小話1 シオン先生の語学講座
暫くまったりです。
「さて、レインディア王国の文官、武官の皆さん、私がこの語学講座の講師を務めるシオンです。一部 魔導師からは『齢数百歳の伝説の大魔導師』などと呼ばれていますがそれは間違いです。以後、『永遠の18歳の伝説の大魔導師』と呼ぶように。『永遠の』が消えれば尚結構です」
『18歳の伝説の大魔導師』って何だよ!
実体が正しく伝わらねぇーよ!
受講生全員が心の中で突っ込んだ。
しかし渋るシオンに講師を頼んだ手前あからさまに文句が言えない。
「ウィットでエスプリに富んだ冗句で和んで頂いたので・・・」
和んでねぇーよ!
むしろピリピリしているよ!
以下同上。
「・・・ここ大空洞で使われている古代の少数民族の言語について早速テストします。百点取れなかった人は容赦なく振り落としますので覚悟してください」
「すみません。まだ何も教えて頂いていないのですが・・・」
ルシア王女が手を挙げ発言する。
「(チッ、気付いたか)まあ!私としたことが。それではルシア王女、ちょうどいいので前に出て来てください」
「はい?」
何をするのか分からず怪訝な表情をするが大人しくシオンの前まで歩いていく。
「それでは始めます。動かないでくださいね」
シオンはルシア王女の首を抱き締めるように両腕を回し顔を近づけた。
「エッ!?エッ!?」
目の前に近づくシオンの顔に普段は冷静沈着なルシア王女が慌てた。
「大丈夫です。何も心配ありません」
艶めかしいシオンの唇がルシア王女の唇に近づいていく。
「ちょ、ちょっとお待ちになって・・・」
制止を無視して二つの唇が重なる。
・・・三分経過。
唇が糸をひき離れていく。
ルシア王女は目がトローンと陶酔状態で身体中の力が抜けていた。
「ん、ご馳走様」
シオンが満足そうににこやかに言った。
その声に正気に戻ったルシア王女の顔が朱に染まった。
「な、何をなさるのです!」
普段は自分の貞操さえ交渉の道具に使っても平然としているルシア王女が動揺している。
意外とウブなのかもしれない。
「魔力の 経路を通して私が古代の少数民族の言語を覚えた時の記憶そのものを流し込んだのさ。気持ちよかっただろ?」
口調が普段のものに戻っている。
「は、破廉恥です。女同士で接吻など。それにこんな方法で言語を覚えられるはずが・・・?」
「分かるようになっているだろう?ちまちま教えるなんて性に合わない」
「・・・分かりました。効果は認めます」
ルシア王女は引き下がった。
「さて、次に覚えたい者は・・・・」
「はい!はい!はい!」
「はい!はい!是非お願いします!」
「はい!素晴らしいです。こんな気持ちのいい講義があったなんて!」
「はい!シオン様、愛しています。私の想いを・・・」
「えーい、下郎ども下がれ。ルシア姫様と間接キッスをするのは俺だ!」
「俺が先だ!どけ!どけ!どけ!ぶっ殺すぞ!」
「剣にかけ武門にかけここは譲れん!」
「騎士道とは死ぬことと見つけたり!」
「脳筋ども!力づくとは汚いぞ!」
レインディア王国の文官、武官がシオンの前に詰め掛けてくる。
「はーい、順番に並んで並んで。全員に教えてやるから慌てないように」
シオンが冷静に捌いていく。
どこから出したのか整理番号が記入された籤を出して言った。
「一回200ガルだ。再抽選は認めないよ」
レインディア王国から謝礼は出るはずなのにちゃっかり商売をしている。
やがてシオンの前にズラリと受講生達が整列した。
「いやー、皆勉強熱心で感心、感心。先生は嬉しいよ」
シオンが心にもないことを言う。
「さてと、ユウキ~!ちょっといいか?」
並んでいる受講生達の顔に不可解という表情が浮かんだ。
「なんだ?」
勇気が講義室の入り口から顔を出した。
「魔法の練習だ。以前ユウキにこの大洞窟の言語記憶を流し込んだろ。あれをコイツらに施してやってくれ」
「エーッ、あれって相手に接触しないといけないから男相手だとキモイぞ」
「ガタガタ言うな。反復訓練も重要なんだ」
「仕方ないなぁ。おい、お前ら下がるな。いらん手間が掛かるだろ。俺だって嫌だが我慢しろ」
受講生達の顔が青くなっていた。
ルシア王女と同席していたライザ王女が興味津々に見ている。
施術後ぐったりと疲れた受講生達がシオンにぼったくられたことを思い出したのは翌日のことであった。
なお返金要求は勇者への謝礼として認めずちゃっかり着服したとかしなかったとか。
シオンはバイです。
でも男は勇者以外に声を掛けません。