天使が通った瞬間
「稜クン。ほら、ティーが来たわよ」
ウエイトレスが数回に渡り、銀製の三段重ねのプレートと二つのポットに二客のティーカップとその他、茶器を運んできた。
「マイセンの「青い花」ね。私の好きな器だわ」
マイセン特有の透き通るような白磁に、青一色で花のモティーフが描かれているその一連の茶器は、その波を描くようなフォルムといい、上品でとても優雅だ。
「可南って、そういうのにもコダワリあるわけ?」
「え? カップの好き嫌いくらいはあるし、それにママが色々、コレクションしてるから」
彼のカップにティーを注ぎながら、答える。
「どこまでも「お嬢さま」だよなあ、可南って」
嘆息するように呟いた彼に、私も言った。
「稜クンこそ「お坊ちゃま」じゃない」
今日までの彼との、長いとはまだ言えないおつきあいの中でも、それはよくわかっている。
「お砂糖はどのくらい?」
「だから、そういうのゼンゼンわかんないんだってバ!」
「ごめんごめん。じゃあ、このくらいね」
そして、シュガーポットから軽く二杯のお砂糖をすくい、ティースプーンでそっとかき混ぜた。
私もお紅茶を頂く。
紅茶の王道、ダージリンはストレートに限る。
「スコーン、熱々。焼きたてね! クロテッドクリームもとっても美味しい」
嬉しそうにクリームをのせた大好物のその焼き菓子を頬張る私を満足気に眺めながら、初めて安心したように彼もティーカップを口に運んだ。
それから。
学園の友人達のスリリングな恋バナや、先日の学年末試験がやたらと難しかったこと。今年に入って始まった早朝補習講義のスパルタぶりや、お互いのツィッターやインスタなどSNSのあれこれ。
そんな話に他愛なく興じながら、そして、彼も私も好きなクラシック音楽や、私が最近取り組んでいるバレエ・テクニックの話などに話題は及んでいた。
その間、スコーンの他にもサンドイッチやフィンガーフード、限定プティケーキなどを、新詰みの香り豊かなダージリンを頂きながら、リラックスして心から楽しんでいた。
しかし、ふとした……
そう、それはまさしく「天使が通った」瞬間だったのだ。