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異世界無双血風録  作者: 大五郎
第18章 帰還編
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78 終焉の先 Ⅲ

お約束です。

「死にたくなければとにかく走れ!逃げ道が塞がれる前に奴らの間を抜けるんだ!」

トランが仲間の避難民達を叱咤激励する。

丘陵の後ろから迫ってきていた怪物は間近まで迫っていた。

前方の街に巣食う怪物と挟み撃ちにされないためには横に逃げるしかないが追ってきた怪物は横にも広がっているため逃げ道は今にも閉ざされそうであった。

しかし疲労困憊状態でなんとかここまで辿り着き僅かに抱いていた希望が消え絶望に叩き落とされた避難民達の足は重くこのままでは逃げ切れそうになかった。

「クッ、やむを得ない。セラ、君は先に行ってくれ」

トランは掴まっていたセラの手を離し立ち止まった。

「トランさん?」

「僕がここで時間を稼ぐ。君達はその間に少しでも遠くに逃げてくれ!」

「そんな!トランさん、止めて下さい!今度こそ死んでしまいます!」

セラは必死にトランを引っ張っていこうとした。

しかしトランは首を振るとセラの手を振りほどいた。

「今ここで僕が足止めをしなければ皆死ぬだけだ。なら僕は自分が為すべき事をするだけさ」

「そんな・・・、嫌です!トランさんが一緒でないと・・・」

「頼むよ。僕に意地を通させてくれ。君が逃げてくれないと意地の張り甲斐がない」

「トランさん・・・」

目に涙を溢れさせながらセラは踵を返して走り始めた。

トランの話しを聞いていた他の避難民達も懸命に最後の力を振り絞って歩みを早めていった。

「そう、それでいい」

トランは避難民の逃げ道を塞ぐように横に広がっていく怪物の先端目掛けて残った魔力を振り絞って火弾(ファイヤーボール)を叩き込んでいく。

威力は高いが攻撃範囲が小さい光槍(ライトジャベリン)より攻撃範囲の広い火弾(ファイヤーボール)の方が有効だった。

直撃を受けた部分が焼き焦げその周辺の動きが鈍くなっていく。

何とか逃げ道が閉じきるまでに突破出来そうであった。

精根使い果たしたトランは片膝をつき自分に迫りくる怪物を冷静に見ていた。

全ての力を出し尽くし抵抗する術もない。

セラ達が逃げ延びてくれる事祈りながら最後の瞬間を待ち受ける。

しかし逃げている避難民達から悲痛の声が上がった。

そちらに目をやると今まで動きのなかった前方の街に巣食っていた怪物が動き出していた。

開いていた逃げ道を反対側から塞いでいく。

前後の怪物は合流して融合し完全に道が閉ざされた。

周囲を完全に取り囲んだ怪物がトランとセラ達避難民を一気に呑み込まんと津波のように殺到してきた。

「誰か、いや何でもいい。皆を助けてくれ!」

トランが叫んだ。

ドコーン!!

全てが呑み込まれる寸前激しい閃光と爆発が周囲を包み込んだ。

そしてトラン達は奇蹟を見る事になる。

爆発による粉塵が晴れ視界が戻ってくると光の膜に包まれたトラン達以外そこには何もなくなっていた。

地を埋め尽くさんばかりの脈打つ半透明のピンク色の怪物の姿はきれいさっぱりなくなっていた。

見渡す限りの大地には怪物の姿はなく焼け焦げた地肌を晒すのみだった。

突然トラン達の頭上の日の光が陰った。

見上げたそこには黒い龍鱗を纏った一体の巨大な竜人が宙に浮かんでいた。。

竜に似た顎が突き出た頭部にがっしりとした人型の胴体。

それは従属種族の中では伝説として長寿な白竜族にとっては大戦の生々しい記憶と共に語られる存在そのものの姿であった。

「巨大な黒き竜人?」

トランは死地を脱した喜びより頭上に突如現れた竜人の存在に呆然としていた。

「勇者様だ!勇者様が助けてくれたんだ!」

セラを含む避難民の中の兎人達がその竜人を見上げながら無邪気に歓喜の声を上げていた。

千年前の大戦より兎人達に語り継がれてきた勇者の伝説。

全滅寸前だった兎人の窮地を救い滅びの運命にあった白竜族を助けた英雄譚は千年経っても兎人にとって畏敬と崇拝を込めて伝えられてきた。

もっとも寝物語としても伝えられてきたそれは兎人の共同体に美化・脚色されていき実像とはかなり離れているといえた。

それ故にこそ窮地にあって救いがもたらされその場に物語の通りの巨大な黒き竜人の姿が現れれば救いをもたらした者と判断しそれ即ち勇者であるとなるのであった。

しかし大戦を生き抜いた白竜族の恩師から実際の勇者の有り様を聞いているトランとしてはとても気を許せる相手ではなかった。

黒き竜人はゆっくりと頭上から降りてきた。

丘陵の頂に降り立ち両胸の龍鱗が左右に開いていく。

中には座席が二つあり彼らが乗る竜人と同じ黒い龍鱗の鎧を纏った一人の若い男と軽装の革鎧を纏った少女の姿があった。

「おーい、大丈夫か?」

若い男は身を乗り出し暢気に声を掛けてきた。

見た目はトランより若く黒髪に黒い瞳で頭部は天人族とそう変わらなかった。

顏は惚けた表情を浮かべていたがその双眸は鋭く全てのを見透かしているかのようだった。

「黒き龍鱗の鎧、やっぱり勇者様だ!」

「勇者様、ありがとうございます」

「感謝します」

「これで助かった。勇者様ありがとう」

その姿を見た避難民達が口々に感謝と安堵の声を上げていく。

兎人以外に数人いる他の獣人達も同様の声を漏らしていた。

兎人程ではないが彼らにも勇者の伝承が残っていたのでそれほど違和感はなかったのだ。

ただトランのみが難しい顏をしてそれを見ていた。








続きます。

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