな音がでた。
「ヤバイヤバイ・・・・。」
部屋に体をすべりこませ、ミコの体をビシバシと叩く。
「あんた!あんた!」
学校の時と同じように稲妻がバチンと落ちる。そして、謎音楽も流れた。
「・・・・・きみ・・・。」
「あたしだよあたし!プミラ!!」
「・・・・・どうしたの?」
「中途半端なところで勉強が終わっちゃったからさ、続きを少しやろうと思って。」
・・・・って、そうじゃないんだよ!とりあえずは目先の危機が先だ!!
「この部屋に入るために窓割っちゃってさ、けっこうデカい音が出たんだよ。たぶん・・・・
「・・・・・・神子さま、神子さま・・・?」
やっぱり。あんなデカい音がして来ないほうがおかしい。
「お部屋に入りますね。」
扉を開くような音がした。
返事は聞かないのか!と思ったが、そういえばミコは音が普段は聞こえないようなので聞いたとしても返事がないのが普通なのだろう。
「ど、どっかに隠れさせて・・・・・・!!あと、なんとか誤魔化して!」
「・・・・・・・・・。」
無言でベッドを指さされたので、ベッドの下に体を滑り込ませる。
・・・・さすがお偉いさんのベッドの下だ。全然埃っぽくない。
「神よ・・・・・・。」
ベッドの下からこっそりとのぞくと、ミコはあたしが最初にみたときとまったく同じ姿で椅子に座っていた。そして、ただ虚ろにどこかを見つめている。
「なにも・・・ないようですね。」
ステンドグラスはスルーでいいのか・・・。
「失礼しました。」
しばらくすると、ガチャリという音がした。たぶん、出て行ったのだろう。
「・・・・・・もういいよ。」
ふぅ・・・よかった・・・。
「ありが・・・んっ!!?」
す、す、ステンドグラスが・・・・。
「あたし、ステンドグラスぶっ壊してなかったっけ・・・・?」
「神にお願いしてなおしてもらった。」
・・・・・・・。
「・・・・あんたの能力ってなんなわけ?」
音が聞こえるようになったり、聞こえなくなったり、瞬間的にものをなおしちゃったり・・・。
「なにもないよ。ぜんぶ、僕は神にお願いしてるだけ。僕は神の依り代だから・・・。」
難しすぎてよくわからん。
「耳は聞こえるの聞こえないの?目は?」
「・・・・・神をおろせばきこえるし、みえる。」
「・・・・じゃあ、普段からおろしときなよ。耳が聞こえないのも目が見えないのも大変でしょ。」
「僕は・・・無の神子だから・・・・。耳がきこえたり、目がみえたりすることによってなにかをとりこんではいけないから。」
・・・・よくわからん。
「そうだ。続きだよ続き。」
勉強だ勉強。
「じゃあ、テストするよ。ひらがなを「を」まで書いてみるんだ。」
* * * *
「ふぁーあ・・・眠いな。」
ミコは今日一日でひらがな、カタカナを完璧に覚えた。たぶん、若さと地頭のよさだろう。羨ましい。
「そろそろ帰ろっかな・・・。」
もう11時後半だ・・・。
「あ、これからはさ・・・電球とかそういう電化製品を部屋においてくれない?」
「・・・・・いいよ。」
よし、これでこれからは窓を破壊せずに済む。
「ショートしたりとか、点滅したりしたら窓を開けて・・・・・あ。」
目が見えない&音が聞こえないから、ショートしても点滅しても気づかない・・・・。
「やっぱいいや・・・。」
毎回窓破壊するのか・・・・。いや、
「ちょっと窓あけておいてよ。よろしく。」
「わかった。」
よし、これで万事解決!
私は窓を開けバルコニーへと出た。
「じゃあね!」
ミコに手をふり、私は柵を超えて空へと飛び出した。