雨女とずぶ猫
雨女という言葉ほど、私にとってキライな言葉はない。
うっとうしい程について回るこの言葉、お前ら天気の勉強をしたことがないのかと、一言でバッサリと切り捨てたいほどに、うんざりするほどに、言われ続けてきた。
確かに、雨が降ったことはある、イベント当日に降った事はある。
小学校の入学式は雨だった。
小学校初めての運動会、学芸会、遠足の日に、雨は降った。
小学校2回目、3回目、4回目も5回目も、雨であった。
小学校最後のイベントの卒業式まで、いい加減にしろよと思うほどに雨だった。
誕生日は梅雨時のせいか、いつも雨だ。
生まれた時も、豪雨だったらしい。
たかが、それだけである。
普段の学校の時だって、晴れてる日もあれば、雨の日もある。
それだけで、雨女と決め付け、さも私の所為というのは、やめてほしい。
本当に迷惑だ。
私とは関係なく、平日の夕方に土砂振りになった。
傘もなく、迎えも頼めない私、ぬれるのが嫌ではあるが、帰るのが遅れて、楽しみにしていたアニメを見逃すのも、もっと嫌である。
しかも、肝心の時に予約録画をしていないという、弱り目に祟り目とでもいうのだろうか、そのようなチョンボをしてしまっていた、私は次第に強くなる豪雨の中、家へと走った。
学校帰りのいつもの道路に朝方はなかった、ダンボールが道端に置かれていた。
拾ってくださいと、書かれていたであろう、部分もこの雨で紙がボロボロでほぼ読めない。
そして、ダンボールのふちに足をかけて、白い子猫がこちらを見てきたが、せめて心優しい人に拾われる事を祈る。
そう、思い猫の視線を無視するように横を通過しようとする。
白い猫がニャーとなくと、罪悪感が少しでるが、家で飼ってあげようにも、猫とか犬とか小動物を飼った事のない人間が、無責任にかわいそうだからと、拾って飼って、そして捨ててしまう、安易で、残酷な未来よりは、野良としてたくましく生きた方が、幸せであろう。
ニャー、ニャーと再度鳴きながら、こちらへと向かい歩きはじめた。
しつこいし、どうしようもないと思えば、思うほど追い討ちをかけるように、雨が一層激しくふり、このまま猫にかまっていると、こちらがぬれるばかりか、ぬれている服の重さと、私の体力のなさの影響で、アニメを見逃してしまう。
猫を振り切るように、走るが、猫もまた懸命にこちらを追ってくる。
家へとたどり着き大急ぎでドアを開けると、猫も呼吸を荒げながら、ドアへと滑り込んだ。
猫が喋ったように聞こえたが、とりあえず廊下をべちゃべちゃと水分を含んだ、靴下であがり急ぎ、アニメの録画をする。
一息ついたところで、脱衣所へと向かい、ぬれた制服等をぬぎ、シャワーを浴び、着替えをすませると、猫は玄関にじっと座っていた。
クビ根っこをつかみ、外へと放りだすために猫に近付くと、猫が喋った。
「雨女様、私を助けて欲しいのです」
猫が喋ったと同時に、小さなずぶぬれの女の子へと姿を変えた。
「知ってのとおり、私どもずぶ猫一族は顔を洗う事で、主人の妬みやうらみ、悲しみを雨雲に変えて雨を呼んで、主人を助けていましたが、最近うまくいかないのです、そして捨てられました」
知らない情報ばかりで、展開についていけない私を無視するかのように、話がすすんでいる。
そして捨てられたのは、多分不気味だからとか、変えなくなったとか、飽きたとかいうそういう感情だと思う。
「そこで、雨女様のお力を借して欲しいのです」
執拗にしがみついてきて、折角着替えたのに、更にずぶぬれになってしまう。
「私は雨女じゃないから」
「そんな今までもご自身の苛立ち、嫉妬、憎しみ、悲しみ、憎悪を暗雲と化して、雨を降らせているじゃありませんか」
確かに、両親が私の晴れ舞台にこなかったり、他の子は手作り弁当なのに、私だけコンビニ弁当だったりしたときもあるけど、私はそんなに暗黒的なものじゃないし、その覚えもない。
思い出せば出すほど、両親の無関心さに腹がたち、偶然にも雨が強くなっているような気はしてくる。
ただ、それは偶然にすぎないのだから、しがみつかれても本当に困るだけである。
「その力で、ご主人の悲しみを晴れやかにして欲しいんです」
「雨ふらしたいのか晴らしたいのかどっちかにしてよ」
苛立ちとどうしたら良いのか分からなくなり、泣きたい気分になってくると同時に、外の豪雨がより一層激しくなり始めたが偶然である。
何せ私は雨女じゃないのだから。