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仲直りのKISS

 背後から私を呼ぶ大声がした。


 ばしゃばしゃと水音がして、痛いほど右腕を掴まれた。

 その勢いで正面を向かされ、両腕を揺すぶられる。


「カナン!! 馬鹿っ! 死ぬ気か?!」

「嫌っ!! 来ないで。稜クンなんか大嫌い!!」


 そんな言葉が口をついて出た。


可南カナン……頼むよ。ここで土下座でもなんでもする。だから頼むから、おかに上がってくれ。このままじゃ風邪ひくどころの騒ぎじゃなくなっちまう」


 彼の声は悲壮なほど真剣で、そして腕の力とは反比例して弱々しかった。

 そんな稜クンを目の当たりにして、私の躰から一気に力が抜け、頭と両腕がだらりと下がった。


 彼はそんな私のその手をそっとひき、テトラポットへ連れて行くと私を座らせ、濡れたブーツを脱がせてくれた。

 つい先日、ママと一緒に選んだばかりのお気に入りの茶色いスプリングブーツは、海水で台無しになっていた。


「こんなに……冷たくなって……。まるで氷じゃないか」


 彼が自分の掌の熱だけで、かじかんだ私の足の爪先を必死になって暖めようとしている。

 しかし、早春の海に浸かっていた足の冷えはなかなか暖まりはしない。


「……可南カナンが。そこまで思い詰めるなんて、正直、思わなかったんだ」

 彼は、ぽつりと呟いた。


「ショックだった。「帰る」て可南が部屋を後にして、頭が真っ白になって。ハッと気づいて後を追った時には、可南はもう、どこにもいなくて……」


 私の足を一所懸命さすっていた彼の手は、いつの間にか動きを止めていた。


「携帯オフってあるから、探したんだ。二人で行ったカフェ、ショップ。バレエ教室も覗いてみた。可南の家にも電話して。帰ってこないし、LINEも繋がらないって可南ママに可南パパが、すごく心配してた」


 その一言で初めてパパとママのことを思い出した。

 でも、今すぐ連絡をする気には到底なれなかった。

 そして改めて、私の頭の中は稜クンのことだけで占められていたことを思い知った。


「俺も馬鹿だよな。それで、やっと気づいたんだ。どこにもカナンがいないなら、可南カナンは絶対、あの西遊園地の大観覧車の中にいるって。なのに……。丸二周するまで待ったけど、可南は降りてこない。付近のベンチにも、海の見える丘のフェンスの所にもいない。……途方に暮れたよ。可南がどこか俺の知らない所で泣いてるんじゃないか。変な奴に絡まれてるんじゃないか。考えたら、胸が張り裂けて、気が変になりそうだった」


 彼の声は、心なしか涙声に変わっていた。


「この海でカナンを見つけたのは、半分は偶然だ。でも、傷ついている可南カナンが最後に来るのはここしかないっていう虫の知らせのようなもの。半分は第六感ではっきりと、最後の最後でそう感じたよ」


 彼は、私の両の頬をその大きな掌で包み、私の顔を見つめながら言った。


「なんとか、間に合って。無事で。本当に良かった」


 彼の瞳が潤んでいる。

 そして、座ったままの私をぎゅっと抱き締めた。


「カナン!ごめん。可南カナンの、オンナノコの、繊細な気持ちを思い遣ってやれなくて……。ただ、可南を抱きたい。自分のことしか考えてなかった。許してくれ」


「稜クン」

 私は、両の掌でパチンと彼の両頬を挟んだ。

 そのまま、ペチペチと彼の頬を叩く。

「痛いよ。カナン」

 そう呟きながらもされるがままになっている彼に向かって、


「……わ、私。私は。わたしはもっとイタカッタんだからねっ……!」


 初めて本音を口にしていた。

 思えば、黙ったまま逃げていた自分も悪かったんだということに、その時、初めて気がついた。


「ごめん。カナン」

 

 彼は私を再び強く抱き締めた。


 凍る手足もくすぶっていた心をも全て溶かしてゆく、包み込むような温かい愛を感じた。


 見つめ合う。

 二人とも涙で顔がくしゃくしゃになっていた。


 陽はほぼ沈み、辺りは空の瑠璃色の光の下、薄明るい様相を帯びている。


そんな早春の黄昏時の海辺で。


 稜クンと私は、つきあって迎える初めてのホワイト・デーに、初めて犯した喧嘩の初めての仲直りのKISSをした。



 了     







HAPPY WHITEDAY !!


カナンと稜のホワイトデー・エピ、如何でしたでしょうか?

本作は、「クリスマス・キス」シリーズのラストエピソードでした。


「クリスマス・キス」シリーズは、時系列で

・「CHRIRTMAS KISS」

・「VALENTINE LOVE」

・「WHITE TWILIGHT」

の三部作となっております。


最後までお読み頂きどうもありがとうございました!

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