新人坂斜子
時間は巻き戻り地上。天野が目の前で雷に撃たれたところを目撃した女の子。
彼女の名は新人坂斜子。中学1年生だ。
呆然と前を見つめる新人坂。目の前で起きた出来事に頭がついていかない。人が雷に撃たれ、そして消えた。そのとき、ブルブルと彼女の携帯が鳴った。
「おはよう。おれだけど」
聞きなれた声に安堵する新人坂。
「あ、マグナさん。おはようございます」
マグナ=スケイル(17)。新人坂が所属するチーム早足の運び屋のリーダーだ。
「おう。どうした。今日はやけに静かだな。なんかあったか?」
本当に心配するような声で新人坂を気にかけるマグナ。
「実は…アマンドの末裔の保護の件についてなのですが…あの…その」
先が言えない新人坂。無理もない。人が目の前で死んだのだから。
「逝ったか」
え?と思わず声に出す新人坂。
「報告がある。実はおまえに内緒にしてたことがあるんだが」
「はい。なんでしょうか」
「アマンドの末裔、 天野力斗は天界に連れてかれた」
聞きなれない言葉に耳を疑う新人坂。
「天界!?なんですかそれ。あの世のことですか!?まさかそんな…本当に…?ええ…じゃあやっぱりあの人は死んだんだ…あ…うわ…ごめんなさい…私守れなかった…予言は絶対だって信じて、だから回避しようってこの1ヶ月頑張ってきたのに…うぐ…」
泣き出す新人坂。彼女の内に秘めた想いが溢れ出した。
予言。それは彼女がいる世界、マグマ界にいる予言者からいわれたものだ。
内容はこうだ。『5月1日午後1時に、アマンドの末裔 天野力斗の家に雷が落ちるだろう』
「うわあああああああん!ごめんなさい!ごめんなさい!うわああああああああああああ」
「おい!落ち着け!やつはしんじゃ」
「うわああああああああああああああああああ!ひっぐ…うぐぅ…ああああああああ」
道路の真ん中で大号泣する新人坂。
「やつは死んでない!!!!!」
割れんばかりの声でマグナは言った。
「え…?ほんとですか…?」
「本当だ。おまえが火事で死にそうになったときマグマ界にきたように、やつも天界に行った。招かれたんだよ。おまえと同じようにして。天界という場所に」
「じゃあ…無事なんですね?ふああ…よかったあ…」
重荷から解放されたようにしてバタンと倒れる新人坂。
「わりいな。他の界があることは秘匿事項なんだ。だから言わずにことを終えようとした。ほんとにすまん」
彼女の思いを知っていたマグナは、心の底から、申し訳なさそうに謝る。
「いいですよ。マグナさんは決まりを守ろうとしただけだしそれに、無事だって知ることができたんです。それだけわかれば、私はもう」
仕事は終わったと、嬉しいやら悲しいやらよくわからない感情になる。
「そっか。ありがとさん。そしておつかれさん。おまえがやさしい子でほんとによかった」
優しい声でマグナは言った。
えへへ、と照れる新人坂。
「そんじゃまたな。なんかあったらまた連絡する」
「はい。わかりました。それじゃ失礼します」
電話を切り、ポケットにねじ込んだ。
5月1日。晴れ。今日はいい天気だ。