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異世界無双血風録  作者: 大五郎
第18章 帰還編
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77 終焉の先 Ⅱ

ひと昔前なら人喰いアメーバの恐怖で通じていたのですが今では巨大スライムでないと通じない悲しさ。

街から助け出せたのは十人の幼生体を含む三十人ばかりの獣人達だけであった。

数人いたはずの天人達の姿もトラン以外にはなく恐らくは家屋内にいるところをいきなり襲われてロクな抵抗も出来ず犠牲になったのではないかと思われた。

トランも街の獣人達の救出中怪物に絡みつかれて片翼を失い飛行能力を失っていた。

今はセラに支えられ助け出した街の住民達と共に近くの街に向けて逃避行を続けていた。

地下道から溢れ出て街を襲った怪物は町中を覆い尽くし全ての生き物を喰らった後生き残りの住民も餌食にしようと追ってきていた。

蠢く半透明のピンク色の粘体が地に大きく広がり流動しながら追ってくる様相はさながら悪夢の中の光景であった。

不幸中の幸いでその怪物の移動速度は彼らの移動速度よりは遅かったため当面は追い付かれそうにはなかった。

だが疲れを知らなそうな怪物を引き離せない限り休息を必要とする彼らはいずれ捕捉される事になるため彼らは必死に逃避行を続けていた。

もっとも近くの街に辿り着けたとしても怪物を殲滅出来る有効な攻撃手段がなければ滅ぼされた街の二の舞になるだけなのでそれほど見通しがいい訳でもなかったのだが。

怪物にトランの攻撃魔法も通用しない訳ではなかったが一つの街を完全に包み込む怪物の無尽蔵と思える膨大な量の前ではほんの僅かな一部を滅ぼすだけで魔力切れを起こしてしまうため例え千人の天人で攻撃したとしても殲滅出来るとは思えなかった。

唯一の希望は白竜族の膨大な魔力による攻撃魔法で一気に討ち滅ぼしてもらう事だ。

目指す街から通信用魔道具で要請を行い直ぐに白竜族が動いてくれたとしても中央にいる彼らが辺境のこの地まで来るのには数日掛かるし直ぐ様動いてくれるかどうかも分からない。

あんな怪物が長期間辺境中を荒らし回ればどれだけの被害が出るか分からず第一怪物に追われ続けている彼らもいずれ力尽き犠牲となってしまうだろう。

しかしここで立ち止まれば確実な死しかなく彼らは先に進むしかなかったのである。



二昼夜殆ど休息を取らず歩き続けて目指す街に近付いていた。

体力のない幼生体を大人が抱え疲労困憊しながらも彼らは歩き続けていた。

疲労で歩みの鈍った彼らの後方には徐々に距離を詰めてくる怪物の姿が見えていたがこのままのペースで進めば追い付かれる前に街へ辿り着けるはずである。

目指す街の規模は逃げ出してきた街の数十倍の規模で千人以上の天人もいるし街の住民達も協力して防衛に当たればある程度までは怪物を押し止める事が出来るはずであった。

あわよく撃退出来ればもっといいだろうが少なくとも休息を取る事ぐらいは出来るはずである。

この丘陵を登り詰めれば街が見えてくるはずである。

彼らは疲労と続いていた坂で重くなった足が見えてきた希望の光りで少し軽くなったように感じていた。

「どうしてトランさんは私達を見捨てて逃げなかったんですか?あの時皆を助けに戻らず直ぐに逃げ出していれば片翼を失う事もなく簡単に飛んで逃げれたでしょう?」

希望が見え少し気が緩んだのか今まで逃避行に懸命で聞き逃していた事をセラは聞いてきた。

「僕はね、高い能力がある者はその分大きな果たすべき責任があると思っている。あの場で街の住民を少しでも助けられる者は僕しかいなかったしそれで片翼を失っても後悔はしない」

「立派なんですね。だから仕事でも私達の能力を精一杯発揮させるために酷使していたんですね」

「いや、それは僕の趣味」

「・・・」

「コホン、とにかくそう思うようになったのは僕の出自のせいだ」

「出自?」

「ああ、前に自分は蝙蝠だって言ったろう。千年前天使と呼ばれていた天人達は神族側の中位種族として竜族と戦った。大戦前天使達は戦力増強のためと称して神族の従属種族との間に多くの子を為した。元々天使と神族系の獣人族との間には子を為す事が可能で産まれた子は全て天使として産まれてきていた。そして大戦に破れ地に潜み孤立している間に他種族と子を為しす事もなくなっていた。三百年前潜伏を止め白竜族の傘下に入った時には既に他種族と子を為す事は禁忌としていた。しかし時に禁忌を破り他種族との間に子を為す者もいた。そうして産まれた者は同じ天人族でも混じりものと蔑まれ能力の高低に関係なく天人族の共同体から排斥されてしまうのさ。僕もその一人だ」

「そんな・・・」

「勝手なものだろ?千年前には平然と行っていた事を今となって禁忌として排斥するなんてね。そして見た目は天人である僕は他の獣人族の共同体からも受け入れられなかった。僕はどっちつかずの存在だったんだ。ただこの社会では出自に関係なく特に優秀な子供は選抜され白竜族に教えを受ける事が出来る。僕も子供の頃は中々優秀でそれに選ばれたんだ。白竜族の恩師から様々な知識や思想を学んだものさ。とはいえそこで学ぶ多くの者は天人族で嫌がらせも受けたがね。学舎から出て中央で仕事を求めたんだが普通の天人ですら就ける仕事もなく巡りめぐってこの辺境まで流れてきたのさ」

「見掛けによらず苦労されていたんですね」

「見掛けは余計だ。まあとにかく白竜族の教えのお陰で天人族としてじゃなく己として誇りを持ちたいのなら他人を蔑み引きずり降ろすような恥ずべき行いをせず己の能力を使って責任を果たすことで誇りとすべきと思うようになった。だからあの時の僕には逃げる選択肢なんてなかった」

「そうだったんですか・・・」

「だから僕が自分自身で選んだ事を気にする必要はない。片翼を失ったのも仕方なかった事だ・・・」

「トランさん?」

セラはトランの言葉が途絶えるように消えた事に不振に思い問い返した。

しかし前方を凝視するトランの言葉はない。

後少しで丘陵の頂に達するところであった。

そして長身のトランがいち早く捉えていた光景を彼女も回りの者達も見た。

「あああッ・・・」

周囲のものから悲痛な声が漏れた。

ガックリ膝をつく者もいる。

丘陵の下、眼下に広がっている街はすっぽりと半透明のピンク色の脈打つ粘体に覆われていた。

絶望にうちひしがれる彼らの後ろには最後の悪夢が迫りつつあった。






続きます。

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