001年目04月11日 清掃作業を言い付けられた侍女がただもふもふするだけの話
扉を叩くが返事の無い事を確認する。
ふぅと気合を入れる溜息を一つ吐き、扉を開ける。手には新しい布と大きめの袋。アンジェは侍女でもまだ入りたての下っ端だ。
部屋の中を覗くと、タロとヒメが箱の中でパタンと伏せている。
扉を開けると、耳が立ち、明らかに扉側に向けられる。
(ふふ。良い子達。きちんと状況は確認しているようね)
命じられた仕事はタロとヒメの箱の清掃作業。元々猟師の娘のアンジェは昔から狼や犬の世話を行っていたので、その辺りはお手の物だ。
アンジェが近付くと、伏せていたタロとヒメが少しだけ頭を上げて顔を向けてくる。視界と匂いで誰かを特定しようとしているのだろう。
『きもちいい、ままなの!!』
タロが少しだけしっぽを振り始める。
『また、なでてくれる』
ヒメも興味深そうに部屋を横切って接近してくるアンジェの姿を追う。
「ほら、二匹共。少しだけ、箱から出てね。お掃除しちゃうから」
アンジェがそう告げると、素直に二匹が箱から出る。何度か清掃はしてもらったし、汚物で濡れた布が綺麗になるので非常に好ましく思っている。
『きれいになるの』
『きもちよくなる』
じっと期待に満ちた二匹の視線を受けながら、アンジェが手早く箱の底のスノコを外し布を内側に包み込み袋に詰める。
(うん。きちんとおしっこはしているし、糞も固いから大丈夫かな。下痢になったら教えて欲しいって領主様は仰っていたけど、報告する事は何も無いか……)
持ってきた新しい布をスノコに巻き、改めて箱の中に敷き直す。
「はい、終わり。戻って良いわよ」
アンジェがそう告げると、二匹が素直に、箱の中に戻り、伏せて寝心地を確かめる。湿った感じもしないので、快適だ。
『いいかんじなの』
『きもちいい』
感謝の気持ちと遊んでほしくて、たっと箱から出て、アンジェの足に体を擦り付ける。キャンとウォフと少し甲高く媚びた感じの鳴き声を上げる。
「あらあら。甘えん坊ね。領主様に沢山遊んでもらっているでしょうに。私も忙しいのよ?」
アンジェは苦笑を浮かべながら、タロとヒメを撫で始める。イヌ科の動物に慣れているので分かるが、自分の舌が届かない場所を少し掻かれる感じで撫でられると、喜ぶ。首筋や、頭から鼻筋にかけて等は特に好感触のポイントだ。
両手で、かしかしと背中の上の方から、首筋にかけて少し強いかなと言う程度で指を立てて掻いていると、二匹のしっぽが大きく振られ始める。
『きもちいいの!!』
『あ……そこ』
舌を出しながら、徐々に体勢が崩れていき、ころんと腹を見せて寝転がる。
「あらあら、本当に甘えたがりね。ほら、まだ仕事が残っているから少しだけね」
アンジェがそう言いながら、腹全体を立てた指でわしゃわしゃと掻き始める。タロとヒメ双方が興奮と快楽に濡れた瞳でアンジェを眺めながら、切なそうに鳴き声を上げる。
『やっぱり、このままなの!!』
『うまい……』
しっぽを振りながら、体をくねらせて、ただただ快楽を貪る二匹。それを優しく見守るアンジェ。
将来、その才能を見出され猟師達に渡す狼を育てるブリーダーとなるアンジェの若き日の一コマだった。