小話34 ツォウリの願い
小休止です。
終わりは唐突に来ました。
来るべき戦いにおいて兎人の一族全てが先鋒に加わるよう命が下され長老達が再考を請願に向かったという話しは聞いていました。
これ迄の兎人の故事を伝える伝承の中でも難題を下され幾度となく請願は出されたとの事ですが一度たりとも認められる事はなく逆に手酷い懲罰を受けるだけだったと伝えられていました。
でも大神様に仕える従属種族の内でも戦闘能力が最弱である私達の一族では戦場で生き延びられる可能性はなく参戦は一族の滅亡を意味していたため請願せずにはいられなかったのです。
大多数の者は諦めており請願は認められず懲罰を受けた後戦場に送られ一族全てが死に絶えるでろうと思っていました。
私もその一人でしたが現実は私達の予想を遥かに上回っていました。
長老達が請願に向かって三日後集落は御使いによって焼き討ちされました。
空から降り注ぐ光槍が集落を焼き仲間達を黒焦げにして殺していきました。
私達は逃げ惑うしかなくいつしか一緒にいるのが若年組の私を入れて十人だけになっていました。
比較的冷静だった年長組に幼子達を連れて逃げるから先に行けいう指示に従った結果でもありました。
混乱の最中でもあり幼子を連れた年長組が上手く逃げ延びたかどうかは分かりません。
でも私達は彼等も私達のように生き延びていてくれるように願うしかありませんでした。
逃避行の途中、大神様に仕える従属種族全てに参戦の命令が下り逆らった一族は悉く同様に討ち滅ぼされ僅かな生き残りが竜族の領域に逃げ込んでいるという話しを同じように逃避行している他族の者から聞きました。
竜族の中でも高度な知性を有するといわれる白竜族が敵対関係のあるなしを問わず他種族を受け入れているとの事でした。
大神様の領域では大人しく参戦命令に従った従属種族からも追われ行き場のなかった私達はその僅かな希望に縋り白竜族の領域を目指しました。
先に話しを聞いた他族の者達とは逃避行中にはぐれてしまいましたが方向と大体の距離は聞いていましたのでなんとか進む事が出来ました。
しかし大神様のテリトリーから後少しで抜けられるところで御使いの一団に捕捉されてしまいました。
ジャングルの木々を遮蔽物に使ってなんとか御使いの放つ光槍をかわしていましたがやがて一本の光槍が私の傍を掠め転倒してしまいました。
転げた拍子に足を捻挫してしまい上手く立ち上がれなくなった私は迫り来る次の光槍に死を覚悟しました。
しかしそこにユウキ様が現れたのです。
ユウキ様は圧倒的な御力で御使い様達を蹴散らすと生き残った御使いに魔法を掛け解き放ちました。
頭の中を弄ったという話しは恐ろしかったのですが竜の眷族様と思い込んだ私はこの方にお縋りするしかないと思いました。
僕としてお仕えさせてほしいとお願いしたのですがユウキ様は頑としてお認めにはならずその代わり白竜族の元まで護衛してくれる事、僕として受け入れられるよう交渉してくれると仰ってくださいました。
お優しい方だと思いました。
これまで私達は御使いに逆らう事も口答えする事も許されずどんな理不尽でもはいと肯定し従うしかありませんでした。
それなのにユウキ様は私達を思んばかって一時的とはいえ庇護をお与えくだされ更には白竜族に私達を受け入れるよう交渉してくれる事をお約束してくださったのですから。
私はいつしか自らユウキ様の僕になりたいと望むようになりました。
私達兎人は御使いなどの中位種族に僕として懸命にお仕えしますがそれはそのようにするのが兎人の存在理由と教えられてきたからであって自ら望んだ事ではありませんでした。
でも私はユウキ様には心の底からお仕えしたいと思ったのです。
白竜王様にお会いしてユウキ様が竜の眷族様ではないと知りましたがもはやそんな事はどうでもよくなっていまいた。
その場でユウキ様に抱きつかれたカナ様と仰る同族の女性はユウキ様の番なのでしょうか。
何故か抱き合う御二人の姿を見ていると心の中がモヤモヤしていました。
ユウキ様は存亡の危機にある白竜族をその強大な御力によって救うという契約をされそのための代償としてつけた幾つかの条件の内の一つに私達を白竜族の庇護下に置いてもらう事を入れてくださいました。
ユウキ様の御力を以てしても困難と思われる契約の代償の一つに私達のような従属種族との約束を守る事に使って頂いた事に私達は又感動しました。
仲間達も出来ればユウキ様にお仕えしたかったと残念がっていました。
新たな私達の主人となった白竜族の方々も温厚で公平な方々でした。
私達にしたい仕事を選択する自由をくださいました。
仕事の内でやりたい仕事をやらせた方が効率がよいと。
白竜族は従属種族にそのような仕事の割り振りをするとの事でした。
第一の従属種族であるトカゲ人の方々は不満足そうでしかも私達を旨そうと公言して憚りませんでした。
恐れる私達に白竜族の方々は自分達に仕える知的種族には共食いはさせない、それは知性に対する冒涜であると仰っておられました。
きちんと従属種族に庇護を与える立派な御主人様であると仲間は褒め称えていましたがいざ仕事を選ぶ段になってその中にユウキ様達のお世話があると皆それを希望しました。
やはり皆もユウキ様を慕っていたのでしょう。
ユウキ様は自らの黒き龍鱗の眷族の再生に白竜族の方々も使って忙しくされており私達も様々な雑用を申し使って働きました。
カナ様は毎夜ユウキ様の寝所に伺う以外はユウキ様の厳命で何もする事が許されておりませんでした。
命賭けの戦の前に御子を成そうとなされているのかと聞いたところカナ様は顏を真っ赤にされて否定し毎夜魔力譲渡を受け然るべき時にユウキ様の手助けをする重要なお役目のためと教えて頂きました。
自分にはサヤカ様という心に誓った方がいるのでそんな事は絶対ないとも仰っていました。
因みにカナ様のお世話をするようになって私達の年齢を聞かれお答えしたところ、やっぱりロリコンと呟かれていました。
言葉の意味が分からずお尋ねしたところはぐらかされてしまったのでユウキ様にも聞いたところ、俺は無実だぁと仰って何も教えて頂けませんでした。
一体ロリコンってなんなのでしょう。
ユウキ様のお世話係になって最初に申し付けられたのは仕事服の縫製でした。
ユウキ様が描かれたデザインを元にメイド服というものを作りました。
メイド服が完成し着用した私達を見て第一期メイド文明の夜明けだとユウキ様が非常に感動されていましたので私達も嬉しくなりました。
カナ様は又病気がとか仰っておられましたが。
半年が過ぎ全ての準備が整い出撃の日となりました。
再生した黒い竜の眷族に乗り込むユウキ様の姿を見ていて胸が苦しくなるのを感じていました。
場合によってはユウキ様の姿を直に見るのはこれが最後になるかもしれないのです。
私は決心しました。
ユウキ様が遠い世界に帰られるというのなら一緒に連れていってもらえるようお願いしてみようと。
本来従属種族側が自分の意志で主人を替えるなど許されるはずもありません。
私達はやむを得ない事とはいえ主人を替え白竜族に受け入れてもらったばかりです。
兎人の仲間達に迷惑を掛ける事になるしユウキ様もお許しくださらないでしょう。
それでもこの胸の内の共にありたいという想いだけは伝えたいのです。
想いだけでもいつまでもユウキ様と共にある事を願って。
続きます。