次代の息吹
ロシア帝国 帝都イルクーツク改めノヴォニコラブルグ
「やはり、日本や英国のごとく労働者の環境に法的基準と規制を設けなければなるまいな。ここはやはり先進性では日本に学ぼう。日出ずる帝国と日の沈まぬ帝国の社会体制を学ぶのだ。幸いにしてこのシベリアは、資源に恵まれている。これを採掘できる技術をはぐくみ工業をはぐくむのだ。そして、労働者を富ます。労働者が富めば国が富むと私は考える。」
皇帝宮殿の執務室で、皇帝オリガは真面目な顔で、宰相に告げる。
このオリガの思想は工業方面では既に実践されていた。
現在ロシアは日英の技術協力を受け、陸海空の各軍強化のために、工業力を強化しておりその一環として日本から労働基準法の概念を導入していた。
「陛下、民から陳状が来ております。陛下が、働いているのに臣民たる自分たちが休むわけにはいかないと。」
「そうか。民に十分な休息を取らせるためにも私自身がしっかり休まねばならぬか。日本はどうしておるのか?」
苦笑しつつ問うオリガに対して宰相は、
「あの国は法に異常なまでに忠実に従います。法によって、週何日は原則休みと定められれば、たとえ、皇室が公務をしていても、休みます。ただ、それを我が国の国民性に上手くコミットしていくのは骨が折れます。」
「そうだな。」
笑うオリガの腹の辺りに視線を移す宰相。
「陛下の体は既に陛下だけの物ではありません。時代の帝国をになう方を宿しておられるのです。ご自愛くださいませんと。」
オリガは先年に海軍指導官として来訪した日本の皇族に惚れ、猛烈なアタックの末見事そのハートを射止めゴールインした愛の結晶を宿していた。
後の皇帝ナジェーシダと宰相イジャスラフの双子である。
「お姉様、ご懐妊おめでとうございます。」
英国王太子アレクサンドラが部屋にそーっと入ってきた。
「ああ、今度はエリザベスか。」
「今度は?私の前にも誰か?」
アレクサンドラが首を傾げる様は成人近いにもかかわらず幼いかわいさを醸し出す。
「ああ、義兄殿がな。かつてできなかった日本漫遊に父を誘いに来てくださったついでに顔を出してくださった。私もああいう威厳と慈愛を兼ね備えたしっかりとしつつも柔和な表情ができるようになりたい。」
後に在位65年を迎えた記念式典の席で英国女王となったアレクサンドラは『オリガ陛下はこのとき既に母という最も強い存在としてその表情を会得されていた。私は、国の母として、人の母として子の表情を会得されたオリガ陛下に軽く嫉妬を覚えていた。』と語った。
退位後、オリガはこれに苦笑しつつも日本に移住し父である先帝のように日本漫遊を楽しみ、3度目となる2020年東京五輪を大いに楽しみ、年またぎの某Jから始まる男性芸能事務所の所属芸能人しか出ないテレビ番組に熱狂した後就寝したまま天国に旅立った。
「勝手に殺されても困るな。私はまだ生きている。それと私は1900年の生まれだ。」
めたいのはお好きですか?
「きけよ。」
「お姉様おなかに障りますわ。」
予定日5日前まで公務をしていたというのだから精力的である。
[遅れましたか?]
「何者だ?」
「お姉様、日本と我が国が突出して発展するきっかけとなった、異世界から来られた方です。」
紙おむつやらほ乳瓶やら、粉ミルクやらの他になにやら書類をたっぷり入れた風呂敷包みを持って遥夢が入ってきた。
[シベリアの気候でもしっかりと育つ穀物とかそれとかあれとか、色々盛ってきたので。]
相変わらず、素っ頓狂な科学力である。
[じゃあ、母体に障るといけないので、僕はこれで。あ、これ、男児だったらその子の名をつけてあげてくださいね。]
そう言って手渡されたのは戦艦の諸元などの詳細な資料だった。
戦後、ロシア帝国が送り出した超弩級戦艦イジャスラフ級の原書案だった