始まり
いつからだろうかやることなすことがつまらなく思うようになったのは・・・
いつからだろうかこの世界がつまらないと思うようになったのは・・・
そして、出会った。
これが俺のやりたかったことだ。
この世界が俺の求めていた世界だ。
この殺意渦巻くこの世界、それこそ俺の求めていたものだ。
――――――
「なぁ、刹那。一緒にこれやんないか?」
ホームルームが終わり部活に行こうとしていた俺に声をかけてきたのは幼馴染の裕也だった。その手には紙袋が握られていた。
「なんだこれ?」
「ああ、これはVRギアだよ」
その紙袋の中には少し大きめの箱が入っておりそこにはVR専用ヘッドセットと書かれていた。正式名称は箱に書かれている通りVR専用ヘッドセットだが一般的にVRギアと呼ばれる代物である。
「で、このVRギア使って『AWO』を一緒にやろうぜ」
「AWOってあのAWOか?」
『Another World Online』略してAWOだ。このゲームはいわゆるVRMMOというフルダイブ技術を使い仮想世界で遊ぶオンラインゲームなのだが、βテストが行われた際にその完成度からかなりの本当に仮想世界なのか?という声が上がるほどリアルでまさにもう一つの世界っということでかなりの人気を集めているとニュースで報道されていた。
当然数に制限があり入手困難な代物なのだがそれを裕也は持ってきた。
「ああ、あのAWOだ。実は俺βテスターだったんだ。それでβテスターの特典として友人招待用のVRギアとAWOのプレイ権が貰えるんだ」
「なるほど」
というか裕也βテスターだったんだな。
βテスターとは一定数のプレイヤーを募集してゲームに不具合などがないかを確認するプレイヤーのことだ。
AWOのβテスターは250人だったのだが募集者の数がなんとその200倍、50000人だった。その中から選ばれた裕也は強運の持ち主だ。
そして、そんなβテスターの特典を俺にくれるということなのだが・・・
「悪いけどやめとくわ。剣道部のほうが忙しいし。だから、他のゲーム好きに譲ってやってくれ」
「まあ、待てって刹那」
俺はそういうとかばんを持ち部活に向かおうとすると裕也が再度呼び止めた。
「お前の部活が忙しいのは知ってる。なんたって剣道部のエースなんだからな」
そう、俺は剣道部でエースを張っている。高校に来て何となく初めて剣道だったのだが知らないうちにそこまで上り詰めていた。全国でも五本の指に軽く入るくらいには実力がある。先生がいうには俺はかなり筋がいいらしく続けていけば世界も狙える程だと。
だが、最初のころは楽しかった剣道だがすぐその熱も覚め今は全くといっていいほど楽しくない。今はただ他にやることもないので続けている。
何かが足りないのだ。胸を熱くする何かが。
「でも、最近なんていうか調子が良くないだろ?」
裕也の言葉に流石は幼馴染だなっと思った。剣の腕などは落ちていない、むしろ上がっているのだが。やはり俺が剣道から興味を失っていることを何となく察していいるようだった。
「だから、息抜きを兼ねて一緒にAWOをしようぜ」
「・・・わかった。ありがたくやらしてもらうよ」
裕也の俺を気遣う言葉と丁度いいと感じた俺はAWOをプレイすることにした。
「ホントか!」
「ああ、ただ今日はこれから部活があるから夜にプレイすることになるけどな」
「わかった!じゃあ、明日一緒にプレイしようぜ!」
裕也は嬉しそうにしているのを見て俺は少し照れる。そんなに俺と一緒にプレイするのが楽しみなのかと。
「明日楽しみにしておくから今日のうちに操作とか覚えとけよ!」
そして、裕也はVRギアを俺に渡すと教室を出て行った。多分帰ってAWOをするのだろう。
「さて、俺も部活に行きますか」
俺は裕也から渡されたVRギアを持ちをかばんを持ち直す。
「・・・俺の胸を焦がすようなものに出会えるかな」
VRギアを見つつこれからプレイするAWOに期待に胸を膨らませつつ部活へと向かう。
―――――
「ただいま~」
「おかえり、お兄ちゃん」
部活を終えて家に帰った俺を出迎えたのは妹の美亜だ。俺と一つ違いの高校一年生の美亜は少し小柄な体系と幼さの残る顔立ちをしていて兄の俺から見てもとてもかわいい。
出迎えてくれた美亜の頭を撫でる。
「んみゅ~」
撫でられた美亜は嬉しそうに目を細める。
「あれ、それ何?」
美亜は俺の持っているものに気がついたようだ。
「ああ、これはVRギアだ」
「え、VRギア!」
美亜は目を見開き驚いている。
「ああ、裕也が一緒にAWOをやろうって誘ってくれたんだ」
「お兄ちゃんもAWOするの!」
「も、ってことは」
「うん、私もするよ。なんたってβテスターだし!」
美亜が小さな胸を張ってくる。
「む、今何か失礼なこと考えなかった」
「い、いや考えてないぞ」
以外に鋭い美亜の頭を撫でて誤魔化す。
「む~、そんなことで誤魔化されないんだから・・・」
とか言いつつ目を細め気持ちよさそうにする。
「ていうか美亜もβテスターだったんだな。気がつかなかった」
「だってお兄ちゃん部活ばっかりだったから・・・」
そう言う美亜の顔は少し寂しそうでだった。
「そっか」
俺は美亜の頭を優しく撫でる。最近は部活ばかりしていてあまり美亜に構ってあげられていなかったので申し訳なく思った。
「これからは一緒にAWOしような」
「うん!」
俺が一緒にAWOをしようと言うと美亜は寂しそうな顔から一転笑みを浮かべる。
「でも、お兄ちゃんが裕也さんから貰ったんなら私のVRギアどうしよう」
どうやら美亜も俺にVRギアを渡すつもりだったらしい。
「・・・そうだ!お姉ちゃんにあげよっと」
美亜は携帯を取り出し楓姉にメールし始めた。
楓姉は俺の二つ上の大学生だ。今は少し離れたところで一人暮らしをしている。ほんわかした人で母性溢れる女性だ。そして、なんといっても胸がでかい。身長もありモデルみたいにきれいな人だ。
・・・妹は超美少女、姉は超美人。あれ俺かなりの勝ち組じゃね?
「お姉ちゃんほしいって。私たちの一緒に遊ぶの楽しみだった」
俺が少しバカなことを考えている間に美亜は楓姉とのやり取りを終えたようだ。
「そっか、じゃあ明日にでも楓姉のところに送るか」
「そうだね」
くぅ~
余ったVRギアをどうするかが決まったところで我が妹のお腹の虫が空腹を訴えてきた。
「飯にするか」
「う、うん」
美亜はお腹の音を聞かれて少し顔を赤くして恥ずかしがっている。そんな姿もかわいい。
「今日のご飯はなんだ?」
「今日はねお肉が安かったから豚の生姜焼きにしたの」
両親が仕事で家を空けているため家事は俺と美亜の二人で分担している。俺も料理はできるが最近部活ばかりであまりしていない。
「じゃあ、荷物置いてくる」
俺は二階にある自分の部屋にかばんとVRギアを置きに行った。