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ボレロの波音

 ザザン…… ザザン……


 同じリズムを刻みながら同じ音が、まるでラヴェルの「ボレロ」のようにゆっくりと、しかし確実に、徐々に大きくなりながら近づいてくる。


 耳に木霊するその波音をじっと私は聴いていた。

 さっきまであんなに遠かった波間がいつのまにかもう、すぐ目の前まで来ている。満潮を迎える頃にはこの場所はどこまで海面に沈んでいるのだろう。


 私はこの海に入水して死ぬつもりなのだろうか。


 あれから、気がついたら、あのクリスマスに稜クンと遊んだ西遊園地に来ていた。

 あの大観覧車に一人で乗った。

 約一時間以上かけて、たった一人で三周もした。

 窓から覗く風景はまるで別物のように、去年のクリスマスの至福の夕暮れは、雲の彼方に消え失せていた。


 大観覧車を降りた後は、長いことベンチに腰掛けて、電源を切ったスマホを握り締めたまま、呆けたように時間の流れるままに身を委ねていた。


 それにもいい加減飽きると、今度はあの丘のフェンス越しに、無性に海が見たくなった。

 見ている内に、惹きつけられるようにふらふらと海岸へと降りてゆき、とうとうこんな場所まで来てしまった。


 春分の日が近いこの頃、陽は少し長くなっている。

 しかし、今日も丁度今この時刻、西の海に落ちかけている夕陽が、目に染み入るように鮮やかでひどく綺麗だ。


 稜クンが私をもう一度抱きたがっていることは、私だって気づいていた。

 でも、この一ヶ月、ずっとそれには気づかないフリをしてた。


 一ヶ月前のヴァレンタインのあの日、確かに私は「女」になったけれど、心はまだまだ「コドモ」だった。


 躰だってそうだ。

 あの時、全身を貫いたあの衝撃いたみ

 あの痛みを思い返すと、再び抱かれることは、恐れ以外の何物でもなかった。


 それでも。抱かれようと思った。

 あのひとつになった後に訪れた幸福感を思えば、できることなら、稜クンに抱かれたかった。


 でも。

 心はそう望んでも、躰が本能的に受け入れなかった。


 私には、しょせん無理なんだ。

 私は稜クンに釣り合う女じゃない……。


 波はごく低いが、気がつくともう足首まで海水に浸かっている。


 稜クン……。

 ぐずっとまた泣き出しそうになっていた、その時。


「カナン……!!!」


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