待ち合わせ
すうっと音もなく、車は静かに停まった。
運転手の告げる料金を払うと、私は車外に降り立った。 目の前のドアボーイが、かしこまって頭を下げる。
私は軽く会釈をすると、そのエントランスへと入っていった。
まず向かった先は、女性専用化粧室のパウダールーム。
鏡の前の円形の椅子に座り、メイクを念入りにチェックする。
いつもは「メイベリン・ニューヨーク」など女子高生御用達ブランドのメイクアップ・アイテムを使っているが、今日は違う。気合いが違う。
ママから借りたおとっときの「エスティー・ローダー」。
ラメが燦めくホワイトゴールドのアイシャドウを、黒のリキッドアイライナーとボリュームアップマスカラでキリリと締め、チークとルージュは華やかなロゼピンクをふんわりのせる。
その仕上がり具合を確かめると、最後に最高級品「ゲラン」のお粉をはたき、透明に近いごく淡いピンク系のグロスで口唇に艶を出した。
そして私は立ち上り、全身用鏡の前にまるでバレエのお稽古場のバーの横に立つかのように、すっと立った。
いっとうお気に入りのブランド「ミルブロウズ」のオフホワイトのミモレ丈フレアーワンピースを身に纏い、首元にはピンクのバロックパールを三連に巻いている。
靴は春物の茶色いショートブーツ。
上から、軽い一枚仕立ての紺色の大人プレッピーな長めのコートを羽織っている。
そしてバッグは、今春らしいフューシャピンクの型押しボストンを手にする。
総仕上げに、これまた大好きなコロン「キャシャレル」の「アナイス・アナイス」を一振りかけた。
メイクも装いも、うん、完璧!
左手のブレスレット・ウオッチを見ると、待ち合わせの時間まで後ゆうに15分はある。
ここは、「クラウン・アソシアプラザホテル」。
たまにママとお茶に来たりする場所だが、今日は特別な意味を持つ場所だ。
やっぱり、先に行って彼を待っていよう。
そう思い立ち、私は待ち合わせのロビーへと向かった。