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異世界無双血風録  作者: 大五郎
第17章 神竜編
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75 神竜の黄昏Ⅲ

巨神さんが間抜け過ぎるかも?

巨神は腹部を巨大な白き槍に貫かれ墜落していく。

『ガーッ!!』

荒廃した大地叩きつけられ盛大に土砂を噴き上げた。

防御膜(シールド)が明滅しながら消えていく。

腕部と腹部の傷口から洪水のように溢れ出た血液が周囲を朱に染め血の海を造っていく。

『きーさーまー、よーくーもー』

大地に横たわった巨神が間延びした怨嗟の声をぶつけてくる。

防御膜(シールド)が解け時間加速が出来なくなったようだ。

『こーろーしーてーやーるー。こーろーしーてーやーるー』

しかしボキャブラリーの少ないヤツだ。923

勇気はそう思いながら巨神の広い額に竜の鎧(ドラグーン・アーマー)改を着陸させた。

『どーこーだー、どーこーにーいーっーたー。なーにーをーすーるーつーもーりーだー』

スローモーになった眼球は竜の鎧(ドラグーン・アーマー)改の動きすら捉えられないようだ。

「こちらが速過ぎて既に聞き取れなくなっているだろうが一応教えておこうか。今からお前の脳内の記憶を検索して情報を奪うのさ。もう必要ないだろうしその巨体じゃあ回復させるだけの魔力も勿体ないから洗脳はしない。だから情報を抜き取ったら息の根を止めてやる。唯一無二の不老不死の世界の支配者になった夢でも見ながら死んでいけ」

勇気は竜の鎧(ドラグーン・アーマー)改の最後に残った副腕を抜き手のように構えて一気に額の中央部に突き込んだ。

『なーにーをーしーてーいーるー。やーめーろー』

額の痛みに竜の鎧(ドラグーン・アーマー)改の位置に気付いた巨神が払い除けようと手首から先の無くなった腕を痛みを堪えて動かそうとした。

勇気は突き入れた副腕から神経束を急速に増殖させその巨大な脳内に拡がっていき小脳を乗っ取ると腕の動きを封じた。

上がり掛けた腕が止まった。

『やーめーろー。やーめーてーく・・・』

叫びも止む。

大天使より遥かにデカイ巨神の脳内の神経ネットワークにアクセスして情報を奪うにはかなりの時間が掛かる。

巨神の全ての動きを封じた勇気はゆっくりと情報を奪っていった。



巨神から情報を奪い尽くし息の根を止め山脈の守護に戻った勇気は豪雨が吹きよせ雷鳴が轟く中、世界を包む暗雲の彼方を見つめていた。

視界は悪く遠くまで見通せはしなかったが地平線の彼方の激しい戦いの余波は収まり戦いが終わりを迎えた事を物語っていた。

山頂から見下ろせる範囲にはあれだけ生い茂っていたジャングルの木々も満ち溢れていた野性動物の姿も見えない。

地には無数のクレーターが開き荒涼とした大地が広がりそこに豪雨による洪水が土砂を押し流しながら吸い込まれていく。

この分ならクレーターは堆積物で埋まる日も遠くないだろう。

まるで世界が傷付いた身体を癒そうとしているかのようだ。

操縦席が複座になった竜の鎧(ドラグーン・アーマー)改のサブシートには加奈が座り心配そうに外を見詰めていた。

鋭敏な竜の鎧(ドラグーン・アーマー)改の目が遠く小さな白い点を捉えた。

加奈にも繋げてある魔力経路(パス)からその映像を伝える。

感覚共有で動かす竜の鎧(ドラグーン・アーマー)には外部映像装置(スクリーン)などない。

その目と微細な魔力放射による周辺感知のみが外部を見る方法である。

白い点は徐々に大きくなっていき白銀に輝く百m級の竜と数十頭の同サイズの白灰色の竜の群れになった。

武装化(アームド)した白竜王達が戻ってきたのだ。

「皆を守りきってくれたようだな」

白竜王が語り掛けてくる。

既に再生はしているが龍鱗に覆われていない竜の鎧(ドラグーン・アーマー)改の様子からこちらでも激戦があったのを察したようだ。

「大した事はない。そっちもなんとか生き延びたようだな」

「これもお主のお陰様よ。巨神の一体が最終局面で抜けたのが大きかった。こっちに向かっていて心配はしていたがお主が倒したのだろう?お主に操られたとおぼしき大天使の一体が捨て身で陽動してくれたのにも助けられた」

「こっちは戦場の目が無くなって最後がどういう結果になったの分からず気になっていた。なまじ干渉したために戦場の白竜族が全滅していたら夢見が悪過ぎるからな」

「ウム、最後まで生き残った巨竜王と巨神の主神とその側近の戦いで巨竜王と主神は一騎討ち、我らはその側近の相手をしていた。そこに一体だけで舞い戻ってきた大天使が背後から側近を攻撃して返り討ちにあったが注意が逸れた隙をついて倒し損害を少なくする事が出来た。一騎討ちの方は巨竜王が辛うじて勝利したが深手を負って予知の通り生き残りの翼竜(ワイバーン)を引き連れ戦場から去っていった。死力を尽くして戦い魔力を使いきった状態であれだけの傷を癒すには巨竜には仮死睡眠に入るぐらいしか手はないが同族による覚醒魔法がない状況で眠りにつけば身体自体は自然治癒でいずれ治るとしても永劫に目覚める事もないだろう」

「そうか、巨神が一体抜けても巨竜族の運命は変わらなかったようだな。巨神族も全滅の運命からは逃れられなかったか。大空洞に残った以外で生き残った白竜族はこれだけか?」

「ウム、戦闘に参加した三百の内生き残ったのは後ろの三十体のみ。随分死なせてしまった。あれだけの激烈な戦いの中でこれだけ生き延びられただけでも曉幸だがな」

「取り敢えず場所(・・)を移す。構わないか?」

「構わんが?」

意味を掴みかねた白竜王がそれでも了承の言葉を返した。

その途端再び山脈全体が滞空していた白竜達ごと防御膜(シールド)に包まれた。

風雨が遮断され周囲が静寂に包まれた。

そして世界が早回りを始める。

豪雨が降り頻る薄暗い昼があっという間に星明かりの閉ざされた宵闇に切り替わっていく。

又薄暗い昼になり夜になっていった。

それが交互に繰り返され時に防御膜(シールド)の外が滝のような豪雨に包まれ暗闇が暫く続きそこに白いものが混じり始める。

「こ、これは・・・」

白竜王が驚愕に目を見開き後方に整然と控えていた白竜達も動揺してキョロキョロと防御膜(シールド)の外の様子に目をやっている。

「巨神を倒した時に防御膜(シールド)内での時間制御技術を手に入れた。巨神達はそれを時間加速に使っていたが逆に時間遅延に使えばこうなる。外は気象激変で巨大台風や豪雪が襲い掛かってきているようだがこれなら環境が安定した時代まで一気に行ける」

「最早なんでもありだな、お主は・・・」

白竜王が呆れたように言った。

外の景色は白に覆われる事が多くなり宵闇との入れ替わりの間隔が短くなり遂には混じり合って灰色が延々と続いていった。

その期間が長く続いたがやがて徐々に薄い青が混じり始め視界も拡がっていく。

「ここら辺りで良さそうだな」

勇気の呟きと共に昼と夜の移り替わりが戻ってきて段々その間隔が長くなっていった。

既に昼には豪雨はなく時に白い雪が混じる事はあっても空に青空が広がるようになり夜にも星明かりが戻ってきていた。

勇気は昼が来たタイミングで防御膜(シールド)を解いた。

途端に凍てつく冷風が吹き周囲の気温が下がっていく。

山頂で元々気温は低かったが更に低下している。

「大戦から大体三百年経過というところだ。寒冷化しているようだな」

と言っても地上では熱帯から温暖な気候に変わったといったところだろう。

空には雲ひとつない青空が広がっていた。

地上を見下ろすと無数に開いていたクレーターに雨水が溜まり湖となりその周りには僅かながら緑が戻ってきていた。

世界は再生の時を迎えつつあった。

「それじゃこれで契約は完了という事でいいな」

竜の鎧(ドラグーン・アーマー)改に防御膜(シールド)を張り直し確認する。

荒れ果てた大地が体感ではほんの僅かの間に回復中の姿に戻った驚きで言葉を失っていた白竜王が慌てて返答した。

「ウ、ウム、それでこの後お主はどうするつもりかの」

「どうするとは?」

「・・・我らを滅ぼすつもりではないのか?」

「何故そう思う?そんなつもりがあるなら戦場で支援して白竜族の生き残りを増やすようなマネはしないだろ」

「未来視で見た未来において大空洞は破壊され我らは滅びていた。お主らの未来では大空洞とトカゲ人(リザードマン)だけが残っているだけだった。我ら白竜族の寿命は長い。生き延びてしまった以上巨竜王のように百万年の時を乗り越える可能性は高いだろう。そうなれば百万年後の人類だけがこの惑星で繁栄しているというお主らの来た世界の歴史が変わってしまう。その未来を守るなら最低限まで力の落ちた今の我らを排除するのが確実だ。我らが未来を変えてでも滅亡に抗うのを知っていれば尚更の事。我らを大戦による滅亡から救うという約定を結んだのも大空洞を守るのに都合がよかったためだ。お主は約定は守るが必要があればどんな非情な手段を取る事も最初に加奈を調べた時に情報は得ている。それに我らがお主をはね除ければそれは正史となる。我らにチャンスを与えるために戦力を残してくれたのだろう?」

「ハハハッ、さすが叡知の白竜だ。確かにその可能性も考慮はしていた。だがそこまで読んでいるならそちらも隠し玉の一つも用意しているだろう。それだけの戦力が残っている状態で隠し玉もあるなら些かに分が悪い。無理に戦うより楽な手段を取らせてもらうよ」

白竜達に緊張が走った。

遥か未来において巨竜王を倒しこの大戦でも巨神を一対一で倒ししかもまだ膨大な魔力を有している勇気と長い戦いで疲れ果て魔力も尽き掛けている彼らでは本当は勝負にすらならない事は分かっていた。

更に勇気が一旦敵対したらどんな汚ない手を使ってでも敵を倒す事を知っていた。

敵に回せばこれ程恐ろしい相手もいないだろう。

「楽な手とは?」

「棚上げにする」

「何?そんな事が出来るのか?」

「俺と加奈は時間遅延を使って元の時代まで戻る。その時地上の状況を監視しながら戻るから白竜族が勝手に滅びるなら楽でいいし暴走しそうになったらその時に滅ぼしてもいい。常に俺の目が光っていると思っていてくれ。まあ大空洞に出来るだけ避難させた人類の原種に要らぬ干渉をしたり巨竜族のような暴君にならなければ手を出すつもりはないから安心してくれ。無理だとは思うがそれで百万年の時を乗り越えられたならこの世界はお前達のものだ。その場合お前達を助けた俺達がいなければタイムパラドックスが起きるから俺達が来た未来は別の時間線上にあるパラレルワールドであると考えるべきだ。だからそのときは改めて元来た世界に戻る方法を探すさ」

「本当にそれでいいのか?」

「この世界に人類がいなければ召喚された者達の悲劇もなくそのまま自分の世界で幸せに暮らす事になるだろう。それならそれでいいような気もするしな。さてここに長く留まっていたら暴発するヤツが出るかもしれない。折角平和的に別れられるんだからこのまま行くかせてもらおう。ツォウリ達の事は頼んだ。お前達も精々頑張って俺の予想を裏切ってくれよな」

勇気は竜の鎧(ドラグーン・アーマー)改を飛び立たせ成層圏に向けて加速を掛けていく。

「ウム、勇者どの、これからの我らの歩みを見届けてくれ」

白竜王は青空の中上昇していく勇気達を見上げながら呟いた。

続きます。

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