001年目07月15日 タロとヒメがグルーミングするだけの話
リズに足を揉まれ、お腹を撫でられて満足したので、慣れた匂いのする箱に戻る事にする。横を見ると、同じようにパパに揉まれていたタロも解放されて満足そうな顔をしている。私もパパが良かったけど、今日はタロが頑張っていたから、タロで良いかな。リズも優しくて好き。少しだけもどかしい時もあるけど、柔らかいし。タロがててっと箱に戻ると、先に丸くなってだらしなく口元を緩ませている。そんなところが可愛らしいなと思いながら、横で一緒に丸くなる。
『きょうはたのしかったね』
そっと横で丸くなるタロを覗き込みながら、クルクルと喉を鳴らすようにそっとタロに呟く。
『うん、たのしかったの。やわらかくて、ぬくいのにかこまれて、あそこはすきなの』
タロが緩めた口のまま、きゅんみたいな可愛い声を上げる。本当に初めて会った頃から変わらない。分かれた兄弟姉妹と比べると、少しだけ頼りないのかなとも思ったけどきちんと男の子だし、優しい。お母さんと一緒に獲物を狩っていたお父さんみたいに。それなのに、いつも凄く可愛い。
『なつかしいかんじがするね』
ふわっとお母さんのお腹に皆で眠っていた頃を思い出して、そっとタロの体に近づき、密着させる。身動ぎ一つせず、タロも密着してくる。その温もりにほっとする。
『なつかしいの? んー、おぼえていないの』
タロがちょっとだけ寂しそうな色を加えて、きゅーんみたいな声を喉の奥で鳴らす。その声を聞くと、胸の奥が掴まれたように締め付けられきゅっとなる。
『おぼえていないの?』
『ちょっとだけそういうきはするの。でも、はっきりとおぼえているのはままにだきしめられたことなの。あしがいたかったのをなおしてくれたの』
パパがそんな事を言っていたのを思い出す。パパと話すといつも色々な事を教えてくれる。でも、パパは鳴かないけど、きちんと話せる。あれ? なんでなんだろう。
『おかあさん、おぼえていない?』
少しだけ心の中をよぎる寂寥感。むせかえりそうな乳の匂いに包まれて、優しく抱擁してくれたお母さん。
『はっきりとはおぼえていないの。でも、ぬくかったのはすこしだけおもいだせるの。ままもおなじくらいぬくいの。だから、ままもちいさいのもすきなの』
タロがくんと鳴くと、そっと耳の後ろから首にかけてを舐めてくる。あまり思い出すのは好きじゃないのかな。でも、お母さんに舐められたのを思い出して、これ、好き。体の力が勝手に抜けてくたんと顎から床に落ちる。
『ヒメもすきなの。やさしいの。ぬくいの。それにいいにおいがするの』
優しく舐めながら、吐息に混じらせるようにわふっと囁く。目を瞑り、お母さんを思い出しながら、記憶より小さく優しいタロの舌の動きを感じる。お母さんはもっと豪快な感じだった。あんなに沢山子供がいたら、しょうがないのかな。でも、あれはあれで好きだった。
夢中に舐めてくるタロが、子供の頃お母さんの胸に当てていたように前足を頭にぽふぽふと当ててくる。ふふ、可愛らしいの。そっと体勢をずらして、前足の裏のピンク色をぺろっと舐めてみる。
『ひゃう。くすぐったいの!!』
驚いたかのようにびくっとしながらタロが目を見張り、少しだけ抗議の色を浮かべながらひゃうっと鳴く。その声を聞いた瞬間に、腰の辺りにびくっと何かを感じたが、良く分からなかったので放っておく。今度はこちらの番だと思って、軽くのしかかりながら舐め始める。ぽてんと転がるタロ、凄く可愛い……。
その後はお互いに毛繕いをして、満足した段階でそっと目を閉じる。パパはなんて言ってたかな……。
『タロ、おやすみ』
私がクルっと喉を鳴らすと、タロが顔を上げて頬と喉の下をわたしの耳の辺りに擦り付ける。
『おやすみなの』
包まれるようなタロの匂いを感じながら、安心しながら眠りに落ちる。また、小さいのに会えるかな……。