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異世界無双血風録  作者: 大五郎
第17章 神竜編
108/119

73 神竜の黄昏Ⅰ

この章のクライマックスのつもりです。

見渡す地平線は遥か彼方にあった。

山裾から広がる緑の絨毯はそこまで遠く続いている。

山頂に立つ全長二十mの人型。

全身を黒い龍鱗の装甲で覆い頭部は竜の咢を模し両腕両脚の外側に円筒状の筒が装着されている。

再建された竜の鎧(ドラグーン・アーマー)改であった。

その周囲には数百頭の白竜達の姿があった。

「・・・この半年間で既に我らが白竜族の幼生体も庇護下にある従属種族の者達も大空洞への避難を完了した。出来るだけこの世界の動植物もサンプルとして運び込んだ。我らはこれより戦場に向かう。後は任せたぞ!」

白竜王の命令一下全白竜達が魔力光に包まれていく。

そして光が消えた後には金属的な質感を持つ白銀に輝く百m級の竜と数百頭の同サイズで同質感の白灰色の竜の群れがあった。

武装化(アームド)

膨大な魔力を体表に集積し巨竜の龍鱗に匹敵する護りを誇る白竜族の魔法である。

これあるが故に巨竜族は白竜族を戦力と見なし巨神族は巨竜族には劣るが脅威と見る。

武装化(アームド)した白竜群は一斉に飛び立ち白銀に輝く白竜王を先頭に戦場に向かって飛んでいく。

そして神竜大戦が始まった。


最初は地平線の彼方で瞬く光があった。

次に轟音が鳴り響き熱波がジャングルを焼き尽くしながら山脈まで吹き寄せてくる。

麓の石造りの街並みも木葉のように吹き飛ばされその後に続く激震が大地を均し瓦礫を呑み込み文明の痕跡を消し去っていく。

竜の鎧(ドラグーン・アーマー)改に搭乗した勇気は山脈の山肌に沿って絶対防御膜を張り巡らし内部の大空洞を激震から守っていた。

巨竜族と巨神族の注意を引かないため麓の街は見捨てる事が決まっていた。

表面的な被害は無視してギリギリまで為す術もなく壊滅した擬態を続け大空洞を守りぬく。

それが基本方針であった。

戦いは苛烈さを増しているようだ。

彼方から広がった暗雲は忽ちの内に世界を覆い尽くし絶え間なく熱波が吹き荒ぶ。

大河は蒸発し海は干上がり大地は焼けた地肌を晒していた。

そこに巨神の光槍(レーザージャベリン)と巨竜の光の吐息(ブレス)の流れ弾が飛んできて突き刺さりキノコ雲を立ち昇らせ爆炎と爆風を撒き散らしていく。

戦場から遠く離れた地でもこの有様である。

主戦場で放たれている力の大きさや多さは厖大なものになっているだろう。

勇気は防御膜(シールド)を維持しながら崩壊する世界を山頂から俯瞰していた。

強大な力を持った存在が傲慢に振舞った挙句に辿り着いた破滅の世界。

奴らはこんな世界を望んでいたのだろうか?

奴らは多くの眷属や従属種族を巻き込み今も互いに殺し合っている。

「愚かしい事だな・・・」

勇気は一人呟いた。


戦いは一週間を過ぎてもまだ続いていた。。

山腹にはこの山脈を吹き飛ばすに足る流れ弾が数十発撃ち込まれていたが全て防御膜(シールド)で防ぎきっていた。

白竜王の話しでは未来視で見えた大戦の全てにおいて戦いは十日以上続いた事はなかったそうなので後三、四日持たせればミッションクリアである。

この一週間大空洞内の加奈に一時的に防御膜(シールド)の維持を任せて竜の鎧(ドラグーン・アーマー)改に搭乗したまま仮眠を取っていたがそんな窮屈な思いも終わりが見えてきた。

しかしこれだけ流れ弾を受けて山脈が無事であるという異常に気付く者がそろそろ現れる頃合いだ。

戦いも終盤に近付いて巨神族も巨竜族も互いに数が少なくなっている頃合いでもある。

他の事に構っていられる状態ではないはずだがそれでも来る者は来るだろう。

勇気は気を引き締め直した。

『ユウキ様、そちらの状況はどうですか?』

ツォウリから通信用魔道具で定期連絡が入る。

ツォウリ達は白竜族の従属種族としてその庇護下に入っていた。

取り敢えずこの防衛戦が終わるまでは勇気達の雑用係りに回され大空洞内で加奈のサポートをしていた。

「加奈の様子はどうだ?無理はしている様子はないか?」

『カナ様は現在就寝中です。就寝前の御様子は変わりありませんでした』

「そうか。事前に俺から譲渡しておいた魔力は厖大なものだがいずれは尽きる。俺にもしもの事があったら加奈だけがその大空洞の生命線だ。緊急時以外は無理をさせずなるだけ寝かせて自前分の魔力だけでも回復に努めさせてくれ」

『分かりました。・・・それでユウキ様、この戦いが終わったらどうなされるのです?』

「その質問はフラグが立つから止めて」

『エッ?』

「・・・いや、何でもない。この戦いが終わったら俺と加奈は元の世界に帰る。もう二度とこの世界に来る事もないだろう」

『ユウキ様・・・、それではもう二度と会えなくなるのでしょうか』

「そうなるな。傲慢な暴君である巨神族と巨神族がいなくなればこの世界も少しは住み易くなるだろう。白竜族は理性的で傲慢な暴君達に迷惑を受け続けその末路も見ているから無体な事はしないだろう」

『そんな事はいいのです。いえ良くはないのですが私はユウキ様とずっと一緒にいたいです。連れていってもらえませんか』

「駄目だ。というか無理だ。帰還の最終段階で俺は誰も連れていく事が出来ない方法で元の世界に帰る事になる」

『それだけの力をお持ちのユウキ様でも出来ない事があるのですか』

「出来ない事だらけさ。俺の力は多くの犠牲の上に成り立っているし絶対的なものではない。真に絶対的な力があれば巨神族も巨竜族も俺一人で始末するところだ。そうすれば白竜族に犠牲を出させず済んだし世界をここまで破壊される事もなかったろう。両種族に従って参戦していた地上の従属種族達はほば全滅だろうし空を舞う天使や翼竜(ワイバーン)達もどのぐらい生き残っているのやら。俺に出来るのは精々世界に比べればちっぽけなこの方舟を守る事ぐらいさ」

『ユウキ様・・・』

自嘲する勇気にツォウリは心配そうに声を掛ける。

「・・・そういう訳で無理なものは無理だ。ツォウリは苦楽を共にし生き延びた仲間達と生きろ。そのための道は切り開いてやる。俺に出来るのはそのぐらいだ」

「・・・分かりました。無理を言って申し訳ありません。それではユウキ様が故郷に無事辿り着けるよう祈る事をお許しください。非力な私ですがその思いだけでもユウキ様と御一緒させてください」

「分かった。そのためにも是が非でもここを切り抜けないとな」

勇気は地平線の彼方からこちらに向かってくる一体の巨神と数体の大天使を捉えた。

どうやらここが正念場になりそうであった。





続きます。

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