表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界無双血風録  作者: 大五郎
第5章 レインディア王国編
9/119

8 襲撃

主人公とはゆっくり静養させてもらえないものです。

「・・・その話し、本当なんだろうな」

髭面の人相の悪い男が確認した。

「ああ、この近くの街にこのレインディアのルシア王女とトーアのライザ王女が僅かな護衛を連れて投宿している。例の魔物討伐のため来訪した勇者に随伴しているそうだ」

「しかし勇者といえば『殺戮の戦鬼』って呼ばれていた一騎当千の化け物だろ。シュルトやトーアの軍勢がそいつ一人に壊滅させられたって噂だ。触らぬ神に祟りなしだぜ」

「『殺戮の戦鬼』と噂ばかりが大袈裟になっているが実際には只の戦奴だった小僧だ。右も左も分からぬ戦場をうろついて運よく一人生き残ってトーアとシュナに祭り上げられたに過ぎん。魔物の討伐自体も真偽は怪しいものだ。多少腕が立つかもしれんが不意をついて何人かでかかれば大丈夫だろう。大盗賊団の首領が怖れる相手じゃない」

対面に立つ男は覆面で顔を隠し正体を見せない。

しかし前金として渡された金貨の袋は本物だ。

盗賊団の首領は金貨さえ本物なら相手の正体はどうでもよかった。

「依頼内容は勇者と呼ばれる小僧を殺し二人の王女を拉致してこちらに引き渡すことだ。拉致が無理なら殺しても構わん」

「しかし街を襲うんだろ。警備兵だってそれなりにいる。この程度の金じゃ割が合わないぜ」

「この辺りの騎士は例の魔物騒ぎで数を減らしている。お前達もここらが手薄になったので南方から移動してきたのだろう。平民出の警備兵ばかりならどうってことはあるまい」

「でもなぁ」

「・・・分かった。後金はこの二倍出そう」

「話しが早くて助かるぜ」

盗賊団の首領は立ち上がり腹心の部下達を叱咤した。

「オイ!野郎ども!久しぶりの大仕事だ!夜が明ける前に街を襲うぜ!下っ端達を寝床から引っ張りだせ!近所の村から攫ってきた娘どもは始末しとけ!街で新しいのを仕入れればいい!」

盗賊達は手早く襲撃の準備を始める。

アジトのあちらこちらで女の断末魔の悲鳴が上がりゾロゾロと手下達が集合してくる。

「野郎ども、行くぜ!」

全員が武具を整え騎乗するのを確認すると盗賊団の首領は自分の馬を雪の降り積もった雪原に駆け出させた。

手下達もその後に続く。

「健闘を祈るよ」

覆面の男はそれを見送りながら呟いた。



「盗賊だ!盗賊の襲撃だ!」

半鐘が鳴り響き警備兵らしき男の声が外から聞こえた。

俺は素早く皮鎧を着け剣を取る。

結局鎧は戦奴時代とそう変わらず防御力より動き重視の皮鎧を使っている。

剣も頑丈さだけが取り柄の只の鉄剣だ。

入浴後豪勢な食事を取って就寝したのがついさっき。

はっきり言って寝不足である。

軽い凍傷は温泉と治癒魔法で完治しているが二、三日はゆっくり静養したかったところだ。

部屋を出ると隣りのライザ王女の部屋の前の夜番の護衛騎士の周りに就寝していた他の騎士達が起き出し集まっていた。

ライザ王女の方は支度に時間が掛かっているようだ。

シオンは俺の反対側の部屋から浴衣姿で出てくる。

着崩れていて色っぽいがライザ王女みたいに支度に時間を掛けろとは言わないがもう少し身嗜みを整えてから出てくるべきだ。

「ユウキ様!」

騎士姿のルシア王女が護衛騎士三名を連れて駆け寄ってくる。

「何があったか分かるか?」

俺はルシア王女に声を掛けた。

「私も今起きたばかりで分かりません。只この辺りで魔物被害に便乗した盗賊達による被害が増えているとの話しを聞いております。今まで街を襲ったという話しは聞いておりませんでしたがおそらくその者達の襲撃でしょう」

「分かった、表門までついて来てくれ。警備を指揮している騎士に顔繋ぎを頼みたい」

そしてシオンの方に向いた。

「シオンはついて来なくいいからライザについていろ。服装は・・・・、そうだな、いつもの魔導師姿じゃなくライザの予備のドレスを貸してもらえ」

「構わないが胸のサイズが合わんよ」

「そのぐらい侍女のアンナに頼め。何とかするだろ」

俺はルシア達を連れて宿を出た。

暫く走っていくと閉じられた表門の大扉周辺の外壁の上で防戦している警備兵達の姿が見えた。

内から階段を登り指揮を取っている老騎士のところに向かう。

若い騎士は魔物討伐失敗で戦死してしまい残っていないのだろう。

盗賊と警備兵は双方弓矢でやりやっていた。

盗賊の一部が縄をかぎ爪で引っかけて登ってこようとするのを警備兵が走り回って防いでいるが飛んでくる矢が多く警備兵の腰が引けているようだ。

「状況はどうなっています!」

ルシア王女が老騎士に声を掛けた。

「こ、これは姫様。ここは危のうございます。御下がりください」

「構いません。警備の者が命掛けで戦っているのです。上に立つ者がこのぐらいの危険を冒すのは当然でしょう!」

わざと警備兵達に聞こえるように話す。

その声に鼓舞された警備兵達の腰の引けた動きが良くなった。

策士だ。

俺は少し関心した。

「それで状況は?」

「は、はい、盗賊の数は五百人程。こちらは警備兵が五十名程です。平民出ばかりで戦い慣れていない者ばかりなので持ち堪えられるかどうか。出来れば姫様には逃げていただきたいのですが・・・」

「出来る訳ないでしょう」

そして俺の方に振り返った。

「お頼み出来ますか?」

「こ、こちらは?」

「勇者様です」

やっぱりこの手の説明はいつ聞いても恥ずかしい。

「盗賊は皆殺しでいいな」

俺は気を取り直して言った。

相手が格下だろうが油断すれば死ぬ。

このところ魔物と戦ってばかりいたので久しぶりの人間同士の殺し合いは気合いを入れ直す必要があるだろう。

俺は風魔法で飛んでくる矢を跳ね除けながら盗賊の中に飛び降りていった。



「なんとか収まったな」

ドレスの胸の辺りを引っ張りながらシオンが呟いた。

ライザ王女は傷ついた表情で『戦力差は分かっていたはずなのに・・・』とかなんとかぶつぶつ言っている。

着付け協力した侍女のアンナはその様子を困ったように見ていた。

ガシャン!!

突然窓ガラスが割れ数人の男達が部屋の中に飛び込んできた。

「ライザ姫!何があったのですか!開けてください!」

護衛騎士の声にアンナが鍵を開けるために扉に駆け寄ろうとするが男の一人に飛びつかれ動きを封じられる。

「へへへッ、大人しくしていれば命までは取らないさ」

盗賊の別働隊が表門の騒ぎに乗じて静かに街に忍び込んでいたのだ。

「ライザ王女とルシア王女だな。思っていた以上に上玉だ。後でたっぷり可愛がってやるからな」

シオンとルシア王女を誤認しているようだ。

普通王女といえばこういった時には護衛に囲まれて厳重に守られるものでそれを目安にしてここまで辿りついたのだから勘違いするのも仕方がないところだ。

盗賊達が情欲に漲らせた目をしてにじり寄ってくる。

「ヒッ!」

ライザ王女は壁の方に後退さった。

その前にシオンが守るように立つ。

「屋根から縄を垂らして乗り込んできたのか。ご苦労なことだねぇ」

シオンはにこやかに笑った。



俺は周囲の盗賊達の間を縦横無尽に疾駆する。

その度に首が飛び胴体が裂け内臓が飛び散り血しぶきが上がる。

既に盗賊の半数は血の海に沈んだ。

俺にとっては盗賊の動きなど止まっているように見えるが丁寧に太刀筋を避けながら一人ずつ確実に仕留めていく。

「お、お前ら、だらしねぇーぞ!たった一人になに手こずっているんだ」

盗賊団の首領らしき男が声を上げるが手下達は俺の動きを捉えることも出来ず屍を晒していった。

やがて盗賊団の残りが一割を切った。

「ば、化け物だ!」

残った盗賊達は恐怖に駆られ馬に乗って散り散りに逃げ始める。

「遅い」

火裂弾(ファイヤーバースト )

巨大な火球を生み出し上空に撃ち出す。

逃げ惑っている盗賊達の頭上で火球が弾け無数の火炎弾を周辺にばら撒く。

火達磨になった盗賊達が馬から転げ落ちのたうち回る。

俺は一人ずつ止めを差していった。

最後に盗賊団の首領の番になった。

「て、テメェー、悪魔だ」

「いや只の人間さ」

俺は構わず剣を振り下ろそうとした。

「ま、待て、王女達がどうなってもいいのか」

俺は髪一重で剣を止めた。

「ヘ、ヘヘヘッ、今頃別働隊が王女達を押さえている。俺を助けてくれれば返してやるぜ」

「そうか」

俺は盗賊団の首領の右腕を刎ねた。

「ギャー!!」

盗賊団の首領は転げ回った。

俺はその胸を足で押さえつけ固定した。

「王女達がこの街に滞在していることを誰から聞いた?」

「お、王女達の身がどうなってもいいのか!」

「気にしない。さっさと俺の問いに答えろ。それとも次は左腕を刎ねようか」

「わ、分かった。その替わり命だけは助けてくれ」

「考慮しよう」

「覆面を被った男だ」

「何か特徴は?」

「シュルト訛りがあった。そのぐらいだ」

「そうか」

「なあ、教えたんだ。助けてくれ」

俺は盗賊団の首領の上から足を退けた。

盗賊団の首領はなんとか立ち上がると背を向けて逃げていく。

「一応考慮してみたが命を助ける必要はないと結論が出た」

俺は近くに落ちていた剣を拾って投擲した。

剣は盗賊団の首領を背中から正確に心臓を刺し貫いた。

盗賊団の首領は転がりピクリとも動かなくなった。

血と贓物に塗れた戦場を見回した。

ふと明け始めた空を見ると粉雪が舞い降り始めていた。

醜悪な行為の結果も雪に覆われれば少しはマシになるのかな。

俺はぼんやりと考えていた。



後始末を老騎士と警備兵達に任せて宿に戻った。

彼らは目の前で殺戮を繰り広げた俺に怖れを抱いているようだが口に出しては何も言わなかった。

ルシア王女達はこの街の代官のところに事後処理の打ち合わせに向かった。

扉が開いたままのライザ王女の部屋を覗くと窓が破られており気絶して縛られている盗賊達の姿があった。

護衛騎士達はシオンの部屋の前に立っている。

そちらに通されて入ると広いベッドの上にライザ王女と侍女のアンナが寝かされておりシオンが椅子に掛けていた。

「何があった?」

「いやー、賊が窓を壊して侵入して来たんでね。弱雷撃の魔法で纏めて倒したら姫さん達まで巻き込まれてしまった」

「お前の魔力制御力なら対象を絞るのも簡単だろうに」

「ハハハッ、細かい操作より発動の速さを優先した結果だ。近距離戦は魔導師とは相性が悪いんだよ」

悪びれなくシオンが言った。

目を覚ましたライザ王女がシオンに喰ってかかるのは目に見えている。

シオンに護衛を頼んだ手前俺も見て見ぬ振りは出来なさそうだ。

結局ゆっくりと静養させてもらえないのか。

俺は溜息をついた。

この後せっかく凍傷は治ったのに今度はしもやけに苦しむことに(笑)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ