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001年目04月16日 伝令さんが馬に乗ってノーウェティスカに帰るだけの話

「ふふ。可愛い方でした……。若干自尊心の低さは感じましたが、ノーウェ子爵様の仰る通りの英明で優しい方でしたね……」


 馬の走るに任せて、身を低くしながらラディアが微笑む。


「でも、あのお顔でもノーウェ子爵様と同い年と仰られていましたか……。可愛いと言っては不遜ですか……」


 ふと思い直し、顔を引き締める。長い髪は縛ってマントの内側に仕舞い込む。マントも膨らまないように、前を留めている。


 (しかし……食事の質もそうですが、入浴設備、それに各種遊具ですか……。文明が隔絶しているかのような印象です)


 太陽は昇り切り、馬もやや汗ばんでいる。そろそろ林の切れ目で川が露出している地帯に差し掛かる。


 (ふふ。隔絶と言えば、この街道もそうでしたね。本来ならまだまだ手前の筈ですが、馬が走りやすいのでしょうね)


 馬の首を撫でると、集中して固まっていた体が若干解れる。もう少しで休みだと感じたのか、軽やかな走りに変わる。蹄鉄が軽快に石畳にリズムを刻む。


 (ノーウェ子爵様は持ち帰りたい物は持ち帰りなさいと仰っていましたが、あれはあの場でこそ花開くのでしょう……。殿方の無粋さは御しがたいですね……)


 思い出す度に微笑みが湧き上がってくる。温かい雰囲気。全く新しい未知の数々。それを生み出す魔術のような領主の手腕。


「でも、温泉宿のお土産物屋さんでしたか……。あそこで売っていた宝玉は美しかったですね……。是非、次回の際には買って帰りましょう」


 暫く進むと、林が開け、川が見えてくる。馬を誘導し、川の傍で降りる。ハミを外して、手綱で誘導すると馬は川に前脚を降ろし、首を下げて水を飲み始める。その間に、荷物から飼い葉と飼料の混合品を布袋に適量流し込み、荷物を紐で縛り直す。餌袋を水を飲み終わった馬の口に当てて、頬革に縛る。馬は器用に餌袋の中に舌を伸ばし、餌を食べ始める。

 ラディアが荷物から取り出した布で馬の全身の汗を拭っていく。長距離を走るように調整されていると言っても、手入れをしなければ機嫌も悪くなる。目を細めて、ムシャムシャと音を立てながら餌を食べる。


「あら、貴方も毛並みが良くなって……。余程馬の手入れも良いのですね。騎士団でも結構な上位を譲ったのに加えて、馬丁も良い人を引き抜きましたものね……。ノーウェ子爵様も奢るんですから。殿方の負けず嫌いも、ふふ、可愛いものですね。それだけ子として買ってらっしゃるのでしょうけど……」


 ある程度汗が拭えたら、ブラシでカシカシと毛並みを整えていく。気持ち良いのか、馬の目が益々細くなる。少し物足りないのか、餌袋を結んだまま首をふるふると振る。


「もう……、あまり食べては足りなくなりますよ。まぁ、予定より早いですし、この辺りは食べられる草ですね……。さぁ、少しゆっくりしてらっしゃい」


 餌袋を回収し、手綱を横に縛ると、馬がゆっくりと辺りを見回り、周囲の草を食み始める。


「残さず食べましたか。でも飼料用の豆からあんなに多種多様な料理が生まれるなんて……。これも報告しなければ。それに、出来れば、あの甘い物はまた食べたいですね……」


 穏やかな顔で、マントの内側から携帯食と水を入れた革袋を取り出す。ぼそぼそと味気の無い塩気と甘みの塊を水で流し込むと苦笑が浮かぶ。


 (あぁ、贅沢になりましたね……。あの味が恋しいと思うのは堕落でしょうか……。本当に罪作りですね、男爵様は……)


 体を動かし、強張りを解していく。髪の毛を縛り直し、装備の点検を行う。一式終われば、馬笛を吹く。一休みして穏やかな表情をした馬が駆け寄ってくるのを抱き締めて、全身を掻き抱く。


「さぁ、早く戻って報告です。町開きももうすぐですしね。さて、再会の時は近いですよ、私の子供役さん」


 笑いながら、颯爽と馬に跨り、一路、ノーウェティスカを目指す事となる。


 斥候では抜きん出て実力を持つラディア。その護衛能力と性格を買われて、ノーウェの代理夫人役を配される事となる。

 将来、本当に結婚するかどうかは、ラディアの頑張り次第。さて、どうなる事か。

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