アフタヌーンティー
「さすがはホワイトデーの「クラウン・アソシア」だな。テーブルが予約席を含めて満席だ」
「ほんとね」
案内された奥のテーブルに座りながら、そんな会話を交わす。
しかし、満席状態というのにこの空間は、それほどの煩さを感じさせない。喧噪音といった風のざわめき程度で、むしろその音は耳に心地よい。
やはり、一流ホテルのメインロビーラウンジの面目躍如といったところだろうか。
「可南。オーダー決めてよ」
お水と一緒に運ばれてきたメニューを私に渡しながら、彼が囁いた。
私は、その格調高い濃いブラウンの革張りのメニューに目を通す。
「お紅茶は…限定のダージリン…ファーストフラッシュが入荷してるのね、贅沢。スコーンは、んー…。あ!限定ケーキもあるわ。楽しみ」
アイコンタクトを交わすと、彼は軽く片手を挙げた。
サテン地のピンクのブラウスに黒のタイトロングスカート姿のスレンダーなウエイトレスが、すぐにオーダーを取りに来た。
「こちらのお席は、「ホワイトデー限定アフタヌーンティー」二名様でご予約承っておりますが、お飲み物は如何致しましょう?」
「限定のダージリンをホットのストレートで」
「スコーンはプレーン、チーズ、ブルーベリー、ココアの四種類から、おひとり様につきお二つお選び頂けます」
「彼がプレーンとブルーベリー。私はプレーンとココアをお願いします」
「限定プティケーキは、苺とショコラのハートモティーフ・生クリームケーキになっております」
「お願いします」
「かしこまりました」
一礼し、ウエイトレスは姿を消した。
「う~……緊張する!」
彼が息を吐くように、椅子の背へと身を預ける。
「稜クンでも緊張するんだ」
くすりと笑った私に、
「なんだそれ?! 俺だって人の子だよ。それにこんなとこでの正式なアフタヌーンティーなんて、そりゃ緊張もするさ」
と、彼から抗議の声が上がった。
「だったら、無理しなくても良かったのに」
「……可南が絶対、喜びそうだったから」
彼がぼそりと呟いた。
しかし、次の瞬間にはもうそっぽを向き、拗ねたような顔をしている。そんな彼の端整な横顔に思わず見惚れてしまう私がいる。
昨秋、出逢って約半年あまり。
未だもってしみじみ、かっこいい、と思う。
179㎝の長身。ナニゲに外側へはねるウェーブがかった茶色の髪から見え隠れする、その端正な甘いフェイス。
且つ、私服も制服もトレンドを押さえながら自分流に着こなすその抜群のセンスは、彼一流のものだ。
でも、彼を好きになったのは、他を寄せ付けないその類い稀なセンス・ルックスに惹かれて、というわけでは無論ない。
彼の纏う「空気」……「オーラ」というようなもの。
外見・内面その両面から滲み出る人間性には、余人とは違う並々ならない「何か」がある。
初対面の時から既にそれは感じていた。
だから、うっかりとあんなにも簡単に、LINEの交換をしてしまったのだと今になって思う。