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異世界無双血風録  作者: 大五郎
第18章 帰還編
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79 終焉の先 Ⅳ

やっと主人公の出番です。

「よう、頑張ったな」

竜の鎧(ドラグーン・アーマー)改から降り立った勇気がトランに声を掛けた。

加奈も地上に降り立ち軽く挨拶をして傷付き疲弊している避難民達に治癒魔法を掛けつつ水や手持ちの保存食を配っていた。

「いえ、勇者様の助けがなければ皆死んでいました。感謝致します」

トランは緊張した面持ちで言葉を返した。

「いいや、そっちの頑張りの結果さ。その浮かない顏を見るに俺の立場は分かっているんだろ?本来手出しせず成り行きに任せるのが俺の基本方針だ。異変に気付き確認のため急いで地上に降りてきた途端、まさか天使が兎人を命賭けで助けようとするなんて珍しいものを見るとは思ってもみなかった。千年前にはとても考えられなかった事だ。お陰で驚きのあまり思わず手が出てしまった。まああれだけ漢気を見せられたら見捨てる事も出来なかったんだけどな」

「ハァ」

あっけらかんとした勇気のもの言いに毒気を抜かれたトランは対応に困っていた。

白竜族の恩師から勇者とは一部の例外を除き現在この世界に生きている種族の味方ではないと聞かされていた。

今はまだ原始状態から抜け出せないでいる人類が百万年後にこの世界の支配者となり勇者を召喚しそれを更に千年前の白竜族がこの過去世に召喚した。

勇者が百万年後の未来に戻るにはその時代には存在していない人類以外の種族は邪魔物にしか過ぎない。

千年前の大戦では勇者が来た未来にこの世界の未来を繋げる必要があったから協力もしてくれたが今となっては自分達を滅ぼす脅威に過ぎなかった。

とはいえ百万年の刻は長寿な白竜族にとっても永い。

千年前には勇者は自ら手を下さずとも百万年もあれば自然に滅ぶ可能性が高いとして結論を先送りにした。

ただしこの世界の種族が巨竜族や巨神族のように傲慢になり暴走した場合は滅ぼすと警告して。

白竜族側としては百万年後の人類の存在も勇者を召喚し白竜族の滅亡の運命から助けてもらった一連の因果に含まれるため原始状態の人類に手を出したり百万年後の未来における人類の繁栄を妨害するような事は危険過ぎて出来なかった。

勇者の推論通り世界が多次元宇宙論的に分岐してくれればいいがもしそうではなく勇者によって助けられた一連の歴史がなかった事になり巻き戻し的な帳尻合わせが起きれば白竜族は千年前に滅びた事になって今の自分達が消え去ってしまう事になるかもしれないのだ。

白竜族も因果律に引っ掛かる方向でのアプローチは諦めているとの事であった。

そんな訳で目の前の相手への対応を誤り下手に怒らせれば全て滅ぼされかねず気を抜く訳にはいかなかった。

しかし聞いていた話しから想像していた触れば切れそうな鋭い人物像と違いやたらフレンドリーに接してくるので戸惑っていたのだ。

「それに原形質の化け物に人類の原種を食い殺される訳にもいかない。放っとくと白竜族を含む地上全ての生物が食い尽くされかねないからな」

「ちょっと待って下さい。あの怪物は我々にとって敵わない致命的な敵ではありましたが白竜族が全力を上げればあの程度倒せないはずはないでしょう」

「あの程度ならな。静止衛星軌道上でしかも時間遅延まで掛けている俺が異変に気付いたんだ。あの程度のはずがないだろう。天使達が白竜族の傘下に入って三百年、どうなる事かと時間遅延を緩めて監視していたが特に問題となる動きもなかったんで一気に数百年単位で進めようとした矢先いきなり辺境の大小の都市が上空から見える範囲で百以上あれに呑み込まれた。こちらの実時間で一週間ぐらいの短い間にだ。他の都市の情報は掴んでいないようだが一体何があった?」

「そんな・・・、僕達も隣街で三日前にいきなり地下道から現れたあの怪物に襲われただけでそれ以上の事は・・・」

「予兆や他の街からの警報はなかったのか?」

「予兆は何日か前から行方不明者が出ていました。今思えば怪物の餌食となっていたのでしょう。他の街からの警報はなかったと思います。ただ私は小さな職場を任されていただけで街の運営には関わっていなかったので正確には分かりません」

「辺境では数少ない天使、いや今は天人か、をそんな仕事に回しているのか?」

「私ははぐれ者なので・・・」

「そうか」

自嘲的に苦笑するトランに何となく事情を察した勇気が頷いた。

「しかしそういう事なら辻褄が合うか・・・、まあいい。一旦手をつけた以上さっさと蹴りをつけるか。加奈もそれでいいか?」

勇気は独り言を呟き何かを納得した後加奈に確認を入れた。

避難民の治癒を続けていた加奈は無言のままコクンと頷いた。

千年前と違い彼らを助ければ彼女が沙耶香から遠ざかる事になるかもしれないのだ。

然りとて勇気と同じく見殺しにも出来ないので受動的賛成といったところであった。

「悪い。後先になったが名前を聞いておこうか」

「トランと申します。勇者様」

「俺の事は勇気でいい。それよりトランに頼みたい事がある」

「はい、なんでしょう」

「まずは背中の傷を見せてくれ」

「はい?」

トランは勇気の意図を分かりかねたが背中を見せた。

片翼が根元近くで切り取られ傷口が焼き焦げていた。

街で生き残っていた住人を救出した際怪物に片翼を絡みつかれて自ら切り落とした傷であった。

「かなり痛むが我慢してくれよ」

勇気は左手でトランの肩を掴むとナイフを取りだしいきなり傷の炭化した部分を削ぎ落とした。

「ガハッ!!な、なにを・・・」

傷口から血が溢れ出てトランは苦痛に呻いた。

しかし勇気の強い力でがっしりと掴まれ肩を固定されているため動く事すらままならない。

周囲で加奈の手当てを受けつつ勇気とトランのやり取りを興味津々に見守っていた避難民達も驚きの悲鳴を上げた。

加奈の方は平然としている。

「トランさんになんて事を!勇者様、止めてください!」

セラが必死に勇気のナイフを持った右腕に抱きついた。

「ほんと千年前には考えられない事だ。兎人が天使のために強大な力を持つ相手に歯向かうとは。吊り橋効果もあるんだろうが下地となる価値観そのものが変わってきているんだろうな」

勇気はやっている事のどぎつさに似合わない優しい目を一瞬した後抱きついているセラに構わずナイフをしまい空いた右手を血が溢れ出ている翼の根元に当てた。

勇気の右手が淡い魔力光を発すると噴き出していた血があっという間に止まりその代わりに光輝く糸のようなものが伸び広がっていく。

そしてそれは光翼を形成して光は薄れていき同時に実体を持った白い翼に変わっていった。

「こ、これは・・・」

トランが失われていた翼が戻ってきた事に驚愕した。

セラも勇気の腕にしがみついたままポカーンとした顏をしている。

「再生じゃなく復元だ。魂に刻み込まれている肉体の情報から翼を失う寸前の状態で復活させた。再生と違ってて馴染んでいるからリハビリなしで直ぐに使えるだろう。ついでに失った血も復元しストレスによる神経系の障害も癒し魔力も圧縮して譲渡しておいた。これで普段以上に動けるはずだ」

勇気は肩を離し翼の状態を確認した後トランに向き直った。

「さて本題だ。トランにはこれから中央の白竜族の元に行って現状を伝えてきてほしい。その際決して天使、いや天人を通さず必ず直接白竜族に伝えてくれ」

「それは・・・」

そういう(・・・・)可能性があるだけだ。そうだ。これも渡しておこう」

勇気はトランの額に人指し指を当てた。

指先が光りトランの額に吸い込まれていった。

「これは古の大天使や巨神が使ったという絶対防御!天人の僕にこんなものを与えてよろしいのですか?」

「構わない。どうせ使えるのは圧縮した魔力がある間だけだ。魔力圧縮は俺以外再現出来ないから問題ない。上手く使ってくれ」

「・・・分かりました。ユウキ様達はどうなされるのです?」

「俺達は竜の鎧(ドラグーン・アーマー)改であの怪物の掃討に当たる。避難民達は悪いが俺達の非常食を分けてやるから中央方向にある近くの街を自力で目指してくれ。その方向は今のところ無事だしこの一帯にいたヤツラは全て掃討したから安全だ。俺達は他の襲われた街でまだ生き残りが未だ逃げ続けているかもしれないから今はヤツラの掃討を優先する」

それだけ伝えると勇気は非常食を配り加奈を連れさっさと竜の鎧(ドラグーン・アーマー)改で飛び立っていった。

「あれが勇者か・・・」

トランはそれを見送った後、セラ達に暫しの別れを告げ中央の白竜族の元を目指して旅だった。

彼の苦難の旅は未だ続く。



続きます。

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